出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
感染性心内膜炎(IE)とは、心臓の内側の膜(心内膜)または弁膜に
血液中に細菌が侵入して心臓内部に付着、増殖して感染巣を形成し、増大していきます。血液中に細菌が侵入する状態としては、抜歯などの歯科処置、内視鏡などによる細胞診、婦人科処置など出血を伴う処置があります。
一方、患者さん側の状態としては、弁膜症、先天性心疾患など血液の流れに乱れがあり、心内膜に荒れた部分がある場合や、人工
原因となる菌(起因菌)がわかるのは約60~70%です。
発熱は感染性心内膜炎患者の9割に起こる症状ですが、一般に他の感染症と大きく変わった初期症状はありません。
多くの患者さんが最初はかぜかと思って近くの医療機関を受診し、抗生剤の投与を受けますが、抗生剤を中止すると再び発熱するといった状態を訴えます。やがて心臓構造の破壊による心不全症状(息切れ、呼吸困難、むくみなど)や、感染巣が血流に乗って全身のどこかの血管に詰まって起こるさまざまな塞栓症(手指などの一過性の血流障害、視力障害、背部痛、手足の
塞栓症は感染の活動期に多いとされ、脳梗塞を起こした場合、約1カ月は心臓の手術をしても脳出血の合併率が高く、非常に予後が悪くなります。それでは、塞栓症状が起こる前に手術をしてしまえばよいのでしょうか?
感染が落ち着かない状態での手術は感染した部分の完全な除去が難しい場合もあり、炎症で傷んだ組織に人工弁などの異物を縫い付けることになるため、新しく植え込んだ人工弁にまた細菌が付着して炎症が再発したり、縫い付けた弁が外れてしまうこともあります。
診断にはデューク大学から提唱された診断基準が用いられます。感染性心内膜炎の診断は、血液培養陽性と心エコー(超音波)所見、または新しい弁逆流の存在により行われます。心エコー検査所見は贅腫(感染巣)、
①心エコーの重要性
通常の
これらの検査で陰性であったとしても、症状から疑いがある場合には時間をおいて(約1週間)再検査をする必要があります。心エコーによって感染巣や心臓の破壊の程度のみでなく、循環状態の程度を検査します。
②その他の検査
血液中の菌の特定、炎症状態の評価のために血液検査が行われます。心不全の有無の評価として胸のX線検査、塞栓症の有無について頭や腹部などのCT検査、眼底検査、尿検査など全身の検索が必要になります。
区別すべき疾患としては発熱、感染状態が長引く他の炎症性疾患、悪性腫瘍、血液疾患などがあげられます。
治療の原則は感染状態を鎮静化することで、原因となる細菌の特定と、この細菌に合った抗生剤を十分な量使って、早急に起因菌を撲滅する必要があります。一方、感染による心臓の破壊のために引き起こされる循環状態の悪化は、緊急に手術しなければ救命できないことも多いのですが、炎症の活動期における手術は成績が悪く、判断が難しい病気です。
症例によっては感染の活動期であっても、合併症の併発を未然に防ぐ目的で外科治療へ移行する場合もあります。基本的には機械弁を用いた人工弁
弁輪部に炎症が及んだ膿瘍症例や人工弁置換術後の症例では、感染巣の除去が不十分になる可能性があり、術式の工夫(ヒトの組織でできたホモグラフトの使用や大動脈基部置換など)が試みられますが、予後は不良です。
予後は、一般の弁置換手術の死亡率が約1%以下に対し、感染性心内膜炎では10~20%とされます。人工弁置換術後や周囲に炎症が大きく波及した場合では、さらに50~80%とする報告もあります。
病気の重症度にもよりますが、内科を受診して入院し、起因菌に対して感受性のある十分な量の抗生剤による治療を行います。抗生剤による治療の効果が不良な場合やアレルギーなどで抗生剤が十分に使えない場合には、手術可能な病院への転送が必要になります。
しかし、脳出血などの合併症のある症例では手術は困難で、予後は不良であると予想されます。病気の活動性、心臓構造破壊の程度、塞栓症の有無が予後を左右するので、主治医から十分な説明を受けることが重要です。
芦原 京美
感染性心内膜炎とは、心臓の
健常な人では起こりにくいのですが、心臓弁膜症・人工弁
原因菌としては、
具体的な心臓の基礎疾患としては僧帽弁(そうぼうべん)閉鎖不全症、僧帽弁逸脱(いつだつ)症候群、大動脈弁閉鎖不全症、心室中隔(しんしつちゅうかく)欠損症、動脈管開存症、ファロー四徴症、閉塞性肥大型心筋症などがあります。
また、一過性の菌血症を起こす検査・処置としては、出血を伴う歯科治療、
発熱のほか、全身
そのほか、手のひらの発疹、爪の下の線状出血、四肢末梢の結節(オスラー痛斑)などが認められることがあります。重篤な合併症として、心不全を来したり、感染性動脈瘤をつくり破裂して出血を起こしたりすることがあります。聴診では主に逆流性の心雑音が聴取されます。
感染性心内膜炎が疑われる場合、いちばん重要な検査は血液培養です。抗菌薬が使用されていない状況であれば、ほとんどの場合で血液培養が陽性になります。24時間以内に3セットの検体を採取し、原因菌を同定します。
心臓の超音波検査(エコー)を行うと、疣贅が認められます。経胸壁エコーよりも経食道エコーのほうが感度が高いとされています。
一般検査では、白血球増多、赤沈亢進、CRPなどの炎症反応が陽性となるほか、尿検査異常、貧血、高ガンマグロブリン血症が認められたり、リウマチ因子が陽性になることもあります。
原因菌に感受性のある抗生物質を大量かつ長期的に使用します。緑色連鎖球菌にはペニシリンを使用しますが、アミノグリコシド系抗生物質を併用することがあります。ペニシリンアレルギーの既往のある人や人工弁の症例では、バンコマイシンを用います。
心不全が悪化する場合、原因菌が
この病気は予防が重要になります。先に述べた心臓疾患のある人が歯科的処置などを受ける場合には、ペニシリンなどによる予防投与が必要です。
加藤 哲朗, 柴 孝也
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
…後者には免疫機序によって発症したリウマチ性心内膜炎,全身性エリテマトーデスにみられる非定型的心内膜炎などがある。しかし一般的に心内膜炎という場合,感染性心内膜炎,とくに細菌性心内膜炎bacterial endocarditisをさしていうことが多く,以下細菌性心内膜炎について述べる。 起炎菌としては病原性の比較的弱い緑色連鎖球菌によるものが半数近く認められ,次いで強毒性の黄色ブドウ球菌によるものがみられる。…
※「感染性心内膜炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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