精選版 日本国語大辞典 「月経」の意味・読み・例文・類語
げっ‐けい【月経】
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一定間隔をもって周期的に反復する子宮体内膜からの出血をいう。脳の視床下部や下垂体と卵巣から分泌されるホルモンによって互いに作用しあい調節されておこるもので、一般には女性が性成熟期にあることを示す生理現象とみられ、俗にメンスまたは「生理」ともよばれる。
[新井正夫]
月経周期は、月経出血開始の初日から次回月経出血開始の前日までの日数をいい、月経出血が終わってから数えるのではない。正常範囲は25~38日と考えてよく、基礎体温の低温相に相当する卵胞期がだいたい13~24日、高温相に相当する黄体期はだいたい11~15日を正常とみてよい。また、月経持続日数は3~6日であり、大部分が7日以内に自然止血する。
月経が正常か異常かを判定する基準として、(1)その月経出血の開始が正常の月経周期に一致していたかどうか、(2)月経出血の量と持続日数が正常かどうか、(3)その月経に先行して排卵があったかどうか、以上の3点があげられる。したがって、その月経が前回月経の初日から数えて24~39日目の間に開始しており、前回排卵後10~18日目に出血がみられ、7日以内に自然止血した場合、その月経は正常というわけである。ただし、排卵の有無は基礎体温でも測定していなければ一般にはわからないので、月経周期と出血持続日数の二つを目標に判断してよい。無排卵性月経の場合は、出血持続日数が8日以上になることが多い。なお、現象的あるいは外観的に排卵性と無排卵性を区別することは困難であり、しかも無排卵性月経を正常というわけにもいかないところから、月経の定義では生理的出血であると強調するのを避けている。実際には無排卵性月経も含めて月経とよんでいるわけで、無排卵性の場合は不妊症の原因となるほかは日常生活には支障がなく、必要に応じて排卵誘発法が行われる。
卵巣には排卵作用があり、だいたい毎月1回1個の卵子をつくりだすが、これがないと普通月経はおこらない。また、子宮体内膜は月経前になると肥厚して柔軟になるが、これは受精卵を着床(妊娠)しやすくするための準備であり、これには卵胞ホルモンが関係している。すなわち、月経周期の前半にまず視床下部に支配される下垂体前葉から卵胞刺激ホルモン(FSH)が分泌され、これが卵巣に達すると、卵巣内の卵胞が発育し、卵胞ホルモンを分泌する。これによって子宮体内膜が増殖する一方、卵胞ホルモンの血中濃度がピークに達すると、下垂体からのFSHが抑制され、今度は黄体形成ホルモン(LH)の分泌が促されるようになる。これが卵巣に達すると、卵胞が成熟して卵巣を飛び出し、いわゆる排卵がおこったあとの卵巣内に黄体とよばれる黄色の組織ができ、黄体ホルモンを分泌するようになる。これは月経周期の後半に相当し、黄体ホルモンは子宮体内膜を肥厚させ、血管の発育を促進して柔軟さを加え、妊娠しやすい状態をつくらせる。しかし、受精がおこらない場合は、黄体が衰えて黄体ホルモンを分泌しなくなり、増殖した子宮体内膜が剥離(はくり)して出血をおこす。これが月経である。もしも受精卵が子宮体内膜に着床すると、黄体は妊娠黄体となって、妊娠状態が順調に続くように黄体ホルモンを継続して分泌する。したがって、妊娠すると月経が止まるわけであり、月経があれば妊娠していないことになる。
なお、妊娠のほか、産褥(さんじょく)や授乳期にも月経はみられないが、これを生理的無月経という。要するに月経とは、卵巣機能によっておこる子宮体内膜の変化の一兆候なのである。
[新井正夫]
初めての月経を初経または初潮という。そのおこる年齢は、気候、文化、社会環境、体格、栄養などによって異なる。日本人では第二次世界大戦後だんだん早まり、だいたい12~13歳においてである。10歳未満、とくに8歳以前にみられる場合は、早発月経、早発思春期あるいは思春期早発症、性早熟症などとよばれ、異常とされる。逆に16~18歳になっても初経のみられない場合も異常とされ、思春期遅発症あるいは晩発月経とよばれる。
[新井正夫]
普通は出血が徐々に現れ、徐々に止血するが、第2日目の出血量がもっとも多く、しだいに減少する。中休みするなど個人差もある。月経前には帯下(たいげ)(おりもの)が増加し、月経に近づくにつれて赤色を帯び、ついに血液様となる。月経血は俗に経血ともよばれ、その性状は静脈血よりさらに暗赤色を呈し、乾燥すると褐色にみえる。鮮紅色の場合は異常である。また凝固性に乏しく流動性で、長時間放置しても凝固しない。これは、子宮腟(ちつ)内でいったん凝血したのち、血中にあらかじめ存在したプラスミノーゲンが活性型のプラスミンになり、線維素フィブリンを溶解して血液が流動性になったものであり、凝血が混じる場合は病的に多量なときである。さらに経血は弱アルカリ性を示し、一種の臭気がある。このにおいは血液の分解物、外陰部の皮脂腺(せん)分泌物などによる。なお、出血量は個人差が大きく、普通は100cc前後である。
