精選版 日本国語大辞典 「朝顔」の意味・読み・例文・類語
あさ‐がお ‥がほ【朝顔】
[1] 〘名〙
※大和(947‐957頃)八九「垣ほなる君があさがほ見てしがな返りてのちは物や思ふと」
※枕(10C終)二七八「殿おはしませば、ねくたれのあさがほも、時ならずや御覧ぜんと、ひき入る」
[二] 植物。
① ヒルガオ科の一年草。アジアの原産で、日本で園芸植物として発達し、江戸時代、嘉永・安政年間(一八四八‐六〇)には非常に多くの品種が作られ、薬用としては平安時代初期から栽培されていた。茎は左巻きのつる性で物に巻きつき、長さ二メートル以上になる。全体に粗い逆毛が生えている。葉はふつう三裂し、長い柄があり、互生する。夏の早朝、直径一〇~二〇センチメートルのじょうご形の花を葉腋(ようえき)に一~三個つける。花は早朝開花し、午前中にしぼんでしまう。花の色は品種によって白、紅、青、紫など。また、それらが交じりあって縞や絞りの模様をつくるものもある。にほんあさがお。しののめそう。牽牛花(けんぎゅうか)。かがみぐさ。蕣花(しゅんか)。→朝顔の。《季・秋》
※俳諧・蕪村句集(1784)秋「朝がほや一輪深き淵のいろ」
※延喜式(927)三七「四味理仲丸廿剤〈略〉牽牛子丸五剤〈略〉牽牛子(あさがほ)三斤十三両」
※新撰字鏡(898‐901頃)「桔梗 二八月採レ根曝干、阿佐加保」
④ 植物「むくげ(木槿)」の異名。
※蘇悉地羯羅経寛弘五年点(1008)「木菫(アサカホ)の花計得剣花〈略〉等亦用ゐる応からず」
[三] (二)①の花の形をしたものをいう。
① 上が狭く、下が開いている天窓。朝顔窓。
※雑俳・柳多留‐四四(1808)「暮合に朝㒵の咲く呉服店」
※歌舞伎・四天王産湯玉川(1818)二番目「朝顔(アサガホ)付きの手燭(てしょく)を持って送りの見え」
③ 銭箱の中へ銭を落とし入れるために取りつけたじょうご状のもの。
※歌舞伎・四千両小判梅葉(1885)二幕「内に掛硯大帳此側に朝顔(アサガホ)附の大銭箱(おほぜにばこ)」
④ 朝顔形のコップ。
※浄瑠璃・本領曾我(1706頃)三「るりびいどろのあさがほで、みりんしゅのんでましますは」
⑤ 小便所の陶製、または木製の便器。本来は朝顔形のもののみをいうが、転じて、洋式便所の朝顔形でないものにもいう。〔東京語辞典(1917)〕
※陰翳礼讚(1933‐34)〈谷崎潤一郎〉「分けてもあの、木製の朝顔に青々とした杉の葉を詰めたのは」
⑥ 新聞売り、豆腐屋、煮豆屋、駅夫などが振った鈴。振り鈴。〔東京語辞典(1917)〕
⑦ 紋所の名。朝顔の丸、五つ朝顔、朝顔枝蔓丸、細輪に六つ朝顔などがある。

[四] 昆虫「かげろう(蜉蝣)」の異名。あさがおむし。
※山彦冊子(1831)二「あさがほ〈略〉毛詩の古訓に、蜉蝣をあさがほと訓みたるも、朝生夕死と云に就て、猶彼の牽牛子のはかなき方より、転れる名なり」
[五] 青磁色の襲(かさね)の色。検非違使が用いた。表裏とも、空色、または縹(はなだ)色ともいう。
※胡曹抄(1480頃)「あさかほ 表裏花田、としよりのきる也」
[六] (ひ(日・火)にあてればしぼむところからいうか) 焼麩(やきふ)をいう女房詞。ふのやき。〔かた言(1650)〕
[2]
[一] 「源氏物語」第二〇番目の巻の名。また、その主人公「あさがおの君」をいう。
[二] 謡曲。小田切能登作。三番目物。(一)によったもの。
[三] (蕣) 講釈。芝屋司馬叟(しばそう)の長話の一つ。またその主人公の名。熊沢蕃山(ばんざん)の事跡を語ったもの。浄瑠璃「生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)」などのもとになった。
[語誌](1)上代における「あさがお」については諸説あって決めがたいが、桔梗とするのが無難。
(2)「万葉集」では秋の野に咲く花として親しまれていたことがわかる。平安時代には、朝咲いて夕方にはしぼむ花というはかないイメージが持たれ、「和漢朗詠‐上・槿」「あさがほをなにはかなしと思ひけむ人をも花はいかが見るらむ〈藤原道信〉」のように、花の命の短さと無常観を結びつけて歌うようになる。
(2)「万葉集」では秋の野に咲く花として親しまれていたことがわかる。平安時代には、朝咲いて夕方にはしぼむ花というはかないイメージが持たれ、「和漢朗詠‐上・槿」「あさがほをなにはかなしと思ひけむ人をも花はいかが見るらむ〈藤原道信〉」のように、花の命の短さと無常観を結びつけて歌うようになる。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報