精選版 日本国語大辞典 「柑橘類」の意味・読み・例文・類語
かんきつ‐るい【柑橘類】
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ミカン科(APG分類:ミカン科)のカラタチ属Poncirus、柑橘(ミカン)属Citrus、クリメニア属Clymenia、キンカン属Fortunellaに属する各種、およびこれら4属から派生してきた近縁種の総称。これらのうち柑橘属は果樹のなかではきわめて重要で、多くの種が含まれている。
[飯塚宗夫 2020年10月16日]
柑橘類の原生地はインド、ミャンマー(ビルマ)、マレー半島、インドシナ半島、中国から日本までの広地域にわたるが、とくに東部ヒマラヤおよびアッサム地方と揚子江(ようすこう)上流地方には重要な種の原生地があり、古くから栽培されていた。中国では紀元前1000年前後、周の『詩経(しきょう)』にある「有条有梅」の条は柚(ゆず)で、耐寒性の強い香橙(こうとう)の変種があったと考えられている。前3世紀の『禹貢(うこう)』に桔柚(きつゆ)として記載され、ついで前1世紀の『史記』の「貨殖列伝」によれば、当時、柑橘はナツメなどとともに一つの産業として栽培されていた。その後、7世紀までの本草書には橘(きつ)、柚(ゆ)、甘(柑)(かん)、橙(とう)が記載され、柑橘類の専門書として古い『橘録』(1178)は柑8種、橘14種、橙子(とうし)5種、計27種をあげている。また、王楨(おうてい)の『農書』(1313)にはカラタチ台の接木(つぎき)が記され、こののちは他地域からの導入もあって品種は分化し、栽培は発達した。
ヨーロッパへの柑橘の導入は前4世紀、アレクサンドロス大王の東征に負うところが大きく、インド原産のシトロンはmedian appleの名で前3世紀に知られ、レモンもシチリア島、コルシカ島などで殖えた。15、16世紀になってスイートオレンジの栽培が行われ、パレスチナからスペインまで広まった。ヨーロッパにマンダリンオレンジが導入されたのは1805年で、その後、実生(みしょう)変異や新導入品種によって、スペインから多方面に栽培が広まった。南アメリカと西インド諸島へはスペインからの移民によってスイートオレンジが伝えられた。北アメリカではフロリダで1600年代の初期にダイダイ類の実生が栽培され、さらにスイートオレンジが1870年代に導入されて柑橘栽培は急速に発展した。また南アメリカで発見されたネーブルオレンジはアメリカ合衆国に伝えられ、カリフォルニアでの柑橘業を大きく発展させ、また西インド諸島で発見されたグレープフルーツはその地方ばかりでなく、フロリダをはじめとするアメリカ南部、メキシコその他の高温地方へと栽培が広まった。
日本原生の柑橘はタチバナと、沖縄に原生するシィクワシャーだけであるが、柑橘類の栽培は相当に古い。『古事記』中巻、垂仁(すいにん)天皇の章に、「登岐士玖能迦玖能木實者(ときじくのかくのこのみは)、是今橘者也(これぞいまのたちばななり)」とあり、『日本書紀』巻6にも「……二月……、非時(ときじく)の香菓(かくのみ)……、今橘と謂(い)ふはこれなり」とあり、「ときじくのかくのこのみ」は香りの高い柑橘で、田中長三郎によるとダイダイではないかといわれている。『続日本紀(しょくにほんぎ)』聖武(しょうむ)天皇神亀(じんき)2年の章に、甘子を唐国から持ち帰り種子を播(ま)いて育てたとあり、その甘子は乳柑(にゅうかん)の類と考えられている。以後、種々の柑橘が導入されたが、最初にある規模で栽培されたのはコミカンで、熊本県八代(やつしろ)付近と考えられている。『肥後国史』に「神功(じんぐう)皇后三韓(さんかん)を征し、その帰路橘を持ち帰り、これを肥後八代に植え給う」とあるが、本種は中国浙江(せっこう)省から伝来したものといわれている。
