精選版 日本国語大辞典 「方」の意味・読み・例文・類語
かた【方】
[1] 〘名〙
① 方向を示す。
(イ) (その方向に存在する具体的な物の名などを連体修飾語として伴って) その方向。
※古事記(712)中「南の方より廻り幸(い)でましし時」
※竹取(9C末‐10C初)「此の吹く風はよきかたの風なり、あしきかたの風にはあらず」
② その場所や地点。
(イ) (人を表わす連体修飾語を伴って) その人のもと。
※伊勢物語(10C前)一九「昔、をとこ、宮仕へしける女の方に」
(ロ) 場所。
※土左(935頃)承平五年一月一六日「霜だにも置かぬかたぞと言ふなれど波のなかには雪ぞ降りける」
※更級日記(1059頃)「母、尼になりて、同じ家の内なれど、かた異に住み離れてあり」
③ 二つに分かれたものの一方。
(イ) 一方の側。人数を二組に分けたりする場合にいうことも多い。組。仲間。
※万葉(8C後)一三・三二九九(或本歌)「隠口(こもりく)の 初瀬の川の 彼(をち)方に 妹(いも)らは立たし 此の加多(カタ)に 我は立ちて」
※源氏(1001‐14頃)絵合「ひだりみぎとかた分たせ給ふ」
(ロ) (その組、仲間の意から) 味方。
※両足院本毛詩抄(1535頃)一六「かまいて二心せいで武王のかたをせい」
(イ) その方面。それらに関する点。
※栄花(1028‐92頃)月の宴「和哥のかたにもいみじうしませ給へり」
(ロ) そのような有様、様子、おもむき。
※方丈記(1212)「様(やう)変りて優(いう)なるかたも侍り」
(ハ) そのようなこと、もの。
※枕(10C終)一一九「思ひかはしたる若き人の中の、せくかたありて心にもまかせぬ」
※伊勢物語(10C前)二九「春宮の女御の御方の花の賀に召しあづけられたりけるに」
※虎明本狂言・夷大黒(室町末‐近世初)「又それにみえさせ給ふはいかやうなる御かたにて候ぞ」
⑥ 手段。方法。やりかた。
※竹取(9C末‐10C初)「ある時はいはん方なくむくつけげなる物来て、食ひかからんとしき」
※宇津保(970‐999頃)吹上上「ゆく春をとむべきかたもなかりけり今宵ながらに千世は過ぎなむ」
⑦ (時間的な方向の意から) 頃。時節。
※仏足石歌(753頃)「大御足跡を 見に来る人の 去にし加多(カタ) 千代の罪さへ 滅ぶとぞいふ 除くとぞ聞く」
※徒然草(1331頃)四九「忽にこの世を去らんとする時にこそ、はじめて過ぎぬるかたのあやまれる事は知らるなれ」
[2] 〘接尾〙
① 他人の氏名などに付け、その人のもとに身を寄せていることを表わす。
※鱧の皮(1914)〈上司小剣〉一「標札を出しとくか、何々方としといて貰はんと困るな」
② 人を数えるのに用いる。現在ではきわめてていねいな、改まった表現で、「一(ひと)」「二(ふた)」「三(さん)」に尊敬の意を表わす接頭語「お」をのせた形にだけ付く。「おひとかた」「おふたかた」「おさんかた」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「いまひとかたは、ぬしつよくなるとも、かはらずうちとけぬべく見えしさまなるを頼みて」
③ 数量などを表わす名詞に付いて、だいたいそのくらいの意を表わす。→方(がた)(二)。
※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉八「程なうして印度米は、価格の三割方(ガタ)下落せんず」
[3] 〘語素〙
① 方向を表わす。
※伊勢物語(10C前)二一「いづかたに求め行かむと門に出でて」
② 名詞や、動詞の連用形などに付いて、ある一方の側、またそれに属する人たちを表わす。「売りかた」「買いかた」→方(がた)(一)②。
※万葉(8C後)一三・三二九九(或本歌)「初瀬の川の 彼(をち)可多(カタ)に 妹(いも)らは立たし 此のかたに 我は立ちて」
※浮世草子・好色万金丹(1694)三「あの客はわたくし方の一旦那、大印子(おほいんつう)有にて」
③ 名詞の下に付いて、それをする係であることを表わす。主として近世に使われた表現で、敬意は含まない。「まかないかた」「会計かた」「衣装かた」など。
※上杉家文書‐明応六年(1497)七月五日・大関政憲外三名連署役銭注文「
銭定可納分〈略〉一 壱貫九百文一之渡 此内二百苅奉納方 蔵本方 蔵人方あつかい」

