拍子(読み)ひょうし

精選版 日本国語大辞典 「拍子」の意味・読み・例文・類語

ひょう‐し ヒャウ‥【拍子】

〘名〙
[一] 音楽で用いる語。
旋律進行に際し、一定の拍(はく)をひとかたまりにして区切ったもの。リズムの基礎をなす。拍の数と強弱の関係により、二拍子、三拍子四拍子などという。日本音楽では、雅楽に延(のべ)拍子、早拍子、只(ただ)拍子、夜多良(八多良)拍子などの種類がある。間(ま)拍子はリズムの意味。ほうし
※宇津保(970‐999頃)楼上下「いよいよあはれがらせ給て、御扇してひゃうし打たせ給ふ」
② 楽曲の進行の時間を測る単位。雅楽では、楽句を数える単位となる太鼓の強打音をいう。
神楽(かぐら)、催馬楽(さいばら)東遊(あずまあそび)など雅楽で用いる楽器の一つ。笏(しゃく)を縦に二分したような形の板を打ち合わせるもの。歌の主唱者がこれを持って拍節をとる。笏拍子(しゃくびょうし)。また、笏拍子を持つ奏者。ほうし。
源氏(1001‐14頃)篝火「弁の少将ひゃうし打ちいでて、しのびやかにうたふ声」
能楽などで、楽器のこと。笛・小鼓大鼓・太鼓を四拍子という。
※わらんべ草(1660)四「よく拍子にあふは、みなしたるき位にて、殊の外きらふ也」
⑤ 能楽・舞踊で、足拍子のこと。
※申楽談儀(1430)よろづの物まねは心根「佐野の船橋に『宵々に』、ちゃうど踏む、同じ、いと大事のひゃうし也」
[二] 音響表現や物事の調子・勢い。
① 警戒や合図のために、太鼓や拍子木などを打つこと。
※浮世草子・好色盛衰記(1688)三「夕風に火用心を触、太鼓は我物にして、自然と三つ拍子(ビョウシ)を覚へ」
俳諧で、支考の付合七品目の一つ。前句の語呂の勢いに乗って付けるもの。〔俳諧・俳諧十論(1719)〕
③ 物事の進む勢い。進みぐあい。調子。
※史記抄(1477)一八「字が不足してひゃうしがわるさに首頭足とをいたぞ」
④ 物事をするはりあい。
※松翁道話(1814‐46)三「正直過ぎる人のものは、取っても拍子がない」
⑤ 何かが行なわれたちょうどその時。はずみ。とたん。
※史記抄(1477)六「活と前へはねて喉ふえをはねきるひゃうしに左手を以て」
[三] 小荷駄用の引馬の面掛(おもがい)の一種。馬の顔の左右につける細長い板で、鼻づらから縄をかけてとめる。拍子覊(ひょうしおもづら)、拍子鼻革ともいう。〔日葡辞書(1603‐04)〕
[補注]もとは平安時代以前に日本にはいってきた楽器名を表わす漢語で、「拍」ともいい、「拍板(はくはん)」(板を何枚か重ね、なめし皮の紐でつないだ楽器)の類であろうと考えられる。

ほう‐し ハウ‥【拍子】

〘名〙
① ひょうし。また、ひょうしをとること。→ひょうし(拍子)(一)①。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「あるかぎりの人、はうし合はせて遊び給ふ」
② 神楽(かぐら)・催馬楽(さいばら)・東遊(あずまあそび)など雅楽で用いる楽器。笏(しゃく)を縦に二つに割った形の板で、主唱者が両手に持ち、打ち合わせて音を発し拍節をとる。また、それを用いる主唱者。笏拍子(しゃくびょうし)。ひょうし。
※枕(10C終)一四二「笛吹き立てはうしうちて遊ぶを」

