憲兵(読み)けんぺい(英語表記)military police

精選版 日本国語大辞典 「憲兵」の意味・読み・例文・類語

けん‐ぺい【憲兵】

〘名〙 (gendarme訳語) 軍隊兵科一つ。旧日本陸軍では陸軍大臣管轄に属し、主に軍事警察をつかさどり、行政警察司法警察をも兼ねた。明治一四年(一八八一制定
※軍制綱領(1875)〈陸軍省編〉一「此外憲兵あり。兵卒中性質技芸の優等なる者を精撰して之に充つ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「憲兵」の意味・読み・例文・類語

けん‐ぺい【憲兵】

陸軍で、軍事警察をつかさどる兵。また、その兵科。日本では明治14年(1881)に創設され、陸軍大臣の管轄に属した。のち、しだいに権限を拡大し、一般民衆の思想取り締まりを主要任務とするようになった。第二次大戦後に解体
[類語]軍人兵士兵隊兵卒つわもの戦士闘士戦闘員従卒士卒将卒精兵弱兵雑兵ぞうひょう新兵初年兵古兵ふるつわもの老兵敵兵・敗残兵・伏兵番兵歩哨斥候歩兵騎兵砲兵工兵水兵海兵セーラー

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「憲兵」の意味・わかりやすい解説

憲兵
けんぺい
military police

軍隊内の法秩序維持をおもな任務とする軍隊の兵科の一つで、軍に関する司法・行政警察機能を担う。一般的には、軍人の犯罪を防止し、捜査し、逮捕すること、営倉を管理・運営すること、および軍事施設を防護することが業務の中心であるが、国によっては交通の統制や対諜報(ちょうほう)活動を行い、必要に応じて歩兵として戦闘に参加することもある。憲兵の歴史は古く、アレクサンドロス大王の大遠征当時すでに存在したといわれるが、現代の各国の憲兵制度にかかわりをもつのはヨーロッパ中世のものである。中世においては、憲兵の任務を行う軍人はプロボーprovostとよばれる憲兵将校であった。通常、憲兵将校は、臨時に選抜された兵士で編成される憲兵隊provost guardを指揮する非常勤の任務であったが、常任の憲兵将校も少数ながらすでに存在していた。

 イギリスにおいては、憲兵隊の長はプロボー・マーシャルprovost marshalという憲兵司令官で、イギリス軍隊最古の官職とされている。その起源は11世紀にまでさかのぼることができるが、確実なものとしては、1511年にヘンリー8世が憲兵司令官を任命した記録が残っている。それ以来、憲兵はおもに軍の秩序維持と軍機の保護にあたってきたが、軍隊の役割の変化に伴いその任務も多様化した。1877年に騎馬憲兵隊が、85年には歩兵憲兵隊が創設され、1926年に双方が統合された。第二次世界大戦以降は、要防空重要地点の防御、交通の統制、特殊捜査を担当する三つの憲兵隊が組織され、大戦中の活動に対する報償として「ローヤル」の呼称が与えられている。フランスには、中世の選抜された兵士による近衛(このえ)騎兵(ジャンダルム)の伝統を引くジャンダルムリgendarmerieとよばれる憲兵隊がある。

 ロシアでは、帝政ロシア時代の17世紀に憲兵隊が創設されたが、19世紀初めにジャンダルムリにかわり、1917年のロシア革命で廃止された。現在は独立した憲兵隊をもたず、内務省に所属する国内軍や国境警備隊などが憲兵の機能を果たしているといわれる。

 ヨーロッパ大陸以外の多くの国では、イギリスおよびアメリカの憲兵制度を取り入れている。イギリス連邦諸国はイギリスの、ラテンアメリカ諸国および日本の自衛隊はアメリカの制度に倣ったものである。

 英米の憲兵は、警察官であるよりも兵士であることを強調する。この点で、公共の安全により深く関与するフランスのジャンダルムリなどとは性格を異にする。

[亀野邁夫]

日本

旧日本陸軍七兵科の一つ。1881年(明治14)3月、フランスの憲兵制度を模範にして制定された憲兵条例は、憲兵の役割を「陸軍大臣ノ管掌ニ属シ主トシテ軍事警察ヲ掌(つかさど)リ兼テ行政警察司法警察ヲ掌ル」(1条)と規定した。主要任務は軍隊内の犯罪調査、思想取締りなどにあったが、海軍・内務・司法の3省に兼任隷属して軍事行政警察、軍事司法警察としての役割も担った。軍事行政警察とは軍事行政や統帥(とうすい)権の執行の補助を目的とし、その内容は軍機保護、軍港・要港・徴兵・鉄道・服役・召集・戒厳などに関する法令の執行、軍紀・風紀の維持など広範囲にわたった。軍事司法警察とは軍人・軍属関係者の犯罪調査、令状の執行などの業務をさした。

 創設当初憲兵は1600人程度であったが、1890年代に入ると大規模な増員が行われ、この結果憲兵は全国の市町村にまで配置されることになった。同時に、憲兵の権限行使に関する法的規制があいまいであったことから、憲兵はしだいに一般警察の管掌事項であった公安維持の領域にまで活動範囲を拡大していった。たとえば、明治時代には選挙騒擾(そうじょう)事件(1892)、足尾(あしお)銅山鉱毒事件(1900.1907)、日比谷(ひびや)焼打事件(1905)、大正時代には護憲運動(1912)、米騒動(1918)、八幡(やはた)製鉄所罷業(1920)などに憲兵が出動し、労働者・民衆鎮圧の先頭にたった。一方、朝鮮・台湾など植民地民族への暴力的抑圧装置としてもその威力を発揮した。

