関節が不自然な外力により生理的な可動範囲を超えるような動きを強制された時に発生する、代表的な外傷が捻挫や
捻挫を最も起こしやすい関節は
これらの関節がずれないように骨と骨の間をつなぎ止め、さらに関節の動きをコントロールする非常に重要な組織が
捻挫の重傷度を左右するのは、これらの靭帯の損傷の程度です。靭帯は受けた外力の大きさや方向によって、伸びたり切れたりします。最も軽いのは靭帯を構成する線維のほんの一部が切れたり伸びたりするものですが、複数の靭帯が完全に断裂するような重いものもあります。ただし、このような重傷例は靭帯が断裂する際に必ず関節のずれを伴うので、厳密には捻挫とはいえず、○○靭帯損傷という具体的な外傷名がつけられるのが一般的です。
すなわち、捻挫とは断裂にまでは至らない程度の靭帯損傷が主病態になった外傷で、しかも骨折は伴わないものと理解するのが一般的です。
捻挫の症状は、受傷した関節の種類や靭帯損傷の程度によってさまざまです。一般的には関節の痛みや
断裂した靭帯が修復されないまま経過すると、関節にゆるみが残り、それによる続発症が出ることもあるので注意が必要です。
捻挫の診断に必ず行われる検査は、単純X線検査です。これによって骨折や関節のずれの有無が確かめられます。また、関節の不安定性の程度を検査するためにストレス(負荷)を加えてX線写真をとることもあります。ただし、単純X線写真には靭帯そのものは写りませんので、MRI検査が必要です。
MRI検査は近年多くの外傷や障害の補助診断に用いられていますが、とくに
捻挫の治療は原則として保存的(非手術的)に行われます。
受傷直後は腫脹や内出血がより以上に高度になることを止めることが重要です。そのための処置としては、
局所の安静(Rest)
冷却(Icing)
圧迫(Compression)
が基本になります(頭文字をとってRICEという)。
その後の治療は重傷度によっても違いますが、弾力包帯、
ギプスによる完全な固定が必要な場合もありますが、長期にわたる関節の完全固定は、正常な靭帯の修復過程をむしろ阻害したり、関節軟骨にも悪影響を及ぼすとする学説もあることから、長期にわたるギプス固定の、適応は限られています。いずれにしても捻挫に対しては保存的治療が選択されます。
なお、捻挫より重い靭帯の完全断裂に対する治療法は、受傷した関節、患者さんの年齢や職業、スポーツをするかどうかなど、いろいろな因子によって違ってきます。
スポーツ選手では、損傷した靭帯の縫合術や再建術のような手術的治療が必要になることもまれではありません。
竹田 毅
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
関節の外傷の一つの型。関節に外力が加わり,それぞれの関節のもつ可動域以上の運動が強制された場合,関節包,靱帯(じんたい)など関節支持組織に断裂などが生ずるが,関節相互間には乱れのないものをいう。受傷時に脱臼を起こし,そのあと自然整復を起こしていることもあるが,この場合も,結果的にみたときは捻挫ということになる。一般に,関節運動範囲の少ない関節ほど捻挫を起こしやすく,可動域の大きな関節ほど捻挫は起こしにくく,むしろ脱臼を起こしやすい。
受傷直後から関節に疼痛がある。疼痛の程度や持続時間はさまざまで,たとえば,ただ関節包が伸ばされたようなときには間もなく疼痛はおさまるが,関節包,靱帯などに断裂が生じたような場合には疼痛が持続する。関節を動かしたり関節に荷重をかけたりすると,疼痛が増す。靱帯が断裂したり骨折を伴っているような場合,ときとして皮下出血のための溢血(いつけつ)斑(青あざ)が生じる。靱帯断裂があると関節の異常可動性がみられることもあるが,このような異常可動性の証明は麻酔下で行い,疼痛を除き,筋肉を弛緩させた状態でみるのがよい。骨折合併の有無や異常可動性の程度は,X線写真で判定する。
靱帯断裂その他の損傷が軽度な場合には,比較的短い期間の安静,固定で完全に治癒する。しかし関節包や靱帯の損傷が広範囲でかつ高度な場合には,初期の正しい治療によって修復が行われないと,関節の異常可動性や異常肢位を残し,関節機能障害をもたらすおそれがある。一般に関節包や靱帯が修復されるためには2~4週間かかるが,その間損傷組織が伸びた状態で治らないようにする。受傷時と反対方向に屈曲したり,機能肢位をとらせる。固定にはギプス包帯が最も確実であるが,靱帯損傷が軽度な場合には,絆創膏や弾性包帯による固定,サポーターなどが用いられる。関節に大きな異常可動性がみられるようなときは,手術的に損傷靱帯を修復したり,合併骨折の処置などが行われる。
捻挫の治療に関して重要なことは,〈たかが捻挫くらい〉といった安易な解釈ではなく,受傷機序からみれば〈外傷性脱臼〉と同一であることを考えて,治療期間や固定の程度は脱臼に準じて行う必要があることである。不十分な治療のために異常可動性や疼痛が遺残すると,その治療は困難なことが多い。初期治療が厳重に行われることが最もたいせつである。
→骨折 →脱臼
執筆者:東 博彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
関節外傷の一種で、関節に正常可動範囲以上の外力が加えられ、関節包や靭帯(じんたい)が引き伸ばされて損傷を受けた状態をいう。脱臼(だっきゅう)とは、関節自体が正常な位置関係を保っている点で区別される。一定方向にだけ可動性をもった関節におこりやすく、とくに足関節に多い。一般の日常生活においてもみられるが、とくにスポーツ活動(体操、柔道、サッカーなど)で生ずることが多く、スポーツ外傷の30%以上を占め、頻度がもっとも高い。
症状や治療は損傷の程度によって異なる。靭帯の一部が伸びたり切れた程度の軽症では、疼痛(とうつう)や腫脹(しゅちょう)も軽度で範囲が狭く、その靭帯を伸ばす方向に動かすと強制位痛を訴える。中等度になると、腫脹の範囲が広く、皮下出血も著しくなるが、靭帯は断裂しておらず関節の不安定性はない。完全に靭帯が切れた重症の場合は、疼痛や腫脹も激しく、関節の不安定性がみられる。またX線写真によって、骨折合併の有無や異常可動性の程度などが調べられる。
応急処置としては、足関節捻挫の場合、受傷直後にスポンジかフォームラバーを患部に当てて圧迫ぎみに弾性包帯を巻き、氷水の入ったバケツ中に患部を入れて冷却したあと、翌日まで足を高くして氷嚢(ひょうのう)による冷湿布を続ける。
治療としては、受傷靭帯の癒合を図る目的で固定するのが原則である。軽症では絆創膏(ばんそうこう)やサポーターなどによる固定でよく、1週間くらいで治癒するが、中等度では最低3週間の固定が必要とされる。重症の場合は靭帯を手術的に縫合するか、縫合のできない場合は関節の再建を図る手術が行われ、ギプス包帯で固定する。
なお、中等度および重症の場合は、初期治療が正しく行われないと、関節の機能障害をもたらすことがあり、固定除去後のリハビリテーションを十分に行う必要もある。また、捻挫が完全に治りきっていない場合をはじめ、関節外傷を生じやすいスポーツを行う場合などには、スポーツ用テープなどであらかじめ固定することによって予防する必要もある。
[永井 隆]
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