金属材料を急速に冷却した場合には材料内部に不安定な組織が生じ、これを常温で放置したり、または常温より高い温度に長時間保っておくと、安定な組織や状態に移行しようとして材料の性質が変化する現象がある。この現象あるいはこの現象を生じさせる操作を時効といい、そのなかで時間の経過によって金属材料の硬さが増すものが時効硬化である。この硬化が常温で放置してもおこる場合を常温時効または自然時効といい、いくらか加熱する必要のある場合を高温時効または人工時効という。
金属材料の内部組織が不安定な状態にあって安定な状態に移行しようとするとき、金属の結晶中で原子が動くことになる。それには熱エネルギーが必要であり、常温でも十分であれば常温時効がおこるが、いくらか加熱することで金属中の原子の移動が可能になる場合が人工時効である。
時効硬化の現象は20世紀初めにドイツ人ウィルムにより発見された。彼はアルミニウム合金(ジュラルミン)を鋼と同じように焼入れしようとして失敗したが、その副産物としてこの現象をみいだした。ジュラルミンの時効硬化は常温でおこり、夏季で2~3日、冬季でも1週間ぐらいで相当硬化する。時効硬化が常温でおこるものはアルミニウム合金や鉛合金など融点の低い金属の合金であり、銅合金では加熱により時効硬化がおこる。人工時効硬化の場合には、一定に保たれる温度により硬化の過程や最終硬さの値が異なる。また、硬化に伴って材料の強さ(引張り強さや疲れ強さ)がどのように変化するかは人工時効を行ううえで重要な事柄である。
[林 邦夫]
固溶体となっている合金を高温から焼入れすると,溶質原子の移動が抑制され,過飽和に溶質原子を含む固溶体が得られる.この過飽和固溶体は非平衡状態であるので,常温あるいはやや高い温度に置くと,時間の経過とともに溶質原子が移動して平衡状態に移行する.その過程で溶質原子が集まって数十 nm 程度以下の集合体(Guinier-Preston集合体:G.P.ゾーン)を形成したり,溶質原子の化合物相が析出する.これに伴って合金の物理的,化学的,機械的性質に変化が起こる.とくに硬さや強さにいちじるしい増加が見られる場合があり,これを時効硬化という.常温での時効を自然時効(natural aging),またやや高い温度での時効を人工時効(artificial aging)という.時効硬化はアルミニウム合金であるジュラルミンで詳細に研究されている.この現象を利用して強化された実用金属材料の代表的なものに,ジュラルミン,ベリリウム青銅,析出型ステンレス鋼などがある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…鋼は高温に加熱し,水や油に焼き入れることにより硬化するので,ウィルムは同様のことをアルミニウム合金で企てたが,焼入れすると反対に軟らかくなったので,そのまま放置したところ2~3日で著しく硬化したことを発見し,おおいに驚いたといわれる。これが時効硬化(析出硬化)という合金の重要な強化法の発見である。熱処理によって軽いアルミニウムに鋼と同様な強さを与えることができるようになったことから,航空機の材料として注目され,第1次から第2次大戦にいたる間の航空機の発達を支え,この合金もそれとともに改良されてきた。…
…このように時間の経過に伴って性質の変化することを時効ageingといい,そのような熱処理を時効処理と称する。時効処理によって合金が硬化する場合が時効硬化age‐hardeningである。時効硬化は析出硬化と同義の用いられ方をすることが多いが,時効硬化は合金の性質変化に注目しているので,内容的にはより広い言葉である。…
※「時効硬化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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