そののち紀州(和歌山県)に伝えられ(1574)、栽培が広まるにつれ紀州ミカンの名でよばれるようになり、温州(うんしゅう)ミカンの普及するまで、もっとも重要な種類であった。温州ミカンは田中長三郎により鹿児島県長島で発生したと推定され、明治初期以後栽培が増え、青江系(1882)や宮川系(1909)など早生(わせ)ウンシュウが育成され、多くの枝がわりや人工的な珠心胚実生(しゅしんはいみしょう)(珠心細胞から発生した種子の実生)から現れる変異個体の利用により、今日の多数の品種に分化し、もっとも重要な柑橘となった。また、ナツミカン(ナツダイダイ、ナツカン)は江戸中期1710年ころ山口県で発見され、酸が強いが、枝がわりの甘夏系は酸が少なく、甘い。これらのほか今日の市場でみられるサンポウカン(和歌山県)、ヒュウガナツ(別名ニューサマーオレンジ、宮崎県)、イヨカン(山口県)、ハッサク(広島県)などはいずれも日本で発見されたものである。また、唐代以前に、原産地揚子江上流から朝鮮半島経由で伝わったユズは耐寒性が強く、東北地方でも栽培され、日本料理にあうハナユ、スダチ、カボス、キズなどとして地方的に分化してきた。
在来の柑橘類栽培のほか、外国からの新種の導入もあり、アメリカからはオワリウンシュウとクネンボに似たキングとの雑種といわれるカラマンダリンのような雑種の導入もある。ブラジルで1820年ころ枝がわりとしてみいだされたネーブルオレンジは、ワシントンを経てワシントンネーブルと改名され、1889年(明治22)に導入された。またポルトガル領アゾレス諸島で発見され、現在世界の諸方に広まり、世界一の生産高を誇るバレンシアオレンジは1903年に導入されたが、明治初年に導入されたレモン同様、環境があわず、栽培は増えていない。ただ、ユズ台に接いだジョッパの枝がわりといわれる福原オレンジは、果形不ぞろいではあるが日本でよく育つ。ポンカンは1896年に、ザボンの代表品種晩白柚(ばんぺいゆ)は1930年(昭和5)に導入され、鹿児島、高知県などの暖地で栽培されている。タンジェリン(マンダリンオレンジともいう)とグレープフルーツ(ポメロ)との雑種を、両者の折衷の名をつけてタンジェロとよび、この系統としてアメリカからミネオラ、オーランド、セミノールなどが導入されている。
[飯塚宗夫 2020年10月16日]
繁殖は接木による。種類により台木は異なるが、日本ではカラタチ台かユズ台が多い。カラタチ台では多数の細根が出、浅根性で苗の発育がよく、結実は早く、果実品質はよい。ユズ台は耐寒性、耐乾燥性ともに強く、深根性で初期生育は遅いが、旺盛(おうせい)な生育をする。これらのほか、スイートオレンジとカラタチの雑種であるシトレンジ、シトレンジにキンカンを交配したシトレンジカット、サンキツ、ナツミカン、スイートオレンジ、ヤマミカンなども台木とされる。主要病害には潰瘍(かいよう)病、痩果(そうか)病、黒点病、黄斑(おうはん)病、ウイルス病などのほか、貯蔵果を冒すアオカビ病などがある。害虫にはカイガラムシ類、ミカンコナジラミ、ダニ類、ジカキムシ、アブラムシ類、アゲハチョウ、ヤガなどがある。これらに対しては年間防除暦による防除を徹底し、チチュウカイミバエなどミバエ類や日本にないウイルス病などの伝播(でんぱ)の防止を図るには植物防疫の徹底が望ましい。
[飯塚宗夫 2020年10月16日]
2016年の世界の主要柑橘類総生産量は1億4643万トンで、おもなものは、オレンジ類7318万7570トン、ミカン類3279万2530トン、レモンとライム1734万7153トン、グレープフルーツ類907万4176トンなどとなっている。国別では、中国3792万3800トン(25.9%)、ブラジル1959万1600トン(13.4%)、インド1204万3000トン(8.2%)、メキシコ811万トン(5.5%)、アメリカ751万4300トン(5.1%)、ついでスペイン、エジプト、トルコ、ナイジェリア、イランとなっている。アメリカはかつては第1位であったが、オレンジの生産が伸びず、順位を下げている。また、日本も300万トン以上を生産して上位にあったが、ミカンの減反などにより減少し、87万トン(0.6%)にとどまっている。各種類の生産量の推移をみると、1976年から2016年の40年間で、オレンジ類は2.2倍、ミカン類は中国、スペインなどの増産で4.3倍、レモンとライムは3.9倍というように大幅に増加、グレープフルーツ類は2.2倍となっている。2015年の日本の生産の内訳はミカン77万7800トン、シラヌヒ(デコポン)4万2150トン、イヨカン3万6800トン、ナツミカン3万6500トン、ハッサク3万6000トンなどとなっている。
