有る(読み)アル

デジタル大辞泉 「有る」の意味・読み・例文・類語

あ・る【有る/在る】

[動ラ五][文]あ・り[ラ変]

事物が存在する。「庭には池が―・る」「重大な欠陥が―・る」
その場所に存在する。位置する。「本社は東京に―・る」「沖ノ鳥島は日本最南端に―・る」
ある事柄がはっきり認められる。また、ある状態に置かれていると認められる。「非は先方に―・る」「土地は高値安定の傾向に―・る」「大国の影響下に―・る」
それによって決まる。それ次第である。左右される。「解決の糸口は相手の出かたに―・る」
(その存在を客観的、抽象的なものとして捉え)人が存在する。居る。「昔々、おじいさんとおばあさんが―・りました」「異を唱える人も―・る」
この世に生きている。生存している。「世に―・る間」
ある場所に身を置く。また、特定の位置・状態にいる。「現場に―・って指揮に当たる」「長年、会長の職に―・った」「病床に―・る」「逆境に―・ってもくじけない」
自分のものや付属として持っている。所持・所有している。「財産が―・る」「投票権が―・る」「バラにはとげが―・る」
身に付いたものとして持っている。中に持つ。備わる。含まれる。「教養が―・る」「貫禄が―・る」
10 ある考え・気持ち・感覚などを持っている。「お願いが―・る」「言いたいことが―・る」「かすかな痛みが―・る」
11 時間的、空間的に、その数量であることを表す。「開幕まで一週間―・る」「彼は一八〇センチ―・る」
12 事が起こる。事柄が発生する。出来しゅったいする。また、物事が行われる。「昨夜、地震が―・った」「土砂崩れの―・った現場」「これから重大発表が―・る」「一言、謝罪が―・ってもいいだろう」
13 時間がたつ。「やや―・って口を開いた」
14 特定の語句と結び付いた形全体で、種々の意味を表す。
㋐(引用の「と」を受けた「とある」の形で)…と書いてある。…という。…ということだ。「メモには午後二時に来社すると―・る」「命令と―・ればしかたがない」「死んだと―・ればあきらめもつく」
㋑(「とあって」の形で)状況・結果がそうであるので。…ということなので。「行楽シーズンと―・って道路が相当混む」「合意の上と―・っては反対もできない」
㋒(「だけある」「だけのことはある」の形で)それにふさわしい状態・結果が得られることを表す。「自慢するだけ―・ってよくできている」「さすが特訓しただけのことは―・る」
㋓(「ことがある」の形で)場合によっては…する、…の経験をしている、などの意を表す。「季節によってメニューの一部を変更することが―・ります」「富士には何回も登ったことが―・る」
㋔(「にあって」の形で)その範囲で、…において、の意を表す。「わが党に―・って随一の政策通だ」
補助動詞
動詞の連用形接続助詞「て」を添えた形に付いて用いる。
㋐ある動作や行為などの結果が現在まで引き続いている意を表す。「花が生けて―・る」「ドアが閉めて―・る」
㋑何かに備えてすでに用意がなされていることを表す。「軍隊を待機させて―・る」「彼女には前もって伝えて―・る」
㋒(「…にしてある」の形で)そうなっていないが、そうなったものとみなしていることを表す。「心配をかけないように、元気でいることにして―・る」
