暖流(読み)ダンリュウ

デジタル大辞泉 「暖流」の意味・読み・例文・類語

だん‐りゅう〔‐リウ〕【暖流】

まわりの海水より温度の高い海流。塩分は高く、プランクトンは少ない。黒潮対馬海流メキシコ湾流など。⇔寒流
[類語]海流潮流寒流渦潮潮目潮境黒潮親潮日本海流対馬海流千島海流
[補説]作品名別項。→暖流

だんりゅう【暖流】[作品名]

岸田国士の小説。昭和13年(1938)発表。病院の再建に尽くす人々の愛憎を描く。
吉村公三郎監督による映画の題名。昭和14年(1939)公開。「啓子の巻」「ぎんの巻」の2篇がある。出演、佐分利信高峰三枝子水戸光子ほか。
増村保造監督による映画の題名。昭和32年(1957)公開。出演、根上淳、左幸子、野添ひとみほか。
野村芳太郎監督による映画の題名。昭和41年(1966)公開。出演、岩下志麻倍賞千恵子、平幹二朗ほか。
[補説]はいずれもを原作とした作品。

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精選版 日本国語大辞典 「暖流」の意味・読み・例文・類語

だん‐りゅう‥リウ【暖流】

  1. [ 1 ]
    1. あたたかい水の流れ。〔越王貞‐奉和聖製過温湯詩〕
    2. 流域外より水温の高い海流。熱帯または亜熱帯に源を発し、高緯度地方に向かって流れる。藍(あい)色・透明で塩分が多く、プランクトンは少ない。黒潮、メキシコ湾流など。⇔寒流
      1. [初出の実例]「此辺を航海するものは其気候の変化に依りて明に寒流及び暖流を知り得べく」(出典:日本地文学(1889)〈矢津昌永〉四)
  2. [ 2 ] 小説。岸田国士(くにお)作。昭和一三年(一九三八)発表。青年日疋(ひびき)祐三は恩義ある志摩病院の再建に尽くし、理想の女性である院長の娘啓子に失恋するが、看護婦石渡ぎんとの愛に新しい生活を見出して行く。理想と現実の中で良心的に生きる青年の姿を肯定的に描く。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「暖流」の意味・わかりやすい解説

暖流(岸田国士の小説)
だんりゅう

岸田国士(くにお)の長編小説。1938年(昭和13)4月19日~9月19日『朝日新聞』に連載。同年12月、改造社刊。東京の大病院志摩病院は経営の危機にあった。院長に恩義を感じる日疋祐三(ひびきゆうぞう)は、前途ある立場を捨てて再建に尽力し、成功する。日疋は院長の娘啓子(理想に生きる女性)に求婚する。啓子は、看護婦として働いている旧友石渡(いしわた)ぎんが日疋を愛していることを知って断る。日疋は石渡ぎん(現実に生きる女性)と婚約して、大陸に新天地を求めて出立してゆく。現実と理想との相剋(そうこく)から生まれる人生の美醜を描き、暗に、西欧的合理主義が受け入れがたい日本の風土性を示すというこの作家特有の近代日本の社会批判が込められている。発表翌年に映画化(吉村公三郎(よしむらこうざぶろう)監督)され評判となった。

[加藤新吉]

映画

日本映画。岸田国士の新聞小説を原作とし、松竹が1939年(昭和14)に吉村公三郎監督で初映画化。現存作は戦後編集版の2時間強だが、オリジナルは前後編あわせて3時間を超える大作。私立の大病院を舞台に、その再建に奔走する事務長(佐分利信(さぶりしん)、1909―1982)と、彼に惹(ひ)かれる院長令嬢(高峰三枝子(たかみねみえこ))と看護婦(水戸光子(みとみつこ)、1919―1981)の恋愛模様が描かれる。大胆なカット割りと新鮮な演出手法、二人の対照的な女性像が話題になり、若手監督・吉村公三郎の出世作となった。1957年(昭和32)に、新人監督の増村保造(ますむらやすぞう)が大映で再映画化し、看護婦の石渡ぎん(左幸子(ひだりさちこ)、1930―2001)を、愛を強く求め自己主張する行動的な女性として大胆に造型。東京駅の改札で「二号でも情婦でもいい」とカラッとした大声で求愛するなど、新しい日本映画のキャラクターを鮮烈に描き出した。1966年にはふたたび松竹で、野村芳太郎(のむらよしたろう)が山田洋次(やまだようじ)との脚本で映画化し、院長令嬢(岩下志麻(いわしたしま)、1941― )と看護婦(倍賞千恵子(ばいしょうちえこ)、1941― )の葛藤を中心にした女性映画に仕上げた。

[冨田美香]

『『暖流』(『昭和文学全集30』所収・1954・角川書店)』『吉村公三郎著『キネマの時代――監督修業物語』(1985・共同通信社)』『山根貞男著『増村保造――意志としてのエロス』(1992・筑摩書房)』『吉村公三郎著『わが映画黄金時代』(1993・ノーベル書房)』『増村保造著、藤井浩明監修『映画監督増村保造の世界――《映像のマエストロ》映画との格闘の記録1947―1986』(1999・ワイズ出版)』


