数(すう)の概念を表す語。文法的には,言語によって名詞に含まれたり形容詞に含まれたりすることがあり,また同じ言語の数詞が一部は名詞的曲用をし,他は形容詞的曲用をすることもあるが,数を表す点でまとまりがあるのと,一般にそれらを構成する要素を列挙してその結合のしかたを説明することができる点などから,いずれの言語についても一つの品詞として取り扱われる習慣がある。数詞numeral(以下n. と略す)はその機能によって,必要に応じて,基数詞cardinal n.,序数詞(順序数詞)ordinal n.,配分数詞distributive n.,倍数詞multicative n.,分数詞(部分数詞)partitive n.,集合数詞collective n.,不定数詞indefinite n.などの区別がなされる。術語の用法は必ずしも一定していないが,one,two,threeなど事物の数を表す語が〈基数詞〉,first,second,thirdなどのように順序を表す語が〈(順)序数詞〉と呼ばれることには問題がない。〈配分数詞〉はラテン語terni(三つずつ),deni(10ずつ)などのようなものを,〈倍数詞〉はラテン語triplex(三重の),英語triple,threefold(同前)などのようなものを,〈分数詞〉は英語half(1/2),quarter(1/4)などのようなものを,〈集合数詞〉はフランス語dizaine(10(個),10(個)くらい),ロシア語dvoe(2個),troe(3個)などのようなものをいい,〈不定数詞〉は不定数を表す英語all(すべての),many(多くの),some(若干の)などのようなもの(あるいはさらにlittle,muchなど不定量を表すようなもの)をさすのが普通である。
数詞の構成は,日本語や英語などでは十進法であるが,英語でも11 eleven,12twelveのあとは13 thirteen,14 fourteen…となっていくところに十二進法が,20をscoreといい,twoscore,threescore…が40,60…を表している例に二十進法の姿がうかがわれる。アイヌ語も二十進法の一例とされ,30=2×20-10,40=2×20,50=3×20-10,…,100=5×20の表現形式をとっていて減法の例でもある。フランス語は,80 quatre-vingtsが4×20,90quatre-vingts-dixが4×20+10でそのなごりをとどめる一方,20 vingt,30 trente,40 quarante,50 cinquante,60 soixanteといいながら70 soixante-dixは60+10となるので六十進法のなごりをもとどめている。大きい数では,thousand(103),million(106),milliard(イギリス,フランス109),billion(アメリカ,現在のイギリス109,フランス,ドイツ,かつてのイギリス1012)のように,3けたごとに位が進められている。数詞の構成については,このような数え方のちがい,加法と減法の別(たとえば5+1であるか10-4であるか),要素の配列(たとえば10+1か1+10か)などが明らかにされなければならない。また,他の語との結合に際しては助数詞をとるかとらないか,数詞によって修飾される語の前に立つか後に置かれるかという点も問題にされる。
数詞はまた人体名称などとともに重要な基礎語彙と考えられるが,他の言語からの借用の例は日本語や朝鮮語における漢語の併用(日本語の11以上は特殊な例外のほか漢語専用。表参照)やヒンドゥスターニー語におけるペルシア語(およびアラビア語)の数詞の併用などにみられ,ミクロネシアのチャモロ語の数詞などはスペイン語からの借用語のため忘れ去られようとしている例である。
執筆者:三根谷 徹
現代の日本語では,数観念を表すのに,1~10までは固有の日本語系の語と漢語系のもの(漢数詞)とが共存する。それ以上では漢語系が主であるが,四と七については漢語系の発音上の不都合(シが〈死〉に通ずるとする禁忌やシとシチとの聞き分けにくさ)から,漢語系の唱えの間に固有系のヨ(ヨン)とナナとを代用することが多くなっている。そのほか20についてハタチ,ハツカも時に用いられる。本来はなお,ソ,モモ,ホ(イホ,ヤホ),チ,ヨロヅなどが,それぞれ十,百,百(五百,八百),千,万にあたるものとされた。ミ-ム,ヨ-ヤのような対立は両手を用いた倍数法による命名と説かれ,ココノは指の屈伸に関係づけられ,またナナは古い朝鮮方言に類似が求められている。上代でも,たとえばミソヂアマリフタツのような十進法が行われたが,おそらく漢語系の影響で数え方は整備したものであろう。漢語系は,簡単な語形と字形,便利な十進法兼万進法で,早くから借用されたらしく,奈良時代(8世紀)すでに掛算の九九の唱え方もあった。
固有系も漢語系も,助数詞を用いることが多い。自立する名詞と複合することは漢語系に多い(三年後,三通話,三大新聞など)。本来の形では基数詞と順序数詞とを区別することがない。ハタチは生誕第20年目だけを表す例であるが,ハツカは月の第20日目とともに20日間をも意味する。不定数を表すために,イク,ナンがあり,概数を示すために,ナナヤッツ,シチハチ(十七八,七八百),スウ(十数人,数万人)などの表現がある。