動詞の連用形に接続助詞「つつ」を添えた形に付いて、動作・作用が継続して現在も行われていることを表す。「梅のつぼみがほころびつつ―・る」「月がのぼりつつ―・る」
名詞に助動詞「だ」の連用形「で」を添えた形に付いて、事柄の説明で、そのような性質をもっている、そのような状態・事態である、と判断する意を表す。「人間は考えるあしで―・る」「トマトはナス科植物で―・る」
形容詞形容動詞の連用形、または、その連用形に助詞を添えた形に付いて、そういう性質をもっている、そういう状態であることを言い定める意を表す。「常に美しく―・りたいと願う」「悲しくは―・るが、じっと耐えよう」
動詞の連用形や動作性の漢語名詞などに付いて、多く「お…ある」「…ある」の形で、その動作をする人に対する尊敬を表す。「おいで―・れ」「御笑覧―・れ」
[補説](1) 「ある」は、広く、五感などを通して、空間的、時間的に事物・事柄の存在が認められる意がおおもと。古くは「昔、男ありけり」〈伊勢・二〉のように、人に関しても用いたが、現在ではふつう人間・動物以外の事物についていい、人間・動物については「いる」を用いる。しかし、「予想外の参加者があった」「強い味方がある」など、人に関しても「ある」が用いられることがあり、この場合は人が概念化・抽象化した立場でとらえられていたり、所有の意識が認められていたりする。(2) 補助動詞としての「つつある」2は英語などの進行形の直訳的表現。文語の補助動詞「あり」は一部の副詞「かく」「しか」「さ」などや、助動詞の「ず」「べし」の連用形に付いて用いられることがある。「けり」「たり」「なり」「めり」などのラ変型活用の助動詞および形容詞語尾「かり」、形容動詞語尾「たり」「なり」などは、いずれも「あり」が他の要素と結合してできたもの。ふつう、存在する意の場合は「在」を、所有する意の場合は「有」の字を当てるが、かな書きにすることも多い。なお、「ある」の打消しは文語では「あらず」であるが、口語では「あらない」とはいわず、形容詞の「ない」を用いる。
[下接句]余り物に福がある上には上がある腕に覚えがある裏には裏がある気がある二度ある事は三度ある残り物に福がある花も実もある一癖も二癖もある身に覚えがある脈がある一年の計は元旦にあり遠慮なければ近憂あり壁に耳ありからす反哺はんぽの孝あり国破れて山河あり心ここに在らず沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり死生めいあり信あれば徳あり捨てる神あれば拾う神あり生ある者は必ず死あり積悪の家には必ず余殃よおうあり積善の家には必ず余慶あり男子家をいずれば七人の敵ありつめに爪なくうりに爪あり敵は本能寺にあり人間にんげん到る所青山あり初め有るものは必ず終わり有りはとに三枝の礼有り待てば海路の日和ひよりあり待てば甘露の日和あり身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ楽あれば苦あり我思うゆえに我在り
[類語]居るいらっしゃるおる居合わせる控える・おられる・おいでになるおわすおわしますまします存在

