文書による国際法上の明示の合意で,国際法上の法律関係,権利義務を形成するもの。国際法上の黙示の合意は国際慣習として国際法上の権利義務を形成し,国際法の法源となるが,合意が明示のものであるときは条約として国際法の法源を構成する。この合意は,国家が当事者となるのが原則であるが,例外的に国際機構(国際連合など)が条約の当事者として認められる場合がある。国際社会の組織化に伴って,国際機構が当事者となって締結する条約の数が増加する傾向にある。
具体的な条約は個々の場合に必ずしも〈条約treaty〉と呼ばれるわけではなく,〈取極arrangement〉〈協定agreement〉〈憲章charter〉〈規約covenant〉〈規程statute〉〈交換公文exchange of notes〉〈往復書簡exchange of letters〉〈議定書protocol〉〈覚書memorandum〉などさまざまな名称が付せられる。これらのものは名称の差異にかかわらず実質的には条約と同意義であり,その内容によって名称が一定しているわけでもない。
条約はさまざまな基準によって分類されうる。まず,当事国の範囲を基準として2国間条約と多数国間条約とに区別することができる。後者はさらに,当事国の範囲が限定的であるか一般的であるかによって,限定的多数国間条約(閉鎖条約)と一般的多数国間条約(開放条約)とに分類される。つぎに,条約によって表示される国家の意思を基準として,その意思が共通の目的実現のため同一方向に向けられている立法条約と,相互間の利害調整のため相対抗する契約条約とに分類される。また,条約の内容によって,政治条約,軍事条約,経済条約等に分類することもできる。
従来,条約の締結手続,適用解釈,および効力などは国家間の条約を中心として慣習法的に形成されてきた。しかし国際社会の発展に伴い,締結される条約は急激に増加し,その内容も多様化したために,慣習法規からなる条約法の規則では現実の発展に十分に対応できなくなった。1969年に採択された〈条約法に関するウィーン条約〉(略称ウィーン条約)はこの必要にこたえて国家間に締結される条約に関する諸規則の法典化を試みたものであり,今後の条約関係に法的枠組みを提供するものとして重要である(1980年1月27日効力発生)。
条約締結にあたっては,通常,まず,国家の権限ある代表者の間で交渉が行われ,合意が成立した段階で条約文の採択,認証(条約の文言が確定的な正文であることを承認・証明する行為),署名(調印ともいう)が行われる。条約には署名のみで効力を生じるものと,さらに批准(内容の確定した条約に拘束されることを受諾する意味の最終的意思表示)を必要とするものとがあるが,どちらにするかは交渉国の合意によって決められる。重要な条約は批准を必要とするのがふつうであるが,最近では署名のみで発効する重要な条約もある。署名,批准という手続のかわりに受諾または承認という手続のみで条約に参加する場合もある。条約に署名しなかった国があとから条約に加わる場合には加入という手続がとられる。2国間条約は双方の署名や批准書の交換によって,また多数国間条約はふつう批准書を特定の政府または国際機構の事務総長に寄託することによって効力を発生する。
条約にとくに定めのない場合,空間的にその条約は各当事国の全領域に適用される。時間的には,その当事国について効力を生ずる以前の行為や事実に関してその国を拘束することはない。また,ある条約と同一の事項を対象とする新条約が締結され,それぞれの条約の当事国が部分的に重複する場合がある。この場合,いずれかの2国間の権利義務関係は両国が共通に当事国となっている条約の規定に従い,ともに両条約の当事国である2国間においては新条約が適用されるのを原則としている。
条約の効力は原則として当事国だけに及ぶ。条約が当事国の国内関係にどのようにその効力を及ぼすか(条約の国内的効力)は基本的にはその当事国の国内法上の措置にゆだねられている。その受入れの方法は多くの場合憲法に規定され,あるいは憲法慣行で定められている。諸国の立場には,自国が結んだ条約の効力を国内関係にもそのまま認める立場(条約の受容)と国内の立法手続によって個々に国内法化することによりはじめて国内関係に効力を認める立場(条約の変型)とがある。最近では条約の国内的効力をそのまま認める国が増加している。この場合,さらに条約を国内法制との関係でどこにその効力を位置づけるかが問題となる。これも,その国の国内法制にゆだねられているが,多くの国々では少なくとも法律に優先するものとされている。