[新井正夫]
月経に伴う症状にも個人差があり、健康な人でも多少の症状がみられる。下腹部が張ってきて重苦しいとか、腰痛や頭痛、下肢がひきつる、全身がだるい、乳房が張って痛むなどのほか、まれに発疹(ほっしん)(月経疹)を生じたり、神経過敏で興奮しやすくなり、情緒の安定を欠くこともある。これらをまったく感じない人もあるが、また程度の激しいものは異常とみなければならない。月経前7~10日ごろからおこるものを月経前症候群という。
[新井正夫]
月経時には、細菌が感染して繁殖しやすく、精神的、肉体的にも抵抗力が弱まっていて、過労や不摂生で病気をおこしやすい。とくに淋疾(りんしつ)をはじめ、肺結核や喘息(ぜんそく)のほか、胃潰瘍(かいよう)、胆石症、皮膚病、リウマチ、てんかんなどの人も病状が悪化しやすいので、注意する必要がある。
[新井正夫]
経血はつねに流れ出すので、これを受けるものを外陰部にあてがう必要がある。これが月経帯で、生理用品としてタンポンやナプキンが市販されている。腟の洗浄などはする必要がなく、むしろしてはならない。入浴も好ましくなく、性交は衛生的にもよくない。行水やシャワーで体を清潔にするのはよい。なお、初経の近い娘には母親から体験を交えて話し、十分に理解させておく。小学校でも適期の女子を集めて指導している。
[新井正夫]
月経周期の後半に黄体ホルモン剤を毎日連用すると予定の月経が延び、服用中止後2~3日で月経がおこる。早める場合は月経周期の前半5日目ころから約5日間連用し、中止後2~3日で無排卵性月経をおこす。これは、だれでも成功するとは限らないばかりか、乱用すると異常をきたすので、医師に相談するのが望ましい。
[新井正夫]
月経周期や出血持続日数の長さをはじめ、初経と閉経の時期、出血量の多少、随伴症状の激しさなど、正常範囲外にあるものを総称して月経異常とよぶ。おもなものを次に列挙する。
(1)無月経 成熟女性で月経のみられないものをいい、生理的なものと病的なものがある。満18歳を過ぎても初経をみないもの(それまでに1、2回しか月経様出血のなかったものも含む)をはじめ、以前あった月経が2か月以上みられない場合などがある。
(2)希発月経 月経周期が正常よりも長いものをいい、39日以上から8週以内に延長した状態である。
(3)頻発月経 月経周期が正常よりも短いものをいい、24日以内に次の月経がみられる状態である。
(4)不整周期 月経周期が毎回8日以上変動する場合で、やはり月経周期の異常である。
(5)過多月経 月経の出血量が多すぎるもので、月経過剰ともいう。毎回出血量が多すぎる場合は過多月経症とよばれる。月経持続日数も長くなりがちで、7日以上になる過長月経や頻発月経としばしば同時にみられる。なお、過多月経の経血には凝血の混じることが多く、貧血を引き起こすこともある。
(6)過少月経 月経の出血量が少なすぎるものをいい、月経持続日数が2日以内という過短月経や希発月経と同時にみられることが多い。血性帯下だけで終わることもある。
(7)月経困難症 月経随伴症状が日常生活に支障をきたすほど異常に強いものをいう。随伴症状のうち、とくに下腹痛や腰痛など痛みについてのみ注目する場合は月経痛とよぶ。また、月経前7~10日から症状が現れ、月経開始とともに消失する場合は月経前症候群とよんでいる。
(8)代償性月経 鼻出血など子宮以外の部位に周期的な出血が毎月みられるもので、無月経の女性にまれにおこる。このような出血が月経時にみられるものは、補充月経という。
(9)早発閉経 月経が消失することを閉経というが、正常よりその時期が異常に早いものを早発閉経または早期閉経とよぶ。一般に40歳以前の閉経をさす。病態としては原発性無月経と同じものである。
(10)晩発閉経 56歳以後に閉経したもので、遅発閉経ともいう。閉経年齢は時代とともに多少延長しており、晩発閉経は卵巣機能の低下というよりも亢進(こうしん)を意味するわけで、かならずしも病態とはいえない面もある。
[新井正夫]
少女に初経があると、親が赤飯を炊いて家族で祝ったり、餅(もち)を搗(つ)いて近隣に配る風習が広く行われる。少女が一人前の女性に成長し、結婚可能な状態に達したことを祝福し、社会的にも認めてもらうためである。ところが一方、出産や月経は血忌み、赤不浄(あかふじょう)などといって、古来、穢(けがれ)と考えられてきた。神社の鳥居をくぐらず、神棚の前を通ったり井戸に近づくこともしなかった。神事に際しては、本人が参加できないばかりか、夫が神役にあたっていると、月経中の家族を親戚(しんせき)に預ける所もあった。漁師や山仕事をする人たちの間では、血忌みに対して敏感で、家族に月経の者があると獲物(えもの)がないといって休むことがあった。その期間の女性は、台所や土間などで家族と別に食事をしたり、別の竈(かまど)や鍋(なべ)で煮炊きしたものを食べたりした。瀬戸内海の島々や伊豆諸島などには、月小屋、他火(たび)小屋、不浄小屋などといって、その期間の女性が隔離生活を送る小屋が第二次世界大戦前まであった。産小屋(さんごや)(産屋(うぶや))と共通の場合もある。