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精選版 日本国語大辞典 「有る」の意味・読み・例文・類語

あ・る【有・在】

  1. 〘 自動詞 ラ行五段活用 〙
    [ 文語形 ]あ・り 〘 自動詞 ラ行変 〙
  2. [ 一 ] 物事や生物などの存在が認められる。
    1. 存在する。
      1. (イ) 人、動物の場合。いる。
        1. [初出の実例]「遠々し 高志(こし)の国に 賢(さか)し女(め)を 阿理(アリ)と聞かして」(出典古事記(712)上・歌謡)
        2. 「今は昔、たけとりの翁といふもの有けり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      2. (ロ) 無生物、物事などの場合。
        1. [初出の実例]「大猪子(おほゐこ)が 腹に阿流(アル) 肝向かふ 心をだにか 相思はずあらむ」(出典:古事記(712)下・歌謡)
        2. 「天ざかる 鄙(ひな)にはあれど わが背子を 見つつしをれば 思ひやる 事も安利(アリ)しを」(出典:万葉集(8C後)一七・四〇〇八)
        3. 「日本国に、平家の庄園ならぬ所やある」(出典:平家物語(13C前)三)
    2. この世に生きている。生き長らえる。生存する。
      1. [初出の実例]「鏡なす 吾(あ)が思ふ妻 阿理(アリ)と 言はばこそよ」(出典:古事記(712)下・歌謡)
      2. 「小督(こがう)があらんかぎりは世中よかるまじ」(出典:平家物語(13C前)六)
    3. ある場所にとどまっている。また、住む。暮らす。
      1. [初出の実例]「潮待つと安里(アリ)ける船を知らずしてくやしく妹を別れ来にけり」(出典:万葉集(8C後)一五・三五九四)
      2. 「家にあり、人に交はるとも後世を願はんに難かるべきかは」(出典:徒然草(1331頃)五八)
    4. ちょうどその場にいる。居合わせる。
      1. [初出の実例]「もち月の明かさを十合せたるばかりにて、ある人の毛の穴さへ見ゆる程なり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    5. あるものに所属して存在する。所有されている。
      1. [初出の実例]「たつのくびに五色の光ある玉あなり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      2. 「財あればおそれ多く、貧しければうらみ切なり」(出典:方丈記(1212))
    6. 目立つ状態で存在する。
      1. (イ) ( 「世にあり」の形で ) 繁栄して過ごす。はなやかに暮らす。
        1. [初出の実例]「維盛こそ〈略〉むなしうなるとも、このごろは世にある人こそ多けれ」(出典:平家物語(13C前)一〇)
      2. (ロ) すぐれている。すぐれたところを持つ。
        1. [初出の実例]「くらもちの御子は心たばかりある人にて」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
        2. 「弓矢取っても打物取っても、我こそあらめ」(出典:保元物語(1220頃か)中)
        3. 「腕に芸のあるのが〈略〉一番安心」(出典:二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉下)
    7. ( 言葉が存在するの意から、多く「…とある」の形で )
      1. (イ) 口に出す。文字に書かれている。「言う」「書く」より間接的な表現なので、敬意がこもる場合が多い。
        1. [初出の実例]「めして郭公まつ歌よめとありければよめる」(出典:古今和歌集(905‐914)夏・一六一・詞書)
      2. (ロ) 「ある」が「口に出す」の意を失って形式的に用いられる場合。
        1. [初出の実例]「飯山病院へ入院の為とあって」(出典:破戒(1906)〈島崎藤村〉一)
    8. ( 多く動作が付随している物事を表わす名詞の下にきて ) 行なわれる。起こる。
      1. [初出の実例]「玉の取りがたかりし事を知り給へればなんかんだうあらじとて参りつると申す」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      2. 「改元あって寿永と号す」(出典:平家物語(13C前)六)
    9. ( 間に時があるの意から ) 時間がたつ。経過する。
      1. [初出の実例]「三日ばかりありて、漕ぎかへり給ひぬ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      2. 「いくばくもあらで明けぬ」(出典:枕草子(10C終)一〇四)
  3. [ 二 ] 補助動詞として用いられる。
    1. ( 断定の助動詞「なり」「たり」「だ」の連用形「に」「と」「で」に付いて ) 指定の意を表わす。間に助詞がはいる場合が多い。
      1. (イ) 「に」に付く場合。
        1. [初出の実例]「一つ松 人に阿理(アリ)せば 太刀佩(は)けましを」(出典:古事記(712)中・歌謡)
        2. 「世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にし安良(アラ)ねば」(出典:万葉集(8C後)五・八九三)
        3. 「いとやむごとなき際(きは)にはあらぬが」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
