暦象新書(読み)れきしょうしんしょ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「暦象新書」の意味・わかりやすい解説

暦象新書
れきしょうしんしょ

江戸時代の物理・天文学書。蘭学(らんがく)者志筑忠雄(しづきただお)が、イギリス人ジョン・ケール(1671―1721)のニュートン力学を解説した物理学書の蘭訳書を、自らの意見を加えて抄訳した書物で、上中下三編からなる。上編は1798年(寛政10)6月、中編は1800年(寛政12)10月、下編は1802年(享和2)10月に完成した。上編で志筑天体の運行について述べているが、地動説を日本に紹介した初期の文献の一つで、本木良永(もときよしなが)が『太陽窮理了解説』で地動説を紹介してから7年後のことである。中編はニュートン力学の解説で万有引力にも及んでいる。下編は主として楕円(だえん)曲線について述べている。各編には附録があり、志筑の見解が述べられているが、とくに下編の最後に付せられている「混沌分判図説(こんとんぶんぱんずせつ)」は志筑の独創的見解を述べたもので、カントラプラス星雲説に比せられるものとして彼の名を高めたものである。

[渡辺敏夫]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「暦象新書」の解説

暦象新書
れきしょうしんしょ

江戸後期の天文物理学書。長崎の元オランダ通詞の志筑(しづき)忠雄が訳述。3巻。1798~1802年(寛政10~享和2)に成立原典オックスフォード大学のジョン・ケイルのラテン語の書をオランダのルロフスがオランダ語訳し,ライデンで出版(1741)したもの。西欧の天文学・力学の理論をのべたものだが,志筑はさらに原書にない独創的な新説も補っている。ほぼ同時代のカントやラプラスの太陽系の成因に関する星雲説を図説しており,18世紀末の日本の水準をはるかにこえている。「日本哲学全書」所収。

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世界大百科事典 第2版 「暦象新書」の意味・わかりやすい解説

れきしょうしんしょ【暦象新書】

江戸後期の物理学,天文学に関する翻訳本。暦象とあるが暦の本ではない。イギリスのオックスフォード大学のケイルJohn Keill(1671‐1721)のラテン語の著述を,オランダのルロフスJohan Lulofsがオランダ訳した《In leidinge tot de waare Natuuren Sterrekunde》(1741)を志筑忠雄が訳述したもの。上・中・下の3編からなり,1798年から1802年にかけてまとめられた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「暦象新書」の意味・わかりやすい解説

暦象新書
れきしょうしんしょ

江戸時代の物理学,天文学の入門書。志筑忠雄訳述。3巻。享和2(1802)年成立。志筑がイギリスの物理学者,数学者のジョン・キール著『自然学入門(真の物理学および真の天文学に対する入門書)』のオランダ語訳を抄訳し,自説を加えて,地動説や光の屈折などを紹介したもの。

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旺文社日本史事典 三訂版 「暦象新書」の解説

暦象新書
れきしょうしんしょ

江戸後期,志筑 (しづき) 忠雄の天文物理の訳述書
1802年完成。3編。ニュートンの弟子ケイルの『真の物理学および真の天文学に対する入門書』のオランダ語訳本を抄訳し,ニュートンの力学やケプラーの地動説・星雲説を自説を交えながら展開した。

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