男根や女陰に特別な霊力のこもることを認めて崇拝する現象は,人類文化に共通している。東アジア世界には,陰陽和合の思想が発達している。これは,男女の性行為は,世界の秩序に調和をもたらすという考え方にもとづいている。また,インド,ネパール,インドネシアなどヒンドゥー文化圏の各地では,ヒンドゥー教の主神の一つであるシバ神を象徴した男根像をまつって,多産や豊穣を祈願する風習が顕著にみられる。
日本の民俗文化のなかにも,男女の生殖器を御神体とする民間信仰が多くみられる。岩手県遠野地方に,男根を神体とし,信者たちは毎年男根形のものを奉納するという駒形神社がある。神社縁起によると,昔5月の田植の最中,一人の男が背中に目鼻のないのっぺりした赤子をおぶって通りかかった。実はこれは男の巨根であった。男がそこで休むと,早乙女たちが男を親切にもてなした。そこで,男は住みつき,いよいよ死ぬとき,この地で女人の守護神になると遺言を残したので,死後神社にまつられたというのである。御神体の男根は,生殖作用を強めるといい,子授けに霊験あらたかであると一般には説かれている。
人間の生殖は,農耕社会の豊穣に反映するという原初的な信仰があり,農耕儀礼のなかに,しばしば性器崇拝がとり込められている。とくに正月15日前後に性的要素が濃厚に表出している。この時期は,農作業が開始される以前に,予祝の意味で呪的儀礼が行われる。境の神である道祖神祭はおもに子供組によって行われ,小正月の火祭(左義長)として定着しているが,農耕祭の一環にも位置づけられている。それは道祖神の神体が性器だからである。特徴的な双体道祖神は男女2神を併祀することを原則としている。男女の性器を境に安置して,外敵を防御する呪術は,日本古代よりあり,性器の霊力が重んじられていたことがわかる。農耕社会において道祖神は,境の神であると同時に,豊穣をもたらす性神の機能を与えられているのである。
このほか,男女の生殖器に似た自然石に子宝や良縁を祈ったり,金精様(こんせいさま)とかカナマラ様とよばれる男根像に対する同様の信仰もみられる。愛知県の田県(たがた)神社の祭礼には巨大なペニスの御神体が登場するので有名であるが,祭礼に行われる芝居の服装や儀礼に誇張した男根をつける例も各地にしばしばみられる。一方,山村の狩猟民の間では,男根の怒張する形を対象に,信仰が生じている。男根が勃起することにより男の威力が生まれ,獲物を捕らえることができるという信仰は,性行為を前提としない表現であり,狩猟民独自の文化と考えられている。
執筆者:宮田 登+野口 武徳
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