以上の数の表現は,順序を示す場合また内容の定まった場合(名数・諸数--三宝,十戒,四十七士,五大特徴など)を除いて,助詞を伴わずにそれだけで副詞的に用いられることができる。この点で,時に関する名詞(春,去年,時刻など)と同様で,これらを時数詞として一括することもあるが,普通には名詞の下位区分として扱われる。〈1985年〉は全体を1単語と認めて実用上はさしつかえないが,千(年)/九百(年)/八十(年)/五年/などのようにも切れる。なお,アラビア数字で大きな数をしるすとき,銀行などでは3けたごとに区切るが,日本語の万進法とは適合しない。
→数(すう)
執筆者:林 大
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数量や数量関係を表すことばで、多くの言語において名詞の一種として働く。「いくつ?」に対する答えとなるものを基数詞cardinal、「何番目?」に対する答えとなるものを順序数詞ordinalといい、これも多くの言語にみられる。しかし、言語によっては、このほかに「何回?」に対する答えとなる反復数詞iterative(例―英語once「1回」、twice「2回」など)、「何倍?」に対する答えとなる倍数詞multicative(例―英語double「2倍」、treble「3倍」など)、「何分の1?」に対する答えとなる部分数詞partitive(例―英語half「2分の1」、quarter「4分の1」など)のようなものがある。われわれの日本語は、「半分」というような言い方を除けば、これらをすべて「1回、2回、2倍、3倍、2分の1、4分の1」のように、基数詞を含む分析的な言い方で表すので、反復数詞とか部分数詞というような、数詞の下位区分を設ける形態論的な根拠があまりない。その点では、順序数詞も、日本語では形態論的に数詞の下位区分とはいいがたいのであるが、意味的には数そのものより数関係を表し、文法的には助数詞を伴った副詞的用法(「人が3人来た」「木を3本植えた」)がないなど、かなり異なった働きをするので、基数詞とは独立した範疇(はんちゅう)をたてる必要がある。形のうえでも、「第一」「第二」の「第」は、他の助数詞と違って接頭辞であり、独立した単語にならない特徴がある。基数詞はまた、「一少女」「三青年」のように、名詞にそのままついて形容詞のように働くが、そういう場合には、かなり多くの言語で助数詞を必要とする。日本語でも、先述の「一少女」「三青年」のような言い方は、どちらかといえば文語的で、普通には「1人の少女」「3人の青年」のように助数詞を伴って現れる。この種の言語もかなり広く分布していて、中国語では、北方の北京(ペキン)方言では助数詞のない言い方が許されるが、南方の広東(カントン)語(広州方言)ではかならず助数詞を必要とする。数詞は、一つの言語の語彙(ごい)のなかでも、かなり基礎的な、根幹をなす部分なので、たとえばインド・ヨーロッパ語ではもっとも借用されにくい、安定した語彙に数えられている。しかし、東アジアでは逆で、非常に借用されやすい。われわれの日本語も、現代語では特殊な語彙(「二十歳(はたち)」「三十日(みそか)・晦日(みそか)」など)を除けば、大和(やまと)ことばの数詞は、「一つ」「二つ」と数えて「十(とお)」までで、その上はもう「十一」「十二」のように、中国語からの借用語を用いるようになってしまった。インド・ヨーロッパ語でも、辺境の言語(リトアニア語、サンスクリットなど)では、実はそれほど安定していないことに注目する必要があるといえよう。
[橋本萬太郎]
『泉井久之助著『印欧語における数の現象』(1978・大修館書店)』▽『橋本萬太郎著『言語類型地理論』(1978・弘文堂)』▽『『月刊言語第7巻第6号 特集 性と数』(1978.6・大修館書店)』▽『小林功長著『数詞 その誕生と変遷』(1998・星林社)』
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…ヒッタイト語のように古い資料でも,その言語の語彙の2割ほどしか他の印欧語に対応が求められず,大幅な交替を示している。にもかかわらず現在の英語でも,基本的な数詞(表)以外に変化を受けつつも共通基語からの形の伝承と思われる語彙も少なくない。father,mother,brother,sister,son,daughter,nephew,nieceという親族名称,cow,wolf,swine,mouseなどの動物名,arm,heart,tooth,knee,footという身体の部分名のほかhorn,night,snow,milk,動詞ではis,was,knowなどはその典型である。…
…ただし,〈静カ〉〈困難〉などは〈ナ〉と結びつきうることから,それらを名詞に属すると考えるとしても,一つの下位範疇を形成することは確からしい(たとえば,普通の名詞は,たとえば〈褐色〉のような,かなり性質的なものを表すものでさえ,〈褐色ナ〉とはいえないことに注意せよ)。
[数詞]
ある範疇に属するものが,事物の数を表すものである場合,〈数詞〉と呼ばれるのが普通である。ただし,ただ数を表すからといって数詞と呼ぶのは,言語学的にいって正確でないことは,これまでに見たことからわかるであろう。…
※「数詞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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