平安時代の詩文作法・評論書。6巻。弘法大師空海の撰。820年(弘仁11)以前の成立。中国の六朝・隋・唐時代に書かれた音韻書などから抜粋し斟酌(しんしやく)してつくったもので,詩文の創作に関する重要な規則を八韻,四声,対句,文体,詩文の病(やまい)などに分けて論じ,近体詩の作者の参考に供したものである。今日中国では六朝時代の音韻書がほとんど散逸して伝わらないので,引用書の資料的な価値も高い。また,序文に文章経国思想が顕著にみられることや,摘句(てきく)という,一首の詩の中から佳句を取り出したり,文章の中から対偶の佳什(かじゆう)を抜き出すことをして例句をあげ,《和漢朗詠集》に見える摘句の先蹤として注目される。本書の分類論,病論は後世の歌論に影響を与えた。820年空海みずから本書を抜粋して《文筆眼心抄》1巻をつくった。
執筆者:川口 久雄
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空海撰(くうかいせん)の詩学書。819~20年(弘仁10~11)ごろの成立。『四声譜』(沈約(しんやく))、『詩格』(王昌齢(おうしょうれい))、『詩式』(釈皎然(しゃくこうねん))、『文心雕竜(ちょうりょう)』(劉勰(りゅうきょう))など、中国の六朝(りくちょう)から初唐にかけての諸家の集から、四声およびその運用を論じたもの、対偶を論じたもの、詩の格式あるいは詩病を論じたものなどを抜き出し、天、地、東、南、西、北の六巻に配してある。文献の的確な引用に空海の見識がうかがえるが、これらの文献は『日本国見在(げんざい)書目録』や『文献通考』などに書名をとどめるのみのものも多い。
[金原 理]
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平安初期の詩文評論書。6巻。空海の編著。809~820年(大同4~弘仁11)の間に成立。漢詩文作成の参考にするため,中国の六朝・唐代の漢詩文作法書を多くとりいれる。各巻に項目をわけ,原典の字句のまま引用するが,空海自身の文章は少ないとされる。本書に引用されたかたちでしか伝わらない「四声譜」「文筆式」「詩体」など,中国で早く散逸した書物を復原できる貴重な史料でもある。「弘法大師全集」所収。
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