 大正末期から昭和期にかけて社会運動の高揚に伴い、憲兵は軍隊赤化防止や、それの一般民衆への影響を断絶する目的で、思想取締りを重要な任務とするに至った。1924年(大正13)5月、陸軍大臣宇垣一成(うがきかずしげ)は、憲兵隊長会議の席上、「平戦両略ヲ通シ軍ノ存在ヲ危殆(きたい)ナラシムル各種ノ企画ニ対シ捜査警防ノ全キヲ期スルハ主トシテ憲兵ノ努力スヘキ所ニシテ軍事警察ノ主眼実ニ此(ここ)ニ在リ」と訓示した。ここでは憲兵が国家警察機関的立場から治安対策上積極的な役割を担うよう期待された。さらに日中戦争の全面化に伴い国内の戦時体制が強化されるにしたがって、憲兵は軍事機密や防諜(ぼうちょう)に強い関心を払うところとなった。敗戦時2万6000人を数えた憲兵は軍隊の解体とともに解散させられた。なお、自衛隊では警務官の職務がほぼこれに相当し、刑事訴訟上の司法警察職員の職務を相当する。

[纐纈 厚]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「憲兵」の意味・わかりやすい解説

憲兵
けんぺい
military police

軍組織内において警察活動を行い,特定の任務を果す特別部隊。通常,各国とも軍隊内部の犯罪捜査,脱走兵の逮捕,軍刑務所の管理と警備,軍交通の整理,防諜,軍事施設の警備などの任務を与えられている。イギリスの憲兵隊 Corps of Royal Military Policeが最も古い歴史をもつ (記録上は 1511年) 。アメリカの憲兵隊 Military Police Corps (MP)は,1776年に G.ワシントンが憲兵司令官を任命したのに始るが,戦時を除いて,憲兵隊が常設されるようになったのは,1941年以降であり,軍基礎部隊の一つとして法制化されたのは,50年である。旧日本陸軍では,1881年にフランスの制度にならって設置。陸軍のほか,海軍,内務,司法3省に兼属していた。 90年代には一般警察の任務である公安維持にまで進出し,以後思想取締りの任務にもあたり,1928年にはその内部に思想係を設置した。また,07年以後の朝鮮や,台湾など植民地においても,治安維持の任務にあたるなど,45年に廃止されるまで憲兵政治と呼ばれるほどの力をもっていた。現在の自衛隊には,その制度はない。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「憲兵」の意味・わかりやすい解説

憲兵【けんぺい】

旧陸軍兵科(兵種)の一つ。軍事警察を主任務とする。1881年フランスの制度にならって創立。1890年代には全国の市町村に配置され一般警察の任務である社会の公安維持にまで手を伸ばした。1918年の米騒動の時には民衆鎮圧の先頭に立ち,大正期後半の社会運動の発展に伴い思想取締りの面にも活動を広げた(甘粕事件)。1907年以後の朝鮮において憲兵は膨大な兵力をかかえ植民地民族を抑圧し,第2次大戦中も占領地や植民地において弾圧を行った。戦後占領軍によって解体された。
→関連項目花岡事件

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「憲兵」の解説

憲兵
けんぺい

軍の機密保持を理由として,主として軍人の犯罪を扱うために設けられた軍事警察官の制度。1881年(明治14)1月14日,陸軍兵科の一つとして東京に設置。同年3月11日公布の憲兵条例で憲兵は形式上陸軍内部におかれたが,海軍・内務・司法の3省にも属し,軍人であり警察官でもあるという特殊な身分であった。軍人の犯罪を取り締まるだけでなく,軍人以外の人々に対しても「国内の安寧を掌」(憲兵条例)るため,警察権を行使することができた。89年3月30日に憲兵司令部が設けられ,全国の憲兵隊を統轄。第2次大戦の敗戦による軍の崩壊まで存続し,さまざまな功罪を遺した。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典 第2版 「憲兵」の意味・わかりやすい解説

けんぺい【憲兵 military police】

英語では略称MP。軍隊はその特質上厳正な規律の維持を必要とするため,軍人には一般と異なる特別な義務が課される。この規律維持を主任務とする軍人または兵科をいう。通常は,一般警察権の及ばない軍隊内や,軍隊に関係ある行政警察,司法警察の業務を併せ行う。旧日本軍憲兵のように,国内,占領地,作戦地等の公安維持や防諜にまでも及ぶ広範な任務を担当したものから,軍隊内部の犯罪捜査,交通統制,警備または捕虜の取扱い等のうち,単一の任務を担当するものまで,国によってその実態には差異がみられる。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「憲兵」の解説

憲兵
けんぺい

明治〜昭和期,旧陸軍の軍事警察官
1881年創設。陸軍大臣の管轄で,主として軍人の軍紀・風紀を取り締まり,また行政警察・司法警察もかねた。'89年憲兵司令部が設置され,全国の憲兵隊を統轄した。特高警察とともに自由主義・社会主義を弾圧。1945年,敗戦後廃止された。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

今日のキーワード

オスプレイ

固定翼機でありながら、垂直に離着陸できるアメリカ軍の主力輸送機V-22の愛称。主翼両端についたローターとエンジン部を、水平方向から垂直方向に動かすことで、ヘリコプターのような垂直離着陸やホバリング機能...

オスプレイの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android