翻訳|nutrition
( 1 )「栄養」は親に孝行を尽くすことの意で、もともと中国の古典漢籍に見える語だが、一三世紀の中国の医書「脾胃論」では身体を滋養する意味に用いられ、以降多くは「営養」と表記されるようになる。この意味が中国から日本の医書にも伝わり、蘭学の訳書にも「営養」「栄養」が併用された。
( 2 )大正九年(一九二〇)、内務省に栄養研究所が設けられ、書名にも「栄養」が現われ、「栄養」への転換が行なわれた。
人間は誕生から発育、成長、死に至るまで、必要な物質を食物の形で摂取している。この間、身体の健康の維持、生活活動、運動、妊娠などの生命の営みを一刻も休むことなく継続していく。このように健康を維持、増進し、生活活動を営むために必要な物質を外界から身体に取り入れて利用し、生命を維持していく現象を栄養という。そのために外界から取り入れる物質を栄養素nutrientsとよぶ。栄養素は食物に含まれているので、栄養素の摂取は食物を摂取することによって行うのが原則である。栄養素が欠乏したり、病者の場合には、食品によらずに、グルコース、アミノ酸、ビタミンなどの栄養素を、経口または非経口(静脈注入)の方法で補給することも行われている。
通常は食物を摂取し、消化吸収し、栄養素を体内に取り込む。体内に取り込まれた栄養素は、体成分に転換する(同化という)一方、分解されてエネルギーに利用される。分解していく過程を異化という。栄養素が取り込まれてから同化、異化される過程を総括して代謝あるいは新陳代謝という。代謝の現象を通じて人間は成長し、健康な身体を維持し、生活を営む。食物摂取から消化吸収、代謝に至る全過程が栄養の現象である。
日本語では栄養と栄養素を混同していう場合があるが、栄養素は物質、栄養は体内の生命現象のことである。食物中に含まれるものは栄養素である。栄養が食物中にあるのではない。食物中の栄養素が体内に取り込まれて栄養の働きをする。
[宮崎基嘉]
栄養素としてあげられる物質は、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、無機質の5種で、これらを五大栄養素とよんでいる。このほかに水も栄養上重要な物質であるが、水は容易に供給されるため栄養素のなかには入れていない。それぞれの栄養素はさらに細かく内容が分かれるが、タンパク質、脂質、炭水化物の3種はそれぞれ化学的に共通した性質を有する物質である。ビタミンと無機質は、その内容は種々であって、かならずしも化学的に共通した性質を有する物質ではないが、生理機能の面から分類したものである。
五大栄養素の機能をまとめてみると、(1)身体を構成しこれを維持する(タンパク質、無機質)、(2)エネルギー源になる(タンパク質、炭水化物、脂質)、(3)身体の機能を保全し調節する(無機質、ビタミン)、の三つになる。この分類は概念的なもので、実際はこのようにはっきり区分できるものではないが、栄養の基礎を理解するためのものである。たとえば脂質はエネルギー源としてあるが、身体構成や調節にも関係がある。炭水化物、脂質、タンパク質の3種はエネルギーに利用される成分で、これらを「熱量素」とよぶことがある。これに対し、タンパク質、無機質、ビタミンの3種を「保全素」とよぶ。熱量素、保全素の区分はこれらの栄養素の機能に基づく概念的な区分である。タンパク質は熱量素であると同時に保全素でもある。熱量素の1日の必要量はかなり多いが、ビタミン、無機質の必要量は比較的少量である。このためビタミンおよび無機質の一部のものを「微量栄養素」とよぶことがある。
[宮崎基嘉]
〔1〕タンパク質 エネルギー源に利用されるが、骨や筋肉などの体構成成分として重要であり、体内での代謝に関係する酵素や、調節に働くホルモンの形で、生理機能の維持に役だつ。
〔2〕脂質 主としてエネルギー源として利用されるが、体脂肪の形で貯蔵されたり、細胞や細胞内の膜の成分として体構成にも役だつ。
〔3〕炭水化物 主としてエネルギー源として利用されるが、グリコーゲンの形で貯蔵されたり、核酸の成分としても存在する。
〔4〕ビタミン 脂肪に溶けるものと、水に溶けるものがあり、その種類は多いが、それぞれ特有の働きがあり、酵素の働きを助ける補酵素の成分となったり、広く生理機能の調節に役だつ。不足すると欠乏症状をおこす。
〔5〕無機質 多種類のものがあるが、骨、歯などの構成に役だち、ヘモグロビンの成分となり、さらに体液の浸透圧、水素イオン濃度など生理機能の維持に働く。