④ 動詞の連用形に付いて、それをする方法の意を表わす。「書きかた」「作りかた」「教えかた」「買物のしかた」など。
⑤ 動詞の連用形、また動作性の漢語名詞に付いて、それをする意を表わす。「打ちかたやめ」「事件の調査かたを頼む」
※近世紀聞(1875‐81)〈染崎延房〉七「当春中所持の蒸気船亜人へ売払ひ方(カタ)に付家来村田蔵六花押これある証書を遣し」
ほう ハウ【方】
〘名〙
① 方向。方角。方位。大体その方向に当たる所。かた。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「心細うかなしうあはれなるものの音〈略〉東たつみのはうよりきこゆ」
※金刀比羅本保元(1220頃か)中「いささか方(ハウ)を違へべし」 〔詩経‐大雅・皇矣〕
② 物事をふたつに分けて見た場合に、その人や物、ことがらなどの属する側。
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「野暮と云はれて金をためた方(ホウ)が利方だの」
③ ある物事の属するところ。部門。方面。それらをわざとぼかしていうのにも用いる。
※春(1908)〈島崎藤村〉一一「『此処の払ひは奈何したら可からう』〈略〉『〈略〉吾儕(われわれ)の方で出して置くから』」
④ どちらかというとその傾向であることをいう語。たぐい。
※和解(1917)〈志賀直哉〉二「父が不愉快な顔をすれば、それだけ自分も不愉快な顔をする方だった」 〔礼記‐緇衣〕
⑤ たて・よこの長さが同じであること。また、その広さ。四方。平方。
※栄花(1028‐92頃)うたがひ「方四丁をこめて、大垣して瓦葺きたり」 〔孟子‐梁恵王・下〕
⑥ (形動) 四角形。四角。また、そのさま。
※今昔(1120頃か)七「方なる石を磨て」 〔墨子‐経上〕
⑦ 正しいこと。品行方正。〔易経‐繋辞上〕
⑧ しかた。
(イ) 方法。てだて。また、基準。基準となるもの。
※古本説話集(1130頃か)五八「すべきはうもなかりけるままに」
(ロ) わざ。術。技術。
※源氏(1001‐14頃)梅枝「八条の式部卿の御ほうを伝へて」 〔史記‐扁鵲伝〕
(ハ) 薬の調合法。処方。
※実隆公記‐明応五年(1496)七月三日「昨日良薬可然之由問答、令見方了」 〔論衡‐程材〕
[語誌]歴史的仮名遣いでは、「方」は、漢音・呉音ともに「ハウ」とされるが、呉音には「ハウ」と「ホウ」の二つの音があった。⑥の四角、⑧の(ハ)処方・医方の意味の場合に、合音「ホウ」でよむことが多かったが、中世末より、この区別も消失していった。
がた【方】
[1] 〘語素〙
① 時を示す名詞や、時間的なことを含む動詞の連用形に付いて、だいたいその頃の意を表わす。
※伊勢物語(10C前)一〇一「詠(よ)みはてがたに、あるじの兄弟(はらから)なる、あるじし給ふと聞きて来たりければ、とらへて詠ませける」
※方丈記(1212)「六そぢの露、消えがたに及びて」
② 名詞に付いて、一方の側、また、その方角、所属、仲間などであることを表わす。→方(かた)(三)②。
※伊勢物語(10C前)六九「女がたよりいだす杯の皿に、歌をかきていだしたり」
※平家(13C前)二「大方は入道、院がたの奉公おもひきったり」
③ 人を示す名詞に付いて、敬意をもって複数であることを表わす。「皆様がた」「御婦人がた」「殿がた」
※俳諧・続猿蓑(1698)秋「明月や声かしましき女中方〈丹楓〉」
[2] 〘接尾〙 数量を示す名詞に付いて、だいたいそのくらいであることを表わす。→方(かた)(二)③。
※春迺屋漫筆(1891)〈坪内逍遙〉壱円紙幣の履歴ばなし「婦人の一生は半分がた他人の讒訴にて暮すなり」
けた【方】
〘名〙
① (形動) 四角な形。四角いさま。方形。また、かどばったさま。
※大唐西域記巻十二平安中期点(950頃)「況や方(ケタナル)を
りて円なるに為しし世」

② (形動) 品行方正であること。かたいこと。律義であること。また、そのさま。
※古文真宝笑雲抄(1525)一「賢者や方正と云てけたに正直な者をば、当代は足に縄を付てさかさまに引く如に有天下の体ぞ」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報