条約が国内の憲法に違反して締結された場合,その国際法上の効力が問題とされる。まず,条約の規定内容そのものが憲法と矛盾している場合,内容的に違憲の条約であってもそれを認める国家の意思が確認されれば,国家の合意があったものとして条約は有効に成立する。この場合,国家としては憲法を条約に合致するように改めるべき国際法上の義務を負うことになり,これを行わない限り条約義務の不履行として国際法上の責任を問われることになる。また,条約の内容は憲法に違反していなくても条約の締結手続が違憲である場合,その国際法上の効力に対する学説は一致していないが,前出のウィーン条約では,違憲手続による条約も原則として有効であるとするとともに,その違反が明白であり,かつ,基本的な重要性をもつ国内法に関するものである場合にのみ例外として無効としている。
条約は当事国のみを拘束し,第三国は拘束しないというのが原則である。しかし,第三国が同意を与える場合には,その第三国に権利および義務を設定することも許される。権利の場合と義務の場合との取扱いについては見解が分かれるが,ウィーン条約では両者を区別して規定し,義務については第三国の明示的受諾を不可欠とするが,第三国に権利を与える場合には必ずしも同意は明示的であることを必要とせず,反対の意思の表示がないかぎり同意は推定されるとしている。
条約に特別の規定を置かない限りその成立と同時にその完全な効力を発生するのが原則であるが,国際連合加盟国が憲章発効後に結ぶ条約については,一般的に,締結後さらに登録することによって完全な効力を発生し,登録前にはある範囲で効力が制約されることになっている。すなわち,国連憲章第102条は加盟国の条約の登録を定めたほか,登録されていない条約は国際連合のどの機関においても援用できない旨を規定している。
留保は条約の効力を制限するもので条約のある規定の適用を排除し,ある規定を特定の意味に解釈し,あるいは領域の一部(植民地など)に対する条約の適用を排除する。留保の制度は,条約にできるだけ多くの国が参加することを助長するプラス面と,条約の統一的適用が阻害され当事国間の利害関係の不均衡が生ずるマイナス面とがある。留保の許容性は,それが条約の目的と両立するか否かによって判定されるが,実際にはその判定は個々の国にゆだねられているため濫用される可能性も存在している。
条約を無効とする原因についてはウィーン条約によって次の八つが列挙されている。(1)条約への同意が,条約締結権限に関する国内法規定に違反して表示され,かつ,その違反が明白である場合,(2)条約への同意を表示する代表者の権限が特別の制限に従うことを条件として与えられ,かつその制限があらかじめ他の交渉国に知らされていたにもかかわらず,代表者がその制限に従わなかった場合,(3)条約締結のときに事実に関して重大な錯誤が存在していた場合,(4)他の交渉国の詐欺的行為によって条約の締結に導かれた場合,(5)自国の代表者を他の交渉国が買収した場合,(6)代表者個人に対して強制が加えられた場合,(7)国家に対して力による威嚇または力の行使が行われた場合,(8)一般国際法の強行規範に抵触する場合である。
条約はその有効期間または終了の条件についてなんらかの規定を設けているのが普通である。その場合には条約はこの規定に従って終了する。また,終了に関する規定の有無やその内容のいかんにかかわらず,すべての当事国が合意するときには,いつでもその条約を終了させることができる。当事国が廃棄または脱退の可能性を認めていたことが証明されるか,または条約の性質上そのことが黙示されている場合には,当事国は条約を廃棄しまたは脱退できる。2国間条約の場合は当事国の一方が廃棄すれば条約は終了する。また条約当事国全部が,その条約と同一の事項を取り扱う新条約を締結し,新条約の規定が旧条約の規定と根本的に両立しないものであるときには,旧条約は終了する。以上は,当事国の明示または黙示の合意によって終了する場合であるが,次の場合には当事国の合意がなくても条約が終了したり,その適用が停止されることがある。(1)条約の重大なる違反の結果として他の当事国がその条約を終了させる権利をもつ場合,(2)条約の目的物の永久的消滅または破壊によって,条約の履行が不可能となった場合(後発的履行不能),(3)条約締結時に存在していた事情が根本的に変化した場合(事情変更の原則)である。
(1)~(3)の終了原因は,それらの存在によって自動的に条約を終了させるものではなく,当事国に条約の終了または停止を主張するための根拠として援用する権利を生じさせるのである。ただし新しい一般国際法の新強行規範が出現した場合には,それと抵触するすべての現行条約は効力を失い終了するとされる。
執筆者:岡村 尭