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デジタル大辞泉 「拍子」の意味・読み・例文・類語

ひょう‐し〔ヒヤウ‐〕【拍子】

音楽用語。
㋐音楽のリズムを形成する基本単位。一定数のはくの集まりで、強拍弱拍との組み合わせからなる。拍の数により二拍子三拍子などという。雅楽でははや拍子のべ拍子など。
㋑雅楽の笏拍子しゃくびょうしのこと。また、その奏者。
㋒雅楽で、ある楽曲中での太鼓の打拍数。また、それによって表す曲の規模。拍子八・拍子十など。
㋓能楽で、四つの伴奏楽器、すなわち笛・太鼓・大鼓・小鼓のこと。また、謡曲をうたう音声の節度。
㋔能楽・舞踊で、足拍子のこと。
何かが行われたちょうどそのとき。とたん。「立ち上がった拍子に頭をぶつける」
物事の進む勢い。調子。「拍子に乗る」「とんとん拍子
連句の付合つけあい手法の一。前句の句勢に応じてつける方法。→七名八体しちみょうはったい
[類語](1ビート音頭調子音調音律調性音階音程・音高・トーンはく律動乗りリズムテンポ調べ/(2はずみとたん

ほう‐し〔ハウ‐〕【拍子】

《「はくし」の音変化》
ひょうし。また、ひょうしをとること。
「―たがはず、上手めきたり」〈・紅葉賀〉
笏拍子しゃくびょうし」の略。
「あるかぎりの人、―あはせて遊び給ふ」〈宇津保・俊蔭〉

びゃく‐し【拍子/百師/百子】

《「ひゃくし」とも》「笏拍子しゃくびょうし」に同じ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「拍子」の意味・わかりやすい解説

拍子
ひょうし
metre (meter) 英語
time 英語
measure 英語
Takt ドイツ語
mesure フランス語
misura イタリア語

音楽上のリズムに関する用語。元来は日本音楽の用語であったが、今日では広く欧米音楽にも用いられる。リズムと拍子とはしばしば混同して用いられるが、両者の間には本来区別されるべきものがある。つまり、リズムが「継起的な音運動現象の生み出す時間的進行上の秩序」と定義されうるのに対し、拍子は「最小の時間単位である拍が集まって組織された音楽の一定の時間単位」および「強拍と弱拍が規則的に繰り返されるアクセントの周期的な反復」を意味し、拍子はあくまでもリズムの一種にすぎない。

 現在もっとも一般的に用いられている拍子は、17世紀以後の欧米音楽におけるものである。そこでは拍子が小節線でくぎられた1小節内に含まれる単位音符の数によって定められ、それを示すには普通、拍子記号が用いられる。拍子記号は、原則として分母に単位音符の種類、分子に1小節内のその数を置いた分数の形で表される。拍子の分類法はいくつかあるが、日本では普通次の3種に大別する。〔1〕単純拍子(2、3、4拍子) すべての拍子の基礎となる。〔2〕複合拍子(6、9、12拍子など)
 複数の単純拍子が合成されたもので、各1拍が3分割される点が特徴である。たとえば6/8拍子は8分音符三つを1拍とする2拍子系ととらえられる。〔3〕混合拍子(5、7拍子など) 複数の単純拍子が混合されたもの。たとえば5拍子は2拍子と3拍子の組合せで、2+3または3+2の構造をとる。このほか変拍子として、2拍子系が一時的に3拍子系に転換されるヘミオリアや、複数の拍子が継時的または同時的に用いられるポリリズムなどがある。

 なお、日本音楽の用語としての拍子は、雅楽、能、箏曲(そうきょく)、三味線音楽、舞踊などそれぞれに応じてその内容が多少異なっている。

[黒坂俊昭]


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百科事典マイペディア 「拍子」の意味・わかりやすい解説

拍子【ひょうし】

音楽用語。音の進行に強拍と弱拍を知覚し,一定の法則で単位としたもの。楽譜では小節に一致。一般に,2拍子,3拍子,4拍子を単純拍子,同じ拍子が複合してできたものを複合拍子(6拍子,9拍子など),異なる拍子が混合してできたものを混合拍子(5拍子,7拍子など)という。混合拍子のうち5拍子(2+3,3+2など)の著名な例としてはチャイコフスキーの《悲愴交響曲》第2楽章が知られ,7拍子(4+3など)ではプロコフィエフの《ピアノ・ソナタ第7番》第3楽章(2+3+2)が有名。1小節または数小節ごとに拍子が変化する場合を変拍子といい,五線譜上では拍子の変化ごとに各小節に拍子記号が記されるのが通例。拍子記号は分数で書き,たとえば3/4は4分音符で3拍子を示す。→シンコペーションリズム
→関連項目五線譜