暖流(海流)
だんりゅう
warm current

まわりよりも水温の高い海流。黒潮はその一例である。科学用語というよりは日常用語であるが、対馬(つしま)暖流のように「暖流」を海流名に組み込んだ例もある。暖流は低緯度から高緯度に向かって流れるとは限らない。津軽海峡から三陸沖を南下する津軽暖流が一例である。その源をたどれば対馬暖流なので水温は高い。

[高野健三]

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普及版 字通 「暖流」の読み・字形・画数・意味

【暖流】だんりゆう(りう)

温泉。唐・越王李貞〔聖製、温湯を過(よぎ)るに奉和す〕詩 坎(かんとく)(地)、液を(なが)し 山隈(さんわい)、(なが)す

字通「暖」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「暖流」の意味・わかりやすい解説

暖流【だんりゅう】

流域外に比べ水温の高い海流。海流の相対的な分類で寒流に対する語。多くはその源が熱帯,亜熱帯にあり,一般に高塩分で,酸素,栄養塩は乏しく生産力は低い。黒潮,メキシコ湾流はその代表例。
→関連項目アラスカ海流海流

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デジタル大辞泉プラス 「暖流」の解説

暖流〔岸田国士〕

①岸田国士の小説。1938年発表。私立病院を舞台に男女の愛憎を描く。
②1957年公開の日本映画。①を原作とする。監督:増村保造。出演:根上淳、左幸子、野添ひとみほか。
③東海テレビ制作、フジテレビ系列放映による日本の昼帯ドラマ。①を原作とする。1964年8月~11月放映(全65回)。出演:長内美那子、高松英郎ほか。
④1966年公開の日本映画。①を原作とする。監督・脚色:野村芳太郎、脚色:山田洋次、撮影:川又昂。出演:岩下志麻、倍賞千恵子、平幹二朗、細川俊之小川真由美笠智衆、夏川静江ほか。
⑤TBS系列放映による日本の昼帯ドラマ。ドラマ30。①を原作とする。2007年4~6月放映(全55回)。出演:さとうやすえ、山田純大ほか。

暖流〔泡盛〕

沖縄県、有限会社神村酒造が製造・販売する泡盛。オーク樽で貯蔵・熟成させた古酒を使用。

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海の事典 「暖流」の解説

暖流

中緯度の海流は、近似的に暖水と冷水の境目をほぼ等温線に沿って流れており、暖流といっても、決して周りより暖かい水の流れではなく、海洋学上あまり使わ れない。しいて定義すると、大気に大量の熱を与えつつ、それ自体は流下方向に水温を下げていく海流ということになる。ただ、北半球で岸を右手に、岸に沿っ て流れる海流では、流軸から海岸まで比較的狭い帯状域に暖水が存在することになり、暖流という言葉がぴったりした感を与えるので、対馬海流・宗谷海流・津 軽海流の場合には、しばしば対馬暖流というような呼び方が使われることが多い。 (永田)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「暖流」の意味・わかりやすい解説

暖流
だんりゅう
warm current

流域外の海水に比べて高温な海流。寒流の対語。一般に暖流の源は熱帯や亜熱帯にあり,寒流に比べて高塩分で酸素,ケイ酸塩,リン酸塩などが少い。したがってプランクトンも少く,生産力は小さい。太平洋の黒潮や大西洋のメキシコ湾流は暖流の代表的なものである。日本近海では対馬暖流や宗谷暖流などがある。

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[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクション 「暖流」の解説

だんりゅう【暖流】

沖縄の泡盛。酒名は、進貢船(しんこうせん)が暖流に乗り交易していた琉球交易時代のロマンや華やかさをイメージして命名。昭和43年(1968)に発売された樫樽貯蔵泡盛の先駆け。3年以上熟成させた古酒。古酒をブレンドした一般酒もある。原料はタイ米、黒麹。アルコール度数25%、30%、35%。蔵元の「神村酒造」は明治15年(1882)那覇で創業。平成11年(1999)石川高原の麓に移転。所在地はうるま市石川嘉手苅。

出典 講談社[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクションについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の暖流の言及

【海流】より

…そこで便宜上例えば,吹走流(風の応力でできる流れ),傾斜流(海面傾斜によるもの),密度流(海水の密度差に起因するもの),補流(ある海域の水がなんらかの原因で流れ去るとその分を補うため他から海水が流れてくる)などの言葉を使うことがあるが,もともとこれらを含めて複雑な要因がからみ合って一つの海流を形成するのであるから,上記の分類で海流をはっきり区別するのは無理がある。 このほか,実生活上よく使われる分類として暖流と寒流があるが,科学的には厳密さを欠く分類法で,二つの海流が接している時に温度の高い方を暖流,低い方を寒流と呼んで区別するのに便利だという程度の意味である。例えば黒潮と親潮は三陸沖で接するが,このとき黒潮は暖流,親潮は寒流と呼ばれる。…

※「暖流」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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