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国際法に基づいて成立する国際的合意をさしてよび、国家および国際機構を拘束する国際的文書とされる。当事者能力を保有するのは独立国家および公的国際機構である。当事国は、原則として、当事国の憲法(基礎法)上の手続および制約に基づいて、国際法が禁止しないいっさいの内容を、交渉によって自由に作成できる。合意した文書には、条約という名称以外に、協約、協定、規約、憲章、宣言、交換公文、議事録、議定書などの名称が用いられる。名称が異なることで、その相互間に効力の優劣はない。条約は、国家間の交渉が始まった古代から使用されており、歴史上もっとも古い条約は、紀元前2400年ごろにメソポタミアの都市国家ラガシュの戦勝者と他の都市国家ウンマの人民の間で結ばれた国境画定のための条約であるといわれている。日本では、1854年(安政1)の日米和親条約(神奈川条約)が最初である。
[經塚作太郎]
条約の交渉は、国家の代表者間で行われる。代表の資格は全権委任状full powersによって証明される。日本国憲法第7条5項は、内閣の助言と承認に基づく天皇の国事行為として、「……全権委任状……を認証すること」と規定している。条約作成の交渉は、二国間条約では、両国代表が提示する双方の草案の調整を談判し、多数国間条約の場合は、外交会議が招集され、起草委員会が構成されて草案を作成したり、あらかじめ準備された草案を基礎に審議する。交渉がまとまると、全権代表の署名が行われる。批准を必要としないことを明示する条約では、署名が条約作成の最終手続となる。批准を必要とする条約における署名の意義は、その条約内容を確定させる意味をもち、署名後の一方国家による条約内容の変更が禁止される効果を伴う。完全な署名により、署名の効果を伴うが、代表の頭文字のみを記入する「イニシアル」や「なおいっそうの考慮ad referendum」なる文字を入れて署名する「仮署名」の制度もある。仮署名は、のちに完全な署名を伴わなければ署名の効果を生じない。国際会議での多数国間条約の署名の順は、国名のアルファベットの順とされる。日本国憲法第73条3項は、内閣が条約締結権をもつと規定している。
批准を必要とする条約の場合、批准が条約作成の最終手続となる。批准は、国家の公文書である批准書の交換または寄託によって行われる。近代的意味での批准制度は、アメリカ合衆国憲法(1787年制定)に起源をもち、アメリカでは、条約は大統領(行政府)と上院(議会)の出席議員の3分の2の助言と承認によって作成される。後者の議会の承認が「実質的批准」であり、憲法上の権力分立による民主主義の確保のため、全権代表=行政府の締結した条約内容を、議会がふたたび国民の利益のために検討し、国家としての最終承認を与える重要な手続となっている。したがって、議会の不承認による批准書の作成不能も生じうる。日本の内閣の条約締結権も、憲法は「但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする」と明示している。
条約の署名、批准、加入、承認に際して、留保を申し込む制度がある(「留保条項」の項参照)。国際連盟規約第18条で、条約の登録制度が導入されてから、国際連合の加盟国にとって「……締結するすべての条約及びすべての国際協定は、なるべくすみやかに事務局に登録」(国際連合憲章102条1項)することとされた。条約の作成にあたり、国家としての同意の重要な基礎に錯誤があったこと、交渉相手国の詐欺的行為によって締結したこと、自国の代表の買収の結果結ばれたこと、自国の憲法上の手続の重要な規定に明白に違反したことがのちに発見された場合、その同意を無効とする旨を相手に主張できる。また全権代表個人に加えられた強制、武力の威嚇や行使による国家自体に加える強制、および条約内容が「強行規範」に抵触する場合には、その条約が無効となって消滅する。
[經塚作太郎]
条約文は、二国間(特別)条約も多数国間(一般)条約も、(1)条約の一般的目的、全権代表の名前と条約の正式の呼称、国連憲章との関連などを声明する前文、(2)合意した内容を条文にした本文、(3)署名、批准条項、ときには廃棄、脱退、留保条項、効力発生のための要件、持続期間、条約の正文を定めた最終条項、により構成される。
条約が対象とする内容は、(1)社会、人道に関するもの(学術交流、労働条件の向上に関する条約、国際人権規約など)、(2)政治的なもの(講和、同盟、軍縮条約、紛争の平和的解決に関する条約など)、(3)商事に関するもの(関税、漁業、通商、貿易に関する条約など)、(4)その他技術的なもの(工業所有権、著作権の保護、運輸・通信・交通・気象に関する条約など)である。
