明暗法(読み)メイアンホウ

デジタル大辞泉 「明暗法」の意味・読み・例文・類語

めいあん‐ほう〔‐ハフ〕【明暗法】

絵画で、明と暗、光と影の対比変化などがもたらす効果を用いて、立体感あるいは遠近感を表す方法。→キアロスクーロ

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精選版 日本国語大辞典 「明暗法」の意味・読み・例文・類語

めいあん‐ほう‥ハフ【明暗法】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 物体や人体を絵画的に表現するときの、光のあたった明るい部分と影となる暗い部分を描き分ける方法。それによって、物体・人体の立体感が表現される。
  3. 色のついた紙に、白および暗色で画像を表現し、明暗による肉付けを強調する版画・素描の一技法。キアロスクーロ。

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改訂新版 世界大百科事典 「明暗法」の意味・わかりやすい解説

明暗法 (めいあんほう)

自然主義的な絵画表現技法の一つ。暗部(陰影部)と明部のコントラストによって,物体の立体感と画面内の空間の雰囲気を描出する。イタリア語そのままにキアロスクーロchiaroscuro(〈明・暗〉または〈光・影〉の意)ともいう。

 アルベルティは《絵画論》の中で,光(明)は白,影(暗)は黒で表され,もっともすぐれた画家は白と黒で現実感を出せると述べ,古代ギリシアのニキアスゼウクシスをその創始者とした。ここから,今日に至るまでアカデミズムの中心思想の中に,明暗のみによる素描を絵画の骨格とする理論が残った。〈キアロスクーロ〉なる用語は,1681年イタリアの美術史家バルディヌッチFilippo Baldinucci(1624-96)が単彩のグリザイユに与えた名称とされる。フランスでは,《絵画課程》(1708)を著したロジェ・ド・ピールが明暗法の代表的理論家である。

ギリシア,ローマでは,自然主義的描写の技法が進むにつれ,明暗表現が発展した。初期キリスト教美術およびビザンティン美術には,個体の立体感を表出する局部的明暗法が継承されたが,空間を満たす統一光線の表現は見られない。ジョットおよびマサッチョなどフィレンツェ派の絵画に,空間内を一方向から照らす合理的照明法が登場する。これより15世紀末に至るまで,画面外に光源をもつ光を空間内にあてて,その空間を描き出す明暗法が発展した。なお壁画の場合は,実際の窓の位置から光を想定していることがある(レオナルド・ダ・ビンチ《最後の晩餐》)。16世紀には,画面内に光源を描くことが多くなり,同一画面に質のちがう数個の光源を描き,いわゆる〈光の戯れ〉を表現する例が増加した(ラファエロペテロの解放》,ティントレット《最後の晩餐》)。さらに,反宗教改革期には画面内の非現実的光源(円光,神,聖霊)が増す(エル・グレコバロッチコレッジョ)。続くバロック期には,以上のすべての要素を総合して〈明暗様式〉と呼ばれる独自の様式が生まれ,閉ざされた室内に強烈な光線(〈地下室光線〉と呼ぶ)を当てて表現力を強める手法が好まれた。代表的な画家はカラバッジョとG.deラ・トゥールで,彼らとその影響を強く受けた画家たちは〈テネブロージtenebrosi〉あるいは〈リュミニストluministes〉と呼ばれ,全ヨーロッパ的流行を生んだ。その芸術的頂点がオランダフェルメールとレンブラントである。18世紀には自然光線への自覚が生じ,ティエポロ,グアルディ,フラゴナールなど,外光での先駆を生んだ。このような自然光線への関心は,新時代への展開を示すものであった。19世紀の外光派とその発展としての印象派は,近代的光学理論をとり入れ,視覚そのものが光の作用であるという認識に立っていた。20世紀に入り,自然主義的表現の衰退とともに,明暗法の重要性も失われることとなる。
陰影法 →キアロスクーロ →
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「明暗法」の意味・わかりやすい解説

明暗法
めいあんほう
chiaroscuro 英語
chiaroscuro イタリア語
clair-obscure フランス語
Hell-dunkel ドイツ語

美術用語。明るさと暗さを画面上に表す絵画技法の一種で、明と暗、光と影の対比・変化・均衡がもたらす効果を用いて、物体の立体感、画面における遠近感を表現する。また、光と影の対比や光源を画面に設定するなど、照明によって劇的効果を描き出すこともできる。これは、古代壁画、あるいはルネサンス期以降の写実的絵画において、事物、人物などの対象の浮彫り的効果を、明部から暗部への移調によって表現する手法として行われ、いわゆる肉づけ(モドレ)の手法と関連して、事物の写実的錯視を表すためにも、造形的な効果としても、とくに油彩画できわめて重視された。たとえば、ファン・アイク兄弟らの古典絵画では、硬筆の精細な線を用いてその粗密で明暗部を下書きし、その上に彩色する手法をとっているが、ルネサンスも熟すると、レオナルド・ダ・ビンチの明暗法といわれる単色(褐色)の濃淡であらかじめ下地を描き、その上に彩色するようになる。そしてべネチア派では、明部と暗部の対比で対象をとらえて、これを透明色と不透明色の対比に組み替えて、空間と造形感を表出している。

 明暗法を意味するイタリア語の「キアロスクーロ」は、版画用語としても用いられている(この場合フランス語ではカマイユcamaïeuという)。これは、多色刷りの木版、リノリウム版画などの凸版において、ハイライトの部分を白抜きにして、明度の異なる版を重ね刷りし、対象の浮彫り的効果を強調する手法をいう。15世紀イタリアの版画家ウーゴ・ダ・カプリUgo da Capri(1480ころ―1520ころ)や、ニコロ・ビチェンティーノNicolo Vicentinoたちによって用いられ始めた手法で、版木の一枚は構図・事物を再現する正確なデッサンとし、他の版木は、構図や事物の正確な輪郭とは無関係に、事物や人物の浮彫り的効果を強調するための色版とするものである。たとえば、カプリの場合には、灰色の紙の上に黒でおおよそのデッサンを刷り、その上に、中間部と陰影の調子を示す白の版を重ねて、肖像画などの明暗、肉づけ、浮彫りの効果を表し、ラファエッロなどの画像の複製に用いている。

 さらに、キアロスクーロとカマイユの用語は、単色明暗画をさして用いられることがある。これは、ただ一色の絵の具の明暗だけで描いた絵または素描、あるいは色のついた紙に素描したものに白でハイライトを施した絵のことである。墨などによる単彩画(モノクロミーmonochromy)とほとんど同義語として用いられることが多いが、単彩画は明暗の諧調(かいちょう)がなくても、単色の絵の具だけで描かれていればよい点に相違がある。

[中山公男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「明暗法」の意味・わかりやすい解説

明暗法
めいあんほう

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