自然の摂理である月経を、なぜ不浄視したのかについては諸説がある。血液神聖観の裏返しであるとか、男性原理による差別であるとか、仏説に基づくなどが考えられてきた。民族差も認められるようである。生命力の源である血液が、外傷や吐血によって失われて衰弱するのになぞらえて、出血をすべて穢とみたのが始まりではないか。それが社会観や宗教観と結び付いたものと思われる。
[井之口章次]
月経や出産を穢(けが)れたもの、不浄なものと考え、それゆえ危険をもたらすものとみなして、月経中の女性の行動に規制を加えたり、物理的に隔離したりする社会は世界中に数多く存在する。その傾向がもっとも顕著な例は、男女の対立が明確に認識され、居住空間も厳密に区別されているニューギニア高地諸部族であって、マエ・エンガ人の場合、男性は月経血や月経中の女性に触れると重い病気になり、月経血が男性の血液中に入るとたちまち死ぬと信じられ、月経血は邪術にも使われる。それゆえ、月経中の女性は月経小屋に隔離され、自分で食物を集め、調理しなければならない。また月経中の食物は女性が栽培するものに限られており、男性の栽培する畑に入ると作物が枯れるといわれている。一方で北アメリカの先住民ユーロクのように、女性が月経小屋にこもる間、夫はサウナ小屋にこもって力の増大を図るといった、男性側の隔離をも伴う社会もある。初経に際してなんらかの儀礼が行われる社会も数多くみいだされ、いずれも少女から妊娠可能な女性への地位の移行を本人と集団の成員に認知させる機能をもつ通過儀礼である。月経がなぜ穢とされるかは各民族により異なっているが、人類学的視点からみた場合、月経のもつ両義性が注目される。
まず月経血は、他の排泄(はいせつ)物、切られた髪、爪(つめ)などと同様、身体に属するようで属さないという両義性をもつ。それに加えて、月経は女性のもつ両義性の象徴でもある。すなわち、女性はある文化に属する「文化的」な存在であると同時に、自然の豊饒(ほうじょう)性、多産性をもった「自然的」な存在でもあって、出産あるいは月経中の女性においてその両義性がとくに顕著に現れることになる。異なるカテゴリーの間で両義性・あいまい性をもつものが不浄視されタブーとされることでカテゴリー間の差異が明白にされる、という現象は、多くの文化で普遍的にみられるが、月経が穢とされるのも、月経のもつ両義的な性格によるところが大きいと考えられる。
[上田紀行]
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…LHは,FSHとともに卵胞の発育を促進するだけでなく,女性(雌性)ホルモン(エストロゲン)の産生と分泌を刺激する。FSH,LHによって完成された卵巣の成熟卵胞は,月経中間期におこる脳下垂体前葉からの急激なLHの分泌に反応して排卵をおこし,黄体が形成される。他方,男子では,FSHは睾丸の精子形成をうながし,LHは睾丸の間質細胞における男性(雄性)ホルモン(テストステロン)の合成と分泌を促進する。…
…筋層と内膜を構成する細胞は,卵巣ホルモンおよび一部の下垂体ホルモンの支配下にあり,性周期や生殖活動に伴い,著しい形態学的・生理学的変化を遂げる。霊長目では月経現象があり,子宮内膜が定期的に脱落し排除される。霊長目以外に,真の月経周期をもつ動物はない。…
…最初の月経。初経ともいう。…
…血が流れて草花や土を染めた,という類の伝説は世界各地にあり,たとえば南方熊楠《十二支考》の〈虎〉の項に詳しい。月経を忌む迷信も日本を含む世界各地にある。大プリニウスによれば,経血が触れると新しいブドウ酒は酸っぱくなり,果実は木から落ち,鏡は輝きを失い,鋼鉄の刃は鈍くなり,ブロンズや鉄は直ちにさびるなどとある(《博物誌》第7巻)。…
…私の目が星になり,私の血が虹になったときには,お前たちの妻も娘も血を出すだろう〉と予言した。首が月になって以来,月経が始まり,女は妊娠するようになった。死と月が人間の生殖力の前提となっているという観念がここにある。…
…妊娠している婦人を妊婦といい,はじめて妊娠した人を初妊婦,2度目以後の妊娠をしている人を経妊婦,妊娠第24週以上での分娩をはじめて経験する人を初産婦,2度目以後の分娩を経験する人を経産婦という。
[妊娠持続日数]
妊娠持続日数を正確に知ることは困難であることが多いので,臨床上は最終月経の第1日から分娩に至る日数を妊娠持続日数と規定している。この日数は統計によると280±17日(平均280日,40週)である。…
※「月経」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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