恩寵(読み)おんちょう(英語表記)gratia ラテン語

精選版 日本国語大辞典 「恩寵」の意味・読み・例文・類語

おん‐ちょう【恩寵】

〘名〙
神仏君主が恵みある愛を与えること。いつくしみ。恩遇寵愛
江談抄(1111頃)三「恩寵甚深、賜姓吉備朝臣」 〔後漢書‐郭皇后紀〕
② 特に、キリスト教で神が人類に与える愛。神の恵み。
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉外「過去三十年の恩寵を上天に感謝し」

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デジタル大辞泉 「恩寵」の意味・読み・例文・類語

おん‐ちょう【恩×寵】

神や主君から受ける恵み。慈しみ。
キリスト教で、人類に対する神の恵み。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「恩寵」の意味・わかりやすい解説

恩寵
おんちょう
gratia ラテン語

神が人間に与える恵み、神の無償賜物(たまもの)のこと。聖寵ともいい、現在では恩恵といわれる。それは神の与えた対象物をさすだけではなく、与え主である神の慈しみを輝かせるものである。それとともにこの賜物を受ける人間を神の慈しみで包み込むことを意味している。『新約聖書』によれば、神の最大の恩寵は、父なる神が「自分の独子(ひとりご)を与えたるほど、この世を愛した」(「ヨハネ伝福音(ふくいん)書」3章16節)ことにある。キリスト信者はここに他のすべての賜物が含まれていると信じている。この確信は、「わたしたちすべてのために、自分の子をさえ惜しまずに死に渡された神が、どうして、御子(みこ)に添えてすべてのものをわたしたちにくださらないことがあろうか」(「ロマ書」8章32節)ということばのうちに表明されている。この恩寵はすべて神から無償で与えられたものであって、人間の功徳(くどく)によって得たものでない。神の「恩寵と真理とはイエス・キリストを通してきた」(「ヨハネ伝福音(ふくいん)書」1章17節)のであり、人間は彼を通してのみ父なる神から恵みを受けることができる。

 この事態を神学的に言い直せば、イエス・キリストの十字架と復活の救いのわざを信ずる者は「神の子」になり、神はその者に神的本質そのものを譲与する。この神の自己譲与が恩寵の第一次的本質である。しかし、この自己譲渡は、この世においてすでに信者に与えられているけれども、それは十全には外に現れていず、また、これを保つために付随的な多くの神の恩寵が必要である。これらの恵みによって、信者は神の自己譲与を忠実に守り、死後神を直観し、至福に入ることができる。

[門脇佳吉]

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世界大百科事典 第2版 「恩寵」の意味・わかりやすい解説

おんちょう【恩寵 grace】

恩恵ともいう。ギリシア語ではcharis,ラテン語ではgratia。キリスト教神学の用語としては,イエス・キリストにおいて啓示されたすべての人間に対する神の愛と慈悲を意味する。旧約時代の全体が〈律法〉という言葉に集約されるのに対して,新約時代の全体を要約する言葉は〈恩寵〉である。創造にはじまり,終末におけるキリストの再臨をもって成就される救いの歴史は,神の恩寵の受肉的展開にほかならない。キリスト教は,罪人であり,生命の源である神から断ち切られて死の状態にある人間がその罪をゆるされ,義とされて再び神との交わりに入ることができるのは,人間の側のどのような善行によるのでもなく,絶対に無償で無条件的な神の恩寵による,と教える。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「恩寵」の意味・わかりやすい解説

恩寵
おんちょう

恩恵」のページをご覧ください。

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世界大百科事典内の恩寵の言及

【優美】より

…美的範疇の一つ。崇高と対立して,ものごとの上品な優雅さを語ろうとするものだが,悲壮や滑稽や狭義の美にくらべると両極的原理相互の緊張が弱くて穏やかな調和融合をあらわすにとどまり,明確な輪郭を定めがたい概念である。その形式的特徴を挙げれば,一つは一種の魅惑にあり,これは素朴な単純さや愛らしい弱小性に由来する。もう一つは両極的原理たる自然と精神との調和という道徳的意義の発現にある。J.C.F.シラーは人間の身体運動も道徳性をはらむ精神の表現であることに着目し,感性と理性,性向と義務との全き調和を〈美しき魂schöne Seele〉と呼び,これの発現こそ優美にほかならぬとして以後の優美論の方向を定めた。…

【カトリシズム】より

…万物は神を離れては虚無であるが,全宇宙のなかで人間だけがそのことを自覚する能力をもち,この能力が人間を超越者たる神との合一にいたるまでやむことのない探求へとかりたてる。しかしこの合一は根本的に神の恩寵によるものであり,人間の本性そのものである〈超越への能力〉は〈恩寵受容性〉にほかならない。この意味での〈超越〉を証言し,弁証するところに現代思想としてのカトリシズムの意義がある。…

※「恩寵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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