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「拍子」の意味・わかりやすい解説

拍子
ひょうし

日本音楽用語。リズムにかかわる言葉であるが,音楽の種類や場合によって以下のような意味に用いられる。 (1) 拍,拍節,拍節法のこと。能には拍子不合 (ひょうしあわず) ,八拍子 (やつびょうし) などがある。三味線音楽や箏曲においては,表間裏間の2拍によって拍子1つ (1小節) とされ,ほとんどが2拍子である。 (2) リズム楽器の名称。雅楽の太鼓,笏拍子,能の四拍子 (しびょうし) など。 (3) リズム楽器の奏法とリズム型。雅楽においては,たとえば4小節あるいは8小節に1度太鼓が打たれ,その打つ回数により形式が示される。 (4) リズム楽器の奏者。

拍子
ひょうし
time; meter

西洋音楽用語。リズムに関する用語で,拍節的周期をもつ音楽の拍節的単位の量あるいは基準を表わす語。一般的には強拍,弱拍の配置により,単純拍子と複合拍子に分けられる。前者には2,3,4拍子がある。後者には,各拍が3つの小単位に分かれてできた6,9,12拍子やより複雑な5拍子 (2拍子+3拍子) ,7拍子 (3拍子+4拍子) などが含まれる。

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世界大百科事典 第2版 「拍子」の意味・わかりやすい解説

ひょうし【拍子】

リズムに関連して広く用いられる音楽用語。
【日本】
 以下に述べるように,複合語も含めてさまざまの使われ方をするが,〈打つ〉という行為によって具現され,あるいは感得されるリズムと強く結びついている点で共通している。まず打楽器類に笏(しやく)拍子,銅拍子,大拍子(だいびようし),拍子木,拍子盤などがあり,笏拍子は単に拍子とのみ称されることが多い。また能楽で使用される4種の楽器,笛(能管),大鼓(おおつづみ),小鼓,太鼓(締太鼓)を四拍子(しびようし)という。

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普及版 字通 「拍子」の読み・字形・画数・意味

【拍子】はくし・ひようし

リズム。

字通「拍」の項目を見る

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世界大百科事典内の拍子の言及

【板】より

…地域,時代,ジャンルによって形態や名称が異なるが,(1)数枚の板を同時に打ち合わせるもの,(2)1枚の板を槌(つち)などで打つもの,に大別される。また,中国では拍子を意味する楽語としても用いられる。 (1)はおもに中国,朝鮮にみられる打楽器で,拍板,拍ともいう。…

【雅楽】より

…このほか,歩きながら演奏する道楽(みちがく)や竜頭鷁首(りようとうげきしゆ)の舟上で演奏する舟楽(ふながく)といった特殊な演奏形式のために工夫されたものもある。神道系祭式芸能と催馬楽とで歌の主唱者がうけもつ笏拍子(しやくびようし)も打楽器であるが,ふつうはこれを〈打ちもの〉とはいわない。
【楽理】
 大陸から楽舞とともにもたらされた理論や用語は,当初は実際の音楽と適合していたにちがいないが,やがて音楽のほうが変わってきたため,しだいに実態とかけはなれていった概念が多い。…

【タクト】より

…元来は,音楽の拍,拍子,小節などを指す言葉。ラテン語による15~16世紀の音楽理論書では,時間的秩序の基本単位としてタクトゥスtactusという概念が用いられ,タクトの語源となった。…

【間】より

…能の音楽の場合,演奏の焦点はむしろ休拍の置き方にあって,いかに〈間を数える〉かということが,技術の最高の秘伝とされているという。また,近世舞踊の場合にも,基本的には能の八拍子(やつびようし)にしたがいながら,拍子に乗りすぎることを嫌い,いかに〈間を抜く〉かが芸の眼目になっているといわれる。この精神は古く能楽の草創期にさかのぼり,世阿弥もまた,〈わざ〉と〈わざ〉との間隙(かんげき)を大切にして,いわゆる〈せぬひま〉をおもしろく見せるくふうを要求している。…

※「拍子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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