ニシンの卵巣。ニシンの異名を〈かど〉と呼ぶので,〈かどの子〉から転じたものであろうが,その変化には,めでたく言い換えることによって,食品の格の転換をはかるという,料理人などの知恵と計算があったと考えられる。つまり,一腹に数万の卵粒があるところから,〈かどの子〉は〈数の子〉で,子孫繁栄を意味するという解釈をしてみせて,権力者のきげんをとり結ぶというやり方である。そして,その試みは図にあたった。その時期は室町後期と考えたい。それまではほとんど名の見えぬかずのこが,《朝倉亭御成記》(1568)の足利義昭や《前田亭御成記》(1594)の太閤秀吉への饗膳(きようぜん)に供されており,以後諸書に散見されるからである。そして,かずのこをめでたいものとする観念は定着し,元禄(1688-1704)ころまでには庶民層でも正月の祝膳に不可欠のものとなっていた。《毛吹草》(1638)が松前の名物として挙げているように古くから北海道の名産であったが,第2次大戦直後までは干しかずのこがほとんどであった。その後漁獲量の激減にともなう価格の異常な騰貴の影響で,干しかずのこは影をひそめ,塩かずのこばかりが市場に出回っているが,食味は干しかずのこをもどして,しょうゆと酒につけ込んだものの方がよい。タンパク質,脂肪,ヨードなどを含み,栄養価はかなり高いが,卵膜が硬タンパク質のケラチンなので消化されにくい。煮ると歯が立たぬほどかたくなるが,天野信景はその著《塩尻》にみずからのその失敗談を書きのこしている。
→ニシン
執筆者:鈴木 晋一
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ニシンの卵およびその加工品。ニシンは「かど」ともよばれるところから、「かどの子」が変じて「数の子」になったという。またニシンの卵巣には5万~10万の卵が含まれるので、数の多い子という意味もあるとされ、子孫繁栄の縁起として正月料理に用いられる。加工品には干し数の子と塩数の子とがあるが、現在、干し数の子はほとんどつくられていない。それは水もどしに時間がかかり、また色が褐色になるためである。塩数の子は海水または同程度の食塩水中に数の子を漬け、血抜きし、水切り後、30%程度のふり塩をし、しばらく置いたのち飽和食塩水中で塩蔵する。塩蔵が終わったものは水切りし、冷蔵庫中に蓄える。食べる前に流水または水をかえながら塩抜きする。
現在、日本ではニシンの漁獲が激減したため、ロシア、アラスカ、カナダなどから抱卵ニシンまたは数の子を輸入して製造している。しょうゆ漬けとして正月料理には欠かせぬものだが、ひどく高価なものとなってしまった。そのため、輸入シシャモ(原名カペリン)の卵から模造品がつくられている。数の子はタンパク質、ヨードなどに富み、栄養価は高いが、卵膜がケラチンのため消化されにくい。
[金田尚志]
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…世界の漁業総生産量の十数%程度が貿易にあてられている。その比率に大きな変化はないが,水産物貿易の内容は近年大きく変わってきている。世界を発展途上国と先進国の二つに分けると,漁業生産量では先進国がその比率を高めているものの,ほぼ半々である。需要サイドからみると,発展途上国は需要の9割が食糧用だが,先進国では食糧用は6割で残りの4割が飼料用である。先進国では高級魚は直接消費し,低級魚は家畜に食べさせ,肉にかえて人間が消費するのである。…
…ニシン目ニシン科を代表する太平洋北部に広く分布する寒帯性の回遊魚(イラスト)。各地でカド,カドイワシなどとも呼ばれる。大西洋北部にもたいへんよく似たヘリングC.harengus(英名herring)が分布し,ノルウェー沿岸,北海およびアメリカ大陸ニューファンドランドに多く産する。日本では北海道と,太平洋側は利根川以北,日本海側は富山県以北に分布する。海産魚ではあるが,汽水にも耐えられ,海とつながる湖に入ることもあり,北海道の能取(のとろ)湖,茨城の涸沼(ひぬま)などにも生息する。…
※「数の子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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