効力を有するすべての条約は当事国を拘束し、当事国はこれらの条約を誠実に履行しなければならない。「合意は守られなければならないpacta sunt servanda」の原則は、条約はもちろん国際法の根本規範でもある。日本国憲法第98条2項も、日本が締結した条約の誠実な遵守を定めている。条約の国内実施は、条約当事国の憲法に基づいて行われる。アメリカ合衆国憲法第6条2項では、条約がアメリカの最高法規で、別段の国内立法を必要とせず国内裁判所および国民を拘束する旨が定められている。日本国憲法もこの型に入る。ただし、アメリカでも例外的に、国家に財政負担を及ぼす条約、関税や税率の変更を伴う条約は、下院の立法が必要であるし、刑事法の変更を必要とする条約は、議会が立法するまでは国内実施が行われない。イギリスでは条約の締結は、その批准を含めて国王の大権に属することがコモン・ローで確立している。ただし、国民の権利義務を保障する議会優位の原則から、イギリスで実施されている法律に変更または追加を必要とする条約、国王(行政府)が権限を有しない内容の条約、イギリスに直接または継続的に財政的負担を及ぼす条約は、すべて立法(議会法)を制定して国内に実施される。イギリス連邦諸国の多くもこの型に入る。
[經塚作太郎]
条約の終了とは、違法な手続による無効や、条約義務に違反する不履行とは異なり、条約が定める方法および条約の実施が客観的に不能であることを原因とする条約の消滅である。条約の終了は、(1)条約中に規定される終了方法に基づく終了と、(2)条約の実施が客観的に不能となることによる終了とがある。(1)の場合は、期間の設定のある条約の期限の満了、処分条約(領域の割譲や租借条約)の完全履行、廃棄および脱退条項の実施、同一当事国間の新しい条約の締結による旧条約の交替(更新)などである。(2)の場合は、条約当事国の消滅(ただし、国内の革命やクーデターの継続は国家の消滅とみない。国家の消滅は、国家の合併、併合、分裂、分割による消滅の場合が該当する)、条約の目的物の永久的消失、事情変更の原則の適用、二国間条約の一方当事国による重大な条項の違反、外交関係または領事関係の断絶による条約の履行不能、戦争の勃発(ぼっぱつ)による二国間の政治的条約の終了(ただし、停止で戦後に復活もありうる)、締結後に出現する強行規範に違反する条約(無効となって終了)である。条約は原則として第三国には拘束力が及ばない。
[經塚作太郎]
『經塚作太郎著『条約法の研究』(1967・中央大学出版部)』▽『經塚作太郎著『続条約法の研究』(1977・中央大学出版部)』▽『坂元茂樹著『条約法の理論と実際』(2004・東信堂)』
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字通「条」の項目を見る。
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…訳語や用例は慣用もあって必ずしも一定していないが,政治学的には以下のように区別される。協商は国家間の条約treaty(国際法にのっとり書面形式で締結された国家間の国際的合意のことで,広義の条約は協約convention,協定agreement,取決めarrangementなども含む)というよりもむしろ非公式な合意をいい,同盟allianceのような武力的援助義務の規定をもたない弾力的な関係である。協商は,したがって,たんに国家の首長間の誓約にすぎないこともあり,また,特定国家間の利害対立が当事国間の条約等の締結によって解決された結果,その当事国間に協調提携関係が生じて成立することもある。…
…国際私法は,国内裁判所などにおいて,特定の渉外的事件に対してどの国(あるいは地域)の法律を適用すべきかが争われた場合に,その準拠法を決定するための規定をもつ法のことで,基本的には国内法(日本の場合は,1898年公布の〈法例〉)であって,国際法ではない。もっとも,最近は,各国の国際私法の規定を国際条約をとおして統一しようとする動きが出てきているので,国際法とのつながりも強くなってきている。世界法は,個人や企業などを,国家を介在させずに直接規律する法で,しかも,国家領域の枠を離れて,国際社会全体に普遍的に適用される法のことで,このような法が現に実定的に存在するかどうかについては争いがある。…
…署名の収集手続に関しては,一定の選挙の選挙期間中の署名運動についての制限がある(74条5項)ほか,署名運動の妨害や違法な署名運動に対して選挙運動に準じた罰則規定が定められている(74条の4)。文書偽造罪【中島 茂樹】
[国際法上の署名]
条約の締結手続における一段階として,国家の権限ある代表者(ふつう全権委員という)が他国との合意に達した条約の案文にサインをすることである。調印ともいう。…
…これは,地方自治の観点からの国会の立法権に対する制約である。また,法律ではないが,国会の立法意思にその成立がかかわる法形式として〈条約〉がある。もっとも条約は,外国との取決めであるから国内立法と異なるうえ,条約締結権は内閣にあり,それに,国会の立法意思が条約に十分生かされる保障があるわけではない。…
※「条約」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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