温州ミカン(通称ミカン)を中心とした日本の柑橘産地としては、年平均気温15℃以上の温暖な地方が望まれている。栽培は明治末期から大正時代の初期にかけて急増し、その後も増加しつつあったが第二次世界大戦で停滞した。戦後、生果および加工用の伸びと当時の高収益性により、傾斜地栽培に加え、平坦(へいたん)地栽培も行われ、1970年(昭和45)前後には18万5000ヘクタールに達し、新たに植えた苗木が生産樹齢に達した1975年にはミカンのみで366万5000トンに達し、価格は暴落した。以後、作付け減反が行われ、1982年には15万4980ヘクタール(ミカン81%、ナツミカン9%、ネーブルオレンジ3%、その他)となり、ミカンの生産も290万トン前後になってきた。その後も栽培面積は減少を続け、生産量も1991年(平成3)のオレンジの輸入自由化の影響もあって大幅に減少し、100万トン前後となっている。2015年の栽培面積は、ミカン4万2200ヘクタール、シラヌヒ2916ヘクタール、イヨカン2474ヘクタール、ナツミカン1725ヘクタール、ハッサク1668ヘクタールとなっている。ミカン産地は和歌山・愛媛・熊本・静岡県のほか瀬戸内、四国、九州の暖地である。1982年の生果実の輸出入では、ミカンは約2万4000トン輸出し、オレンジを8万2000トン、レモンとライム10万トン、グレープフルーツ15万4000トンを輸入した。ミカンの輸出は、その後、中国産やスペイン産の増加と円高の影響を受けて急減し、2006年は2710トンにとどまっている。2006年の輸入量は、オレンジ12万トン、レモンとライム7万5000トン、グレープフルーツ17万トンである。2017年では、ウンシュウミカンなどの輸出は約1500トンである。生鮮品と乾燥品を合計した輸入量は、オレンジは9万0600トン、レモンとライム5万3100トン、グレープフルーツ7万8100トン、マンダリンなど1万8800トンである。
[飯塚宗夫 2020年10月16日]
柑橘類はいずれもビタミンCに富み、生果100グラム中で30~60ミリグラム、また果皮にはさらに多量のCを含み、キンカンでは70ミリグラムに達している。ビタミンAは果皮、果肉ともにカロチンとして多く含まれる。またビタミンB1、B2やニコチン酸も含まれている。このほかカルシウム、リン、鉄などの無機質もある。糖質は多く、グレープフルーツの8.9%、ネーブルオレンジの11.6%、ミカンの10.9%の示すように10%内外が多い。さらにクエン酸も多く、特殊な香りもある。果皮にはまたリモネン、ナリンギン、リナロール、ペクチン、その他の特殊成分が含まれている。したがって利用面も広く、多岐にわたる。諸成分から醸し出される爽快(そうかい)な味わいをもつ柑橘類は、生食のほか、ジュースとして利用され、とくにオレンジとグレープフルーツからは品質のよいジュースができる。温州ミカンジュースにオレンジジュースを加えると味が向上し、前者の利用価値が高まる。温州ミカンはシロップ漬けとしての用途も広い。また、レモン、ライム、ユズ、スダチ、カボスなどの果実の快い酸味と香りは調味料として利用され、クエン酸製造原料ともなる。レモン油、ライム油、ベルガモット油などの製油原料や、ザボン、シトロン、キンカンなどの砂糖漬け、ダイダイ、ナツミカン、オレンジなどのマーマレード、ライム、ナツミカンなどの果実酒、レモンパイなどの原料となる。レモンの枸櫞皮(くえんぴ)、ダイダイの橙皮(とうひ)、ミカンの陳皮(ちんぴ)などは、生薬(しょうやく)のほか調味料、香料にされ、ダイダイの花からネロリ油がとれる。暖地の街路樹、観賞用にも適する種類が多い。
[飯塚宗夫 2020年10月16日]
『岩堀修一・門屋一臣編『カンキツ総論』(1999・養賢堂)』
ウンシュウミカンの果実
カボスの果実
キンカンの果実
グレープフルーツの果実
ザボンの果実(平戸文旦)
シィクワシャーの果実
スダチの果実
ダイダイの果実
タチバナの果実
ナツミカンの果実
ネーブルオレンジの果実
ハッサクの果実
ポンカンの果実
ユズの果実
ライムの果実
レモンの果実
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