[宮崎基嘉]
人体を構成する成分は年齢、性別、栄養状態によって異なり、個人差があるが、水分がもっとも多く56~68%を占め、タンパク質は14~19%を占める。脂質は個人差がとくに多いがおよそ12~20%で、肥満者の場合にはさらに多くなる。炭水化物は少量で1%以下、無機質は5~6%である。人体を構成する元素は55種以上あるが、なかには生命の維持に必要であるかどうかはっきりしないものもある。現在、生命の維持に必要と認められているものは、酸素、炭素、水素、窒素、カルシウム、リン、硫黄(いおう)、カリウム、ナトリウム、塩素、マグネシウム、鉄、銅、マンガン、ヨウ素、フッ素、コバルトの17種のほか亜鉛、ケイ素などがある。
食品の成分は栄養素のほかに呈味成分、色素、香気成分なども含まれるが、主成分は水と栄養素である。最近の新しい加工食品の一部には、消化吸収の劣る低エネルギー成分を含むものがあるが、食品本来の目的からすれば好ましいものではない。食品の栄養素の含量は食品成分表に示されている。『五訂日本食品標準成分表』(科学技術庁資源調査会編、2000年)に収載されている成分は可食部に含有されるもので、水分、タンパク質、脂質、炭水化物(糖質、繊維)、灰分、無機質(カルシウム、リン、鉄、ナトリウム、カリウム)、ビタミン(レチノール〈A〉、カロチン、B1、B2、ナイアシン、C、D)の18成分である。これらの成分は食品の種類によって著しく異なるが、穀類、いも類は炭水化物が多く、魚貝類、肉類、卵類、牛乳はタンパク質、脂質が多く、野菜類、果実類はビタミン、無機質が多い。
[宮崎基嘉]
消化は口腔(こうこう)内から始まり、かむことによって食物を消化しやすい形にしたのち、耳下腺(じかせん)から分泌される唾液(だえき)と混合し、唾液アミラーゼによってデンプンの部分的分解を行う。その分解は不完全なままで胃に送られる。唾液アミラーゼの作用は、胃に送られた食物が胃液と十分に混合するまで続けられ、デンプンの約75%が消化される。胃では強酸性の胃液が分泌され、消化酵素としてはタンパク質分解酵素のペプシンがその主体である。ペプシンにより食物中のタンパク質のペプチド結合が切断され、プロテオース、ペプトンのような分子量の小さいポリペプチドを生ずるが、消化はまだ不完全である。胃で行われる消化はそれほどではなく、食物を胃液と混ぜて粥(かゆ)状にし、小腸へすこしずつ送り込んでいく。小腸は消化作用のもっとも盛んなところで、食物の大部分が小腸で消化される。また小腸では吸収も行われる。小腸ではアルカリ性の膵液(すいえき)、腸液、胆汁が分泌される。小腸は十二指腸、空腸、回腸からなるが、酸性のままの胃の内容物は幽門を経て、十二指腸に達する間に中和され、各種の酵素による分解が進行する。膵液は小腸消化液のなかでもっとも強力なもので、タンパク質を消化するトリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼを含み、また脂質の分解酵素として膵液リパーゼを含む。炭水化物に作用する膵液アミラーゼ、マルターゼなどの酵素も含む。胆汁は肝臓でつくられ、胆嚢(たんのう)で濃縮されて十二指腸に排出される。胆汁は胆汁酸塩を含み、脂質を乳化してリパーゼの作用を受けやすくしたり、脂溶性物質の吸収を助ける。腸液は十二指腸に分泌され、トリプシンを活性化するエンテロペプチダーゼ(エンテロキナーゼ)を含む。腸粘膜にはマルターゼ、ラクターゼ、アミノペプチダーゼ、ジペプチダーゼ、リパーゼ、フォスファターゼなどの酵素が含まれ、消化の最終段階をここで行う。
吸収の機構には2種類あり、単なる物理的な拡散による吸収と、能動輸送とよばれる積極的な吸収がある。前者は濃度の高いほうから低いほうへの移動であり、後者は濃度の低いほうから高いほうへの移動である。消化物は胃ではほとんど吸収されず、大部分は多数のしわと絨毛(じゅうもう)をもつ小腸粘膜で吸収される。水溶性のもの(糖類、アミノ酸、グリセリン、低級脂肪酸、ミネラルなど)は絨毛細胞から吸収されて毛細血管に入り、門脈、肝臓を経て血液により全身の循環に入る。脂溶性のもの(脂肪酸、モノグリセリドなど)は、胆汁酸塩の働きで粘膜細胞で吸収され、リンパ管に入り、胸管を経て全身循環に入る。大腸では主として水のみが吸収され、ミネラルも吸収される。