      2. (ロ) 「と」に付く場合。
        1. [初出の実例]「なかなかに人と有(あら)ずは酒壺になりにてしかも酒にしみなむ」(出典:万葉集(8C後)三・三四三)
        2. 「人の友とあるものは」(出典:方丈記(1212))
      3. (ハ) 「で」に付く場合。
        1. [初出の実例]「乙女は〈略〉後々は幾代之介と夫婦にする筈である」(出典:歌舞伎・今源氏六十帖(1695)二)
        2. 「過日(このごろ)も或儒先生〈略〉髦髪(かみのけ)までが長いであると、見て来た様なる国字解」(出典:滑稽本・浮世床(1813‐23)初)
    2. ( 種々の語に付いて ) そういう状態である意を表わす。間に係助詞のはいる場合が多い。
      1. (イ) 形容詞、形容動詞の連用形に付く場合。
        1. [初出の実例]「赤玉は 緒さへ光れど 白玉の 君が装(よそひ)し たふとく阿理(アリ)けり」(出典:古事記(712)上・歌謡)
        2. 「かくこまかにはあらで」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)
      2. (ロ) 打消の助動詞「ず」、推量の助動詞「べし」の連用形に付く場合。
        1. [初出の実例]「置目(おきめ)もや 淡海の置目 あすよりは み山隠りて 見えずかも阿良(アラ)む」(出典:古事記(712)下・歌謡)
        2. 「おのづからあるべきことはなほすべくもあらじものを」(出典:枕草子(10C終)三五)
      3. (ハ) 副詞「かく」「しか」「さ」などに付く場合。
        1. [初出の実例]「世の中は恋繁しゑやかくし阿良(アラ)ば梅の花にもならましものを」(出典:万葉集(8C後)五・八一九)
      4. (ニ) 係助詞「こそ」を受けて「…は…あれ」の形の場合。「…については…こそがそうである」の意。
        1. [初出の実例]「男こそ、なほいとありがたくあやしき心地したるものはあれ」(出典:枕草子(10C終)二六八)
    3. ( 動詞の連用形、あるいはそれに助詞「て」「つつ」を添えた形に付いて ) 動作、作用、状態の進行、継続や、完了した作用の結果が残っていることを表わす。間に係助詞のはいる場合もある。
      1. (イ) 動詞の連用形に助詞「て」を添えた形に付く場合。
        1. [初出の実例]「旅なれば思ひ絶えても安里(アリ)つれど家にある妹し思ひがなしも」(出典:万葉集(8C後)一五・三六八六)
        2. 「かくさしこめてありとも」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
        3. 「物の入ってある長持と間夫のない女郎とはないものだ」(出典:洒落本・郭中奇譚(1769)弄芲巵言)
      2. (ロ) 助詞「つつ」に付く場合。
        1. [初出の実例]「かくのみや 息づきをらむ かくのみや 恋ひつつ安良(アラ)む」(出典:万葉集(8C後)八・一五二〇)
      3. (ハ) 動詞の連用形に付く場合。
        1. [初出の実例]「大砲千挺余も据つけあり」(出典:西洋道中膝栗毛(1874‐76)〈総生寛〉一二)
    4. ( 動詞、形容詞の連用形に、助詞「て」を添えた形に付いて ) そのままの状態で過ごす。それで済ますの意を表わす。
      1. [初出の実例]「なき名ぞと人にはいひて有ぬべし心のとはばいかがこたへん〈よみ人しらず〉」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)恋三・七二五)
      2. 「子といふものなくてありなん」(出典:徒然草(1331頃)六)
    5. ( 動作性の漢語名詞、または動詞の連用形に付いて ) その動作をする人に対する尊敬の意を表わす。
      1. (イ) 敬意を含んだ動作性の漢語名詞(接頭語「御」によって敬意を添えるものもある)に付く場合。
        1. [初出の実例]「正月五日、主上御元服あって」(出典:平家物語(13C前)一)
        2. 「是御覧あれ」(出典:浄瑠璃・今宮心中(1711頃)中)
      2. (ロ) 動詞の連用形に、敬意の「御」をのせた形に付く場合。
        1. [初出の実例]「少し御まどろみ有ける御夢に」(出典:太平記(14C後)三)
        2. 「お気遣あられな」(出典:浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)上)
      3. (ハ) 敬意を含まない動作性漢語名詞や動詞の連用形に付く場合で、(イ)(ロ)よりは敬意が薄い。
        1. [初出の実例]「中納言兼雅卿も所望あり」(出典:平家物語(13C前)一)
        2. 「ちとねうすと思ふほどにそなたは先づ帰りあれぞ」(出典:玉塵抄(1563)三七)

有るの語誌

( 1 )鎌倉時代以前には、人か物事かに関わらず、存在を表わすために「あり」が用いられた。敬語形としては、尊敬語の「おはす」「いますがり」「ござる」、謙譲語の「はべり」「候」等が用いられ、時代・文献によって変遷がある。
( 2 )江戸時代以後、特定の時間・場所を占める存在の意味ではもっぱら「いる」が用いられるようになった。しかし現代語でも抽象的な存在を表わす場合や漠然と有無を問題にする場合には、人間を主語とする場合でも「ある」が用いられる。「相手のあることだけに」「兄弟が三人ある」など。

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