〈検討〉を意味するギリシア語skepsisに由来する西洋哲学用語(英語ではskepticism)の訳として用いられる語。人間的認識の主観性と相対性を強調して,人間にとって普遍的な真理を確実にとらえることは不可能だとする思想上の立場。独断論dogmatismに対する。広義にはあらゆる普遍妥当的な真理の認識可能性を否定する立場を指すが,狭義には特定の領域,例えば宗教や道徳において確実な真理に到達する可能性を否定する立場を指すのにも用いられる。このような立場は,一方では人間の思考や認識に対する否定的な態度さらにはニヒリズムにつながるが,他方では断定的な判断を避け,経験と生とを導きの糸として探究を続行しようとする実証主義的態度にもつながる。また懐疑論はつきつめていけば論理的矛盾に陥る--〈真理の認識は不可能である〉という断定は真理に関する一つの絶対的判断である--ので純粋な形では主張することができないが,それほど徹底しない場合でもそれ自身のために主張されるよりは,従来の見解を打倒するための武器あるいは疑うことのできない真理を発見するための手段(デカルトの方法的懐疑はその典型)として用いられることが多い。
西洋哲学史上,懐疑論がとくに問題になるのは古代と近世初期である。古代の懐疑派は通常三つの時期に区別される。初期にはピュロン(その名に由来するピュロニズムは懐疑論の別名となった)とその弟子ティモンTimōnがおり,彼らは何事についても確実な判断を下すのは不可能であるから,心の平静(アタラクシア)を得るためには判断の留保(エポケー)を実践すべきことを説いた。中期はプラトンゆかりの学園アカデメイアの学頭であったアルケシラオスArkesilaosとカルネアデスKarneadēsに代表される。彼らはストア主義を独断論として攻撃し,とくに後者は蓋然的知識で満足すべきことを説いた(アカデメイア派ないし新アカデメイア派の語も懐疑論者の代名詞として用いられることがある)。後期にはアイネシデモスやセクストス・ホ・エンペイリコス等が属するが,前者は感覚的認識の相対性と無力さを示す10の根拠を提示したことで知られ,後者は経験を重んずる医者として諸学の根拠の薄弱さを攻撃し,またその著書はギリシア懐疑論研究の主要な資料となっている。近世においては,ルネサンスの豊かな思想的混乱の中で懐疑思想も復活し,伝統的な思想や信仰を批判する立場からも,逆にそれを擁護する立場からもさまざまなニュアンスの懐疑論が主張されたが,その中でもモンテーニュのそれはたんに否定的なものにとどまらず生を享受する術となっている点で,またパスカルのそれはキリスト教擁護の武器として展開されているにもかかわらず作者の意図を越えて人間精神の否定性の深淵を垣間見させてくれる点でそれぞれ注目に値する。なおD.ヒュームはしばしば懐疑論者のうちに数えられ,彼に刺激を受けたカントについても懐疑論との関係で論じられることもある。
→不可知論
執筆者:塩川 徹也
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認識につきまとう主観性・相対性によって,人間は普遍妥当的な認識はできないとする思想上の立場。哲学史上ギリシア末期から存在し,近世にはデカルト,カントなど懐疑を超克する試みも重ねられたが,なお克服されずに現代思想に流れ込んでいる。
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