来し方(読み)コシカタ

デジタル大辞泉 「来し方」の意味・読み・例文・類語

こ‐し‐かた【来し方】

[連語]《「こ」は動詞「く(来)」の未然形、「し」は過去助動詞「き」の連体形
過ぎ去った時。過去。きしかた。
「―は暗い苦悩くるしみ悲痛かなしみとに満たされていた」〈万太郎末枯
通り過ぎてきた場所方向
「―の山はかすみ、はるかにて」〈須磨
[補説]1の意は、平安中期には「きしかた」を用いた。平安末期にはその区別がはっきりしなくなり、鎌倉時代に入ると12両意に「こしかた」が使われるようになった。
[類語]過去以前かつ在りし日往年往時往日旧時昔日せきじつ昔時せきじ昔年せきねん往昔おうせき往古古昔こせきいにしえ古くそのかみ当時前前かねてかねがね何時か既往これまで従来従前先年当年一時一頃その節先に当時古来あらかじめ前以て年来旧来在来その昔太古千古大昔

き‐し‐かた【来し方】

[連語]《「き」は動詞「く(来)」の連用形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形》
過ぎ去った時。過去。こしかた。「来し方を懐かしむ」
「―を思ひ出づるもはかなきを行く末かけて何頼むらむ」〈総角
通りすぎてきた場所・方向。通過した所。こしかた。→こしかた(来し方)
「―を見やれば、うみづらに並べて集まりたる屋どもの前に」〈かげろふ・中〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「来し方」の意味・読み・例文・類語

こ‐し‐かた【来かた方】

  1. 〘 連語 〙 ( 「こ」は動詞「く(来)」の未然形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形 )
  2. 過ぎて来た場所、方向。通過した所。
    1. [初出の実例]「うちかへりみたまへるに、こしかたの山はかすみはるかにて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)須磨)
  3. 今までに過ぎてきた時間。過去。
    1. [初出の実例]「こしかたをさながら夢になしつればさむる現(うつつ)のなきぞ悲しき〈藤原資実〉」(出典新古今和歌集(1205)雑下・一七九〇)

来し方の語誌

動詞「来」に、過去の助動詞「き」が連体形・已然形として接続する場合には、未然形「こ」に接続した「こし」「こしか」、さらに平安時代になり新たに発生したものとして連用形「き」に接続した「きし」「きしか」、の二系統の語形がある。この中の「こし」「きし」に名詞「方(かた)」が接続したものが「こしかた」と「きしかた」である。この二種の語形には意味の上でのおおよその使い分けがあるともいわれ、「源氏物語」などでは単独で用いられる場合、「こしかた」は過ぎてきた地点・方向を指し、「きしかた」は過ぎてきた時間・経験を指すとされる。


き‐し‐かた【来かた方】

  1. 〘 連語 〙 ( 「き」は動詞「く(来)」の連用形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形。古くは、未然形に「し」の付いた「こしかた」が用いられる )
  2. 今までに過ぎてきた時間。過去。こしかた。
    1. [初出の実例]「きしかたの事なども人知れず思ひ出でけり」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)
    2. 「かずならぬ心の中ひとつにたへがたくきしかた恋しくて、月を見て」(出典:建礼門院右京大夫集(13C前))
  3. 過ぎて来た場所、方向。通過した所。こしかた。
    1. [初出の実例]「きしかたを見やれば、湖面(うみづら)にならびてあつまりたる屋どものまへに」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)

来し方の語誌

→「こしかた(来━方)」の語誌

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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