捨てる(読み)ステル

デジタル大辞泉 「捨てる」の意味・読み・例文・類語

す・てる【捨てる/棄てる】

[動タ下一][文]す・つ[タ下二]
不用のものとして、手元から放す。ほうる。投棄する。「ごみを―・てる」「武器を―・てて投降する」⇔拾う
今までの関係を絶って、そのままかまわないでおく。見捨てる。「妻子を―・てる」
かかわりのないものとして、ほうっておく。放置する。見過ごす。「―・てておけない緊急事態」「カーブを―・ててストレートに的を絞って打つ」
持ち続けてきた思いなどをなくす。熱意関心などがさめてしまう。あきらめて手を引く。「希望を―・てる」「最後まで勝負を―・てない」
俗世間を離れる。「世を―・てて山にこもる」
かけがえのないものを犠牲にしてもかまわないほどの意気込みで、何かを行う。「一命を―・てる覚悟で困難に当たる」
乗り物を降りて、さらに先へ行く。「タクシーを―・てて歩く」
動詞の連用形、または、動詞の連用形に接続助詞「て」を添えた形に付いて)…してしまう、…してほうっておくの意を表す。「言い―・てる」「切って―・てる」
[下接句]命を捨てる車を捨てる掃いて捨てるほど身を捨てる世を捨てる群臣を弊履へいりを棄つるがごと
[類語]廃棄破棄投棄遺棄焼却焼き捨てる掃き捨てる投げ捨てるかなぐり捨てるぽいする

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「捨てる」の意味・読み・例文・類語

す・てる【捨・棄】

  1. 〘 他動詞 タ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]す・つ 〘 他動詞 タ行下二段活用 〙
  2. [ 一 ]
    1. 不用のものとして投げだす。また、使わないでほうりだす。うっちゃる。
      1. [初出の実例]「都鄙(ひな)の人、常世の虫を取りて清座(しきゐ)に置きて歌儛ひて福を求めて珍財を棄捨(スツ)」(出典:日本書紀(720)皇極三年七月(岩崎本平安中期訓))
      2. 「衣ぬぎてとらせけれど、すてて逃げにけり」(出典:伊勢物語(10C前)六二)
    2. 心をとめないでそのままにする。今まで維持してきた情愛の心を放棄する。
      1. (イ) 気にとめないまま放置する。心にかけないでおく。ほうっておく。
        1. [初出の実例]「頃(このころ)聞く。汝(いましが)国輟(ステ)て祀らすと。方今に前の過(あやまり)を悛悔(あらた)めて神(かむつ)宮を脩理めて神の霊(みたま)を祭り奉らば国昌盛(さか)えぬへし」(出典:日本書紀(720)欽明一六年二月(寛文版訓))
        2. 「大事を思ひたたん人は、去りがたく心にかからん事のほいを遂げずして、さながら捨つべき也」(出典:徒然草(1331頃)五九)
      2. (ロ) 愛情をかけていたものを見はなす。保護しないで見はなす。人などをみすてる。
        1. [初出の実例]「乃ち、草(かや)を以て児(みこ)を褁(つつ)みて海辺に棄(ステまつり)」(出典:日本書紀(720)神代下(鴨脚本訓))
        2. 「我をいかにせよとて捨てはのぼり給ふぞ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
        3. 「帰命頂礼大権現、今日より我等をすてずして、生々世々に擁護して」(出典:梁塵秘抄(1179頃)二)
        4. 「親を損(ステテ)道に入り」(出典:大慈恩寺三蔵法師伝院政期点(1080‐1110頃)一)
      3. (ハ) 試合や試験にあたって、よい成果が得られないと認めて、それ以上の努力をあきらめる。
    3. 俗世間から離れる。この世をのがれる。出家する。世をすてる。
      1. [初出の実例]「頭おろしすてて、罷り籠らむとなむ思ひ給ふる」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
      2. 「すてて往にし憂世に月のすまであれなさらば心の留らざらまし」(出典:山家集(12C後)上)
    4. 国や故郷などを離れる。そこに住むことをあきらめる。
      1. [初出の実例]「さきで故郷を棄てることになりますに」(出典:海辺の光景(1959)〈安岡章太郎〉)
    5. 身命を投げ出す。命を失う。犠牲にする。
      1. [初出の実例]「吾が背子が其の名のらじとたまきはる命は棄(すて)つ忘れたまふな」(出典:万葉集(8C後)一一・二五三一)
    6. とりのぞく。しりぞける。
      1. [初出の実例]「背といは煩悩を担(スツル)ぞ」(出典:金剛般若経讚述仁和元年点(885))
      2. 「月頃とぶらひものし給はぬ怨もすててける」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)
    7. 職をやめさせる。廃する。また、仕事などをやめる。
      1. [初出の実例]「蘇我の臣入鹿、独、上(かむつ)宮の王等(みこたち)を廃(ステム)と将(す)ることを謀りて古人大兄(おほね)を立てて天皇と為」(出典:日本書紀(720)皇極二年一〇月(図書寮本訓))
      2. 「いっその事武士を棄(ス)てようと決心いたした」(出典:阿部一族(1913)〈森鴎外〉)
    8. 人を葬る。
      1. [初出の実例]「其の後、夫、幾の程を不経して病を受て死ぬ。然れば、金の山崎の辺に弃てつ」(出典:今昔物語集(1120)一七)
    9. 体からはずす。とく。ぬぐ。
      1. [初出の実例]「冠帯を釈(ステ)ずして養ふことややひさし」(出典:冥報記長治二年点(1105)中)
    10. ( スツル ) 室町期の謡曲の曲譜の一つ。
      1. [初出の実例]「一樹の蔭にやスツル宿りけん」(出典:世阿彌筆本謡曲・江口(1384頃))
    11. 乗り物から降りる。特に、タクシーから降りる。
      1. [初出の実例]「どこかで電車を捨ててから、埃ッぽい、路地のやうな薄暗い街を二三町行くと」(出典:小さい田舎者(1926)〈山田清三郎〉五)
    12. 鉄道用語。車両を切り離して置いてくる。
  3. [ 二 ] 動詞の連用形、または動詞に助詞「て」を添えたものに付いて補助動詞的に用いる。…てしまう。…てのける。
    1. [初出の実例]「是は鼓判官が凶害とおぼゆるぞ。其鼓め打破て捨よ」(出典:平家物語(13C前)八)

捨てるの語誌

大きく分けて、( イ )対象物を積極的に投げ出す意と、( ロ )対象物をそのままにしておく意の二つがある。( イ )の意味では他に「うつ(棄)」がある。「うつ」は上代すでに「脱きうつ」などの複合語にしか現われず、中古以降用例が少なくなるところから、古くは( イ )の意を「うつ」が、( ロ )の意を「すつ」が表わし、徐々に「すつ」が「うつ」にとってかわっていったのではないかと考えられる。

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