掌印(しよういん),手模(しゆも)ともいう。掌(てのひら)の表面に朱肉または墨をぬって文書の文面におす。信仰的な願文(がんもん)や,不動産売買・譲渡などの法律文書におされ,仏神・人間と相手に相違はあるが,一方は神聖厳粛,一方は厳重さの意志表示であり,慣習法として古代・中世に行われた。元来,手は観念的に保証を象徴するものとの思想に起因する。日本では833年(天長10)の願文,909年(延喜9)の譲状が最古の遺品である。宗教的文書,法律文書ともに手印は14世紀の南北朝時代が終焉である。中世前期には手印は法律文書では花押(かおう)の代用として利用された。左右両掌をおす例,片掌のみの例,そこに格別の規定はなかった。手印は中国からの伝来であるが,13世紀の宋,14世紀の明では休書(離縁状)に手模印をおす慣習があったが,日本にはない。
執筆者:荻野 三七彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…ムドラーとは本来〈封印〉〈印章〉という意味であるが,特に密教では仏・菩薩の内証・本誓などの真実なること,虚妄(こもう)なきことを証する幖幟(ひようじ)としてこの言葉に深い意味を与えた。印相はふつう手印と〈契印(げいいん)〉とに分けられ,狭義には手印のみを指すが,広義にはこれらのほか,仏像,種子(しゆうじ),真言までも含めることがある。手印は指を結んでつくるもので,金剛界大日如来の智拳印や胎蔵界大日如来の法界定印(ほうかいじよういん)(坐禅印),弥陀定印などはその代表的なものであるが,密教以前のものとして,転法輪(てんぽうりん)印,触地(そくち)印(降魔(ごうま)印),施無畏(せむい)印,与願印などもある。…
…字の書けない者は署名のかわりに十字を書いた。これをsignum manus(手印)と呼ぶ。場合によっては手の形を書くこともあった。…
…修験道においても同様である。 また日本独特と思われる伝法のしるしに,手印(しゆいん)がある。血脈,印信の上に導師,善知識の両手の手形を朱肉でべったりと押すが,これは阿弥陀如来や釈迦如来の身代りとなって押すものだという。…
…こうした契約証書類が手形とよばれるようになったのは戦国時代以降であろう。元来〈手〉は人間の契約,誓約行為と重要な関係にあり(中田薫《法制史に於ける手の働き》),掌に朱や墨を塗り,文書などに手の形を押捺する手印(ていん)はもっぱら起請(きしよう)とよばれる文書形式にみられた。この手印は押捺者の文書内容に対する強い意志,信念,願望を表現したものといわれる。…
※「手印」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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