精選版 日本国語大辞典 「憲兵」の意味・読み・例文・類語
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軍隊内の法秩序維持をおもな任務とする軍隊の兵科の一つで、軍に関する司法・行政警察機能を担う。一般的には、軍人の犯罪を防止し、捜査し、逮捕すること、営倉を管理・運営すること、および軍事施設を防護することが業務の中心であるが、国によっては交通の統制や対諜報(ちょうほう)活動を行い、必要に応じて歩兵として戦闘に参加することもある。憲兵の歴史は古く、アレクサンドロス大王の大遠征当時すでに存在したといわれるが、現代の各国の憲兵制度にかかわりをもつのはヨーロッパ中世のものである。中世においては、憲兵の任務を行う軍人はプロボーprovostとよばれる憲兵将校であった。通常、憲兵将校は、臨時に選抜された兵士で編成される憲兵隊provost guardを指揮する非常勤の任務であったが、常任の憲兵将校も少数ながらすでに存在していた。
イギリスにおいては、憲兵隊の長はプロボー・マーシャルprovost marshalという憲兵司令官で、イギリス軍隊最古の官職とされている。その起源は11世紀にまでさかのぼることができるが、確実なものとしては、1511年にヘンリー8世が憲兵司令官を任命した記録が残っている。それ以来、憲兵はおもに軍の秩序維持と軍機の保護にあたってきたが、軍隊の役割の変化に伴いその任務も多様化した。1877年に騎馬憲兵隊が、85年には歩兵憲兵隊が創設され、1926年に双方が統合された。第二次世界大戦以降は、要防空重要地点の防御、交通の統制、特殊捜査を担当する三つの憲兵隊が組織され、大戦中の活動に対する報償として「ローヤル」の呼称が与えられている。フランスには、中世の選抜された兵士による近衛(このえ)騎兵(ジャンダルム)の伝統を引くジャンダルムリgendarmerieとよばれる憲兵隊がある。
ロシアでは、帝政ロシア時代の17世紀に憲兵隊が創設されたが、19世紀初めにジャンダルムリにかわり、1917年のロシア革命で廃止された。現在は独立した憲兵隊をもたず、内務省に所属する国内軍や国境警備隊などが憲兵の機能を果たしているといわれる。
ヨーロッパ大陸以外の多くの国では、イギリスおよびアメリカの憲兵制度を取り入れている。イギリス連邦諸国はイギリスの、ラテンアメリカ諸国および日本の自衛隊はアメリカの制度に倣ったものである。
英米の憲兵は、警察官であるよりも兵士であることを強調する。この点で、公共の安全により深く関与するフランスのジャンダルムリなどとは性格を異にする。
[亀野邁夫]
旧日本陸軍七兵科の一つ。1881年(明治14)3月、フランスの憲兵制度を模範にして制定された憲兵条例は、憲兵の役割を「陸軍大臣ノ管掌ニ属シ主トシテ軍事警察ヲ掌(つかさど)リ兼テ行政警察司法警察ヲ掌ル」(1条)と規定した。主要任務は軍隊内の犯罪調査、思想取締りなどにあったが、海軍・内務・司法の3省に兼任隷属して軍事行政警察、軍事司法警察としての役割も担った。軍事行政警察とは軍事行政や統帥(とうすい)権の執行の補助を目的とし、その内容は軍機保護、軍港・要港・徴兵・鉄道・服役・召集・戒厳などに関する法令の執行、軍紀・風紀の維持など広範囲にわたった。軍事司法警察とは軍人・軍属関係者の犯罪調査、令状の執行などの業務をさした。
創設当初憲兵は1600人程度であったが、1890年代に入ると大規模な増員が行われ、この結果憲兵は全国の市町村にまで配置されることになった。同時に、憲兵の権限行使に関する法的規制があいまいであったことから、憲兵はしだいに一般警察の管掌事項であった公安維持の領域にまで活動範囲を拡大していった。たとえば、明治時代には選挙騒擾(そうじょう)事件(1892)、足尾(あしお)銅山鉱毒事件(1900.1907)、日比谷(ひびや)焼打事件(1905)、大正時代には護憲運動(1912)、米騒動(1918)、八幡(やはた)製鉄所罷業(1920)などに憲兵が出動し、労働者・民衆鎮圧の先頭にたった。一方、朝鮮・台湾など植民地民族への暴力的抑圧装置としてもその威力を発揮した。
大正末期から昭和期にかけて社会運動の高揚に伴い、憲兵は軍隊赤化防止や、それの一般民衆への影響を断絶する目的で、思想取締りを重要な任務とするに至った。1924年(大正13)5月、陸軍大臣宇垣一成(うがきかずしげ)は、憲兵隊長会議の席上、「平戦両略ヲ通シ軍ノ存在ヲ危殆(きたい)ナラシムル各種ノ企画ニ対シ捜査警防ノ全キヲ期スルハ主トシテ憲兵ノ努力スヘキ所ニシテ軍事警察ノ主眼実ニ此(ここ)ニ在リ」と訓示した。ここでは憲兵が国家警察機関的立場から治安対策上積極的な役割を担うよう期待された。さらに日中戦争の全面化に伴い国内の戦時体制が強化されるにしたがって、憲兵は軍事機密や防諜(ぼうちょう)に強い関心を払うところとなった。敗戦時2万6000人を数えた憲兵は軍隊の解体とともに解散させられた。なお、自衛隊では警務官の職務がほぼこれに相当し、刑事訴訟上の司法警察職員の職務を相当する。
[纐纈 厚]
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軍の機密保持を理由として,主として軍人の犯罪を扱うために設けられた軍事警察官の制度。1881年(明治14)1月14日,陸軍兵科の一つとして東京に設置。同年3月11日公布の憲兵条例で憲兵は形式上陸軍内部におかれたが,海軍・内務・司法の3省にも属し,軍人であり警察官でもあるという特殊な身分であった。軍人の犯罪を取り締まるだけでなく,軍人以外の人々に対しても「国内の安寧を掌」(憲兵条例)るため,警察権を行使することができた。89年3月30日に憲兵司令部が設けられ,全国の憲兵隊を統轄。第2次大戦の敗戦による軍の崩壊まで存続し,さまざまな功罪を遺した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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固定翼機でありながら、垂直に離着陸できるアメリカ軍の主力輸送機V-22の愛称。主翼両端についたローターとエンジン部を、水平方向から垂直方向に動かすことで、ヘリコプターのような垂直離着陸やホバリング機能...
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