怒りの葡萄(読み)イカリノブドウ(英語表記)The Grapes of Wrath

デジタル大辞泉 「怒りの葡萄」の意味・読み・例文・類語

いかりのぶどう〔いかりのブダウ〕【怒りの葡萄】

原題The Grapes of Wrathスタインベック小説。1939年刊。1930年代の不況下、カリフォルニアへの移住農民ジョード一家の苛酷な運命を描く。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「怒りの葡萄」の意味・わかりやすい解説

怒りの葡萄
いかりのぶどう
The Grapes of Wrath

アメリカの作家ジョン・スタインベックの長編小説。1939年刊。1930年代の経済不況を背景に、オクラホマ州小作地から追い立てられ、カリフォルニアに楽園を夢み、流れて行く季節労務者ジョード一家を描く。ユダヤ民族がエジプト捕虜となり、故郷カナーンの楽園を求めて苦しむ『出エジプト記』を踏まえ、資本主義社会の矛盾、機械文明への否定、政治参加、社会意識の目覚めをはらむ。史実をもとにしていたため記録小説とみなされ、反響が大きく、ベストセラーとなったが、アメリカの伝統的農本主義に根ざす作品。文明に背を向け、素朴単純な原始社会への回帰を求める作者の願いが象徴となり、ちりばめられている。

[稲澤秀夫]

映画

アメリカ映画。監督ジョン・フォード。1940年作品。1940年にピュリッツァー賞受賞したジョン・スタインベックの同名小説の映画化作品。フォードが文学作品を約1時間半の映像芸術へと詩的に翻訳した秀作であり、後の詩的リアリズム手法に大きな影響を与えた、映画史上画期的な作品の一つ。1960年代から1970年代にかけてフランスで起きたヌーベル・バーグの作家主義批評によって、フォード監督の作家性が再評価される基点となった作品でもある。荒々しく広大なアメリカの大地と自然のロングショットと、ナレーションのない沈黙との並置、光と影の構図を巧みに使い、資本と労働、家族と社会、社会構造とそこに根付く不条理とを、映像言語で雄弁に語っている。主演のヘンリー・フォンダは「フォード映画」の顔ともいうべき代表的俳優の一人。1940年のアカデミー監督賞作品。1963年(昭和38)日本公開。

[堤龍一郎]

『大橋健三郎訳『怒りのぶどう』(岩波文庫)』

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世界大百科事典 第2版 「怒りの葡萄」の意味・わかりやすい解説

いかりのぶどう【怒りの葡萄 The Grapes of Wrath】

アメリカの作家スタインベックの小説。1939年刊。作者のみならず1930年代のアメリカ文学を代表する記念碑的小説として,40年のピュリッツァー賞を受賞した。1930年代末に南部アメリカを襲った干ばつと砂嵐を契機に機械化農法を導入した資本家たちと,そのために土地を追われてカリフォルニアに移住した貧窮農民集団との軋轢闘争が素材。この巨大な事実を描くに当たって作者は,移動農民ジョード一家の運命を軸にして作品に筋の統一と劇的な起伏を与えるとともに,農民集団の動静を具象的に描写する章とほぼ交互して,彼らを包摂して動いてゆくアメリカ社会そのものの姿を簡潔に叙述する短章を有機的に挿入する。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「怒りの葡萄」の意味・わかりやすい解説

怒りの葡萄
いかりのぶどう
The Grapes of Wrath

アメリカ合衆国の小説家ジョン・E.スタインベックの小説。1939年刊。オクラホマの農民ジョード一家は干魃と大資本の進出のために土地を追われ,ぼろ自動車に乗って豊かな土地と目されているカリフォルニアへ移住する。苦しい旅の途中,老齢の祖父母は死に,カリフォルニアでの生活も予想とは違って悲惨をきわめ,移住民たちは農業資本家に翻弄される。このような物語を軸に,1930年代の不況下の状況をとらえた短章を挿入し,広い視野のもとに農民の生活を描き上げた秀作。激しい社会批判のゆえに多大の反響を呼んだ。ピュリッツァー賞受賞。

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百科事典マイペディア 「怒りの葡萄」の意味・わかりやすい解説

怒りの葡萄【いかりのぶどう】

スタインベックの長編小説。《The Grapes of Wrath》。1939年刊。オクラホマの砂嵐(すなあらし)地帯から,ジョードの一家はぼろ自動車でカリフォルニアへ向かう。しかし移住農民が経験するのは苛酷(かこく)な労働と地主の搾取,天災であった。その苦しみの中で母親は,生き続ける決意をする。社会問題を告発した作品。1940年ピュリッツァー賞受賞。
→関連項目オクラホマ[州]

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デジタル大辞泉プラス 「怒りの葡萄」の解説

怒りの葡萄

①ジョン・スタインベックの小説。1939年刊。1930年代の不況下、カリフォルニアへの移住農民ジョード一家の苛酷な運命を描く。ピュリッツァー賞受賞。
②①を原作とした1940年製作のアメリカ映画。原題《The Grapes of Wrath》。監督:ジョン・フォード、出演:ヘンリー・フォンダ、ジェーン・ダーウェル、ジョン・キャラダインほか。第13回米国アカデミー賞作品賞ノミネート。同監督賞、助演女優賞(ジェーン・ダーウェル)受賞。
③1988年初演のフランク・ガラチによる戯曲。原題《The Grapes of Wrath》。①を原作とする。1990年に第44回トニー賞(演劇作品賞)を受賞。

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世界大百科事典内の怒りの葡萄の言及

【アメリカ合衆国】より

…それまでは耕作不可能と思われていた高原地帯も,農業技術の進歩によって十分耕作できるようになったためである。カリフォルニアは西部開拓時代から多くの人びとが憧れた土地で,1930年代にアメリカ中央部の農村が不況と不作に襲われたときも,スタインベックの《怒りの葡萄》(1939)に描かれたように,多くの農民がこのカリフォルニアに移住した。カリフォルニアにも南東部には広大な砂漠地帯があるが,それでもなお全体としては夏涼しく冬暖かい気候,サクラメント川やサン・ワキーン川の沃野,山岳,海岸の自然美など,〈ゴールデン・ステート〉とよばれるのにふさわしい魅力をそなえている。…

【オクラホマ[州]】より

…経済の中心は農牧業と石油で,小麦(全米2位,1980),綿花,モロコシ,ピーナッツ,豆類などの大規模栽培が行われる。1930年代の干ばつ時にカリフォルニアへ流出した農民の姿は,スタインベックの小説《怒りの葡萄》(1939)によって知られる。産油量は全米6位(1980)で,20世紀に入って始まった油田開発を契機に,大都市では石油精製,機械,金属,食品加工などの工業が立地する。…

【フォンダ】より

…1929年から端役でブロードウェーの舞台に立ち,《ニュー・フェース》につづく《農夫の妻》(1934)の主役を演じて注目を浴び,その映画化作品《運河のそよ風》(1935)でスクリーンにデビュー。ヘンリー・ハサウェー監督《丘の一本松》(1936),フリッツ・ラング監督《暗黒街の弾痕》(1937),ウィリアム・ワイラー監督《黒蘭の女》(1938),ジョン・フォード監督《若き日のリンカーン》(1939),《怒りの葡萄》(1940)などで〈アメリカの小さな良心〉を体現し,演技力のあるスターとして注目される。42年,海軍に志願して服役したあと,ジョン・フォード監督《荒野の決闘》(1946),《アパッチ砦》(1948)などに出演。…

※「怒りの葡萄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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