刑法典において多くの犯罪に対し中心的な刑罰として規定されている自由刑の一種である。監獄拘置とともに定役賦科をその内容とし,死刑に次いで重い刑とされる。無期と有期に分かれ,無期は終身(ただし仮釈放は可能),有期は1ヵ月以上15年以下,ただし減軽により1ヵ月以下に,加重により20年に至りうる(刑法10,12,14条)。
禁錮,拘留の場合と同様,懲役にも執行停止が認められる。すなわち,受刑者が心神喪失状態になった場合は必ず(刑事訴訟法480条),刑の執行によって著しく健康を害するおそれがあるとき,70歳以上であるとき,妊娠150日以上および出産後60日未満のとき,刑の執行によって回復不可能な不利益を生じるおそれがあるとき,祖父母または父母が70歳以上または重病ないし不具で,ほかに保護する親族がないとき,子または孫が幼年で,ほかに保護する親族がないとき,その他重大な事由があるときには,検察官の裁量によって執行停止される(482条)。監獄拘置とともに定役賦科を刑罰内容とする点が,禁錮・拘留との違いであるが,このような懲役を中心的な自由刑とした背景には,18,19世紀のヨーロッパにおいて,自由刑が死刑に取って代わった際に,浮浪者や軽罪者に強制作業を課した懲治場とガレー船漕奴刑や植民地流刑等にみられる受刑者使役の伝統のうえから,単なる施設拘禁では刑罰内容として不十分とされたことがうかがわれる。このような懲役は,18世紀の監獄改良家J.ハワードの唱えた労働をとおしての犯罪者改善という理想とともに,19世紀にも経済的意味のない空役として現実化したこらしめのための苦役をも担うものであった。後者が少なくとも理念のうえで否定されたのはようやく20世紀に入ってからである。
日本における懲役の語は,西洋法を参照にした1872年の懲役法において,明治新政府下の仮刑律(1868),新律綱領(1870)に定められた5刑のうちの笞・杖に代わる短期自由刑として,まず用いられた。翌年には,旧幕期以来の伝統をもつ受刑者使役刑たる徒刑を執行する場所である徒場を懲役場と名称を変更し,同年の改定律例は,刑名としても徒,流を懲役に変え,終身懲役をも定めた。この懲役が,初の本格的な西洋法の継受である1880年の(旧)刑法では,島地発遣刑の徒・流などとともに,内地の懲役場で定役に服す重罪刑として規定され,刑期によって重懲役(9~11年)と軽懲役(6~8年)に分けられた。定役に服すものとしては軽罪刑たる重禁錮(11日~5年)もあった。1907年の刑法では徒・流を廃し,重禁錮も含めて懲役として一本化され現在に至っている。行刑の発展として論じられるように,すでに1899年ごろから,従前の懲戒・収奪主義の刑罰作業には転換の動きがみられていたのであるが,1908年の監獄法では,作業は衛生,経済および在監者の刑期,健康,技能,職業,将来の生計等を斟酌し,とくに18歳未満の者には教養に関する事項を斟酌する(24条)とされ,その刑罰的性格は,作業収入の国庫帰属原則のうえに,恩恵としてのみ与えられる作業賞与金制(27条)や,怠役が懲罰事由となる(59条)などの点に見いだされるにすぎなくなった。こうして,木工,金属加工や種々の下請的作業に携わり,外界のものと変わらない刑務所工場での作業が一般化した。最近では外部の仕事場への通勤も認められるなど,懲役の語は時代遅れとなり,すでに各国で実現している単一自由刑(各種の自由刑を一元化した制度)においては,強制作業を刑罰内容として掲げない例も見られるようになってきている。
→行刑
執筆者:吉岡 一男
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禁錮(きんこ)、拘留と並ぶ自由刑の一種。刑事施設に拘禁するだけでなく、作業を強制的に科すことを刑罰の内容とする(刑法12条)。この点で、受刑者からの「申出による作業」のみを認める禁錮・拘留の場合と異なる(刑事収容施設法92条・93条)。懲役は破廉恥犯(道徳的または倫理的に非難されるべき動機により犯される犯罪)に対する刑罰であると理解される。
懲役には無期と有期の別があり、有期は1月以上20年以下であるが、加重する場合には30年まで延ばすことができ、減軽する場合には1月未満にすることができる(同法12条・14条)。懲役の場合、刑務作業は刑罰内容であるとはいえ、単なる苦痛の賦科ではなく、勤労意欲の喚起や職業的技能・知識の習得などを目的とする。刑事収容施設法ではこの点を強調して、作業は矯正処遇の一方法であると規定する(刑事収容施設法84条)。
犯罪に破廉恥・非破廉恥の区別のないこと、禁錮受刑者のほとんどが申出による作業を行っていて、実質上両者の区別がなくなっていることなどを論拠にする「懲役・禁錮の一本化論(単一刑論)」は、昭和40年代の改正刑法草案の検討過程で有力に主張されたが、近年の立法論においては影を潜めている。
現在では全受刑者の99%以上を占める懲役受刑者の処遇については、監獄法の全面改正に伴って成立した刑事収容施設法により、改善更生目的が強調され(同法30条)、受刑者ごとに定められる「処遇要領」に基づいて矯正処遇が実施され(同法84条)、刑期の一定期間を経過して改悛(かいしゅん)の状が認められる者には仮釈放が許される(刑法28条、更生保護法16条)。
[石川正興]
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…まず,明治維新直後の1868年(明治1)に制定された仮刑律は,基本的に律令制度にならって,笞,徒(ず),流(る),死の4種類の刑罰を認め,次いで70年に制定された新律綱領も,笞,杖(じよう),徒,流,死の5刑をおいていた。が,73年に制定された改定律例は,明清律のほかにヨーロッパ法をも斟酌(しんしやく)し,従来の5刑制を廃止し,笞,杖,徒,流の4種を改め,すべて懲役とした。やがて,フランス刑法を範とした旧刑法(1870公布)は,きわめて多様な自由刑を認めたために,刑名も多くなった。…
…仕事に出精し心底が改まったと認められたものは,商売道具を与えられるなどして出所を許される一方,逃亡その他の規律違反は死罪を含む厳罰に処せられた。1820年(文政3)には,無罪の無宿のほか,追放刑の宣告を受けた有罪者を追放せずにここに入所させることが始まり,寄場は事実上,自由刑(懲役刑)を行う場所としての性格をもつようになった。ただしこの場合,寄場から出所後も御構場所(おかまいばしよ)への立入りは禁止されたから,追放刑の執行は免除されるのではなく延期されたにすぎず,寄場は法的には最後まで保安処分の施設であった。…
…
[量刑の手順]
実際の量刑判断の手順をみると,まず,各法条に規定されている刑(法定刑という。死刑,懲役,禁錮,罰金,拘留,科料の6種のほか,付加刑たる没収がある)が一種であれば問題ないが,複数の刑種が選択的に規定されている(ときには併科規定もある)場合には,そのどれかが選択される。次いで,(1)再犯加重,(2)法律上の減軽,(3)併合罪加重,(4)酌量減軽の順によって加重減軽がほどこされる(刑法72条)。…
※「懲役」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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