消化吸収の機構を巧みに支配し、調節する働きをしているものに消化管ホルモンがある。消化管ホルモンは主として胃、十二指腸および小腸上部において生産されるもので、ガストリン、セクレチン、コレシストキニン、パンクレオザイミンなどの存在が知られている。
[宮崎基嘉]
食物中に含まれる炭水化物、脂質、タンパク質は吸収され、体内で酸化するときにエネルギーを発生する。酸化分解されたものは最終的に炭酸ガス、水、尿素など窒素化合物になって排泄(はいせつ)される。エネルギーの面から代謝の様相を調べることをエネルギー代謝という。
[宮崎基嘉]
水1キログラムを1℃(14.5℃から15.5℃)高めるのに要するエネルギーが1キロカロリー(kcal)であり、栄養で使用するエネルギーの単位である。最近ジュールを単位とすることもあるが、カロリーとジュールの関係は1キロカロリーは4.184キロジュール(kJ)に相当する。
[宮崎基嘉]
基礎代謝は、安静時に消費する生理的最少のエネルギーをいう。基礎代謝量の測定は、早朝空腹時に安静仰臥(ぎょうが)の状態で行う。基礎代謝は体重よりも体表面積によく比例するので、体表面積当りの代謝量が用いられてきた。これは、熱エネルギーの放散が主として皮膚の表面を通して行われるためである。しかし最近は、基礎代謝を体重当りで表してもそれほど大きな誤差を生じないという考えで、体重当りの基礎代謝量を基礎代謝基準値(kcal/kg/日)としている。基礎代謝基準値は性別、年齢別によって異なり、女性より男性のほうが、また成人より発育期のほうが大きい。
[宮崎基嘉]
寒いときにタンパク質の多い食事をとると身体が暖まったり、また暑いときに食事をとると汗をかいたりする。このように食物をとることによってエネルギー代謝の高進することを特異動的作用specific dynamic action(略してSDA)という。特異動的作用による発生エネルギーは筋肉労作などには利用されず、浪費エネルギーとなるため、1日の必要エネルギーを算定する際に加算する必要がある。特異動的作用は食物の質や量によって違い、タンパク質では大きく、炭水化物、脂質では小さい。日本人の日常食事では平均して摂取エネルギーの約10%が特異動的作用に使われる。
[宮崎基嘉]
仕事や運動をするとその分だけ余分のエネルギーを必要とする。これを労作代謝という。労作に必要なエネルギーは、その労作の強度とその人の基礎代謝量によって異なる。労作強度によるエネルギー量を比較するために、エネルギー代謝率relative metabolic ratio(略してRMR)という指標がある。RMRは、労作時の消費エネルギー量から安静時代謝量を差し引いたエネルギーを、基礎代謝量で除した数値として表される。すなわち、労作のために増加するエネルギー量が基礎代謝量の何倍にあたるかという値である。なおRMRはわが国独特の表記法で、国際的には通用しない(国際的には安静代謝resting metabolic rateの略号となっている)。
[宮崎基嘉]
栄養所要量はエネルギーおよび栄養素の摂取標準を示したもので、健康な生活を営むために1日に摂取することが望ましい量を示している。わが国では厚生省(現厚生労働省)が5年おきに『日本人の栄養所要量』を改定、編集している。以下昭和59年(1984)改訂版による。栄養所要量は年齢別、男女別、生活活動強度別に作成されている。年齢は、20歳までは1歳刻みに、20歳以上は10歳刻みになっている。生活活動強度は、Ⅰ(軽い)、Ⅱ(中等度)、Ⅲ(やや重い)、Ⅳ(重い)の4区分になっている。妊娠期は生活活動強度Ⅰ(軽い)の区分のところに入り、前期と後期に分けている。栄養所要量は「体位基準値」を設定し、それに相当する所要量を掲げているので、同一年齢層でも体位が基準値からかけ離れている人は、所要量を増減して考える必要がある。
[宮崎基嘉]
エネルギー必要量は、生命維持に必要な基礎代謝、生活活動に必要な活動代謝、食物摂取に伴う特異動的作用の和とみなされる。エネルギー必要量は、1日のエネルギー必要量(kcal/日, A)、1日の基礎代謝量(kcal/日, B)、生活活動指数(x)、食物摂取によるエネルギー代謝の増加量(SDA, A/10)から、次式で算定される。
生活活動強度中等度の20代男性は1日、2500キロカロリー、女性は2000キロカロリーである。エネルギー所要量は生活活動強度によって異なり、その加減量も示されているので注意する必要がある。生活活動強度は個人によって異なるが、一般的にいえば、近年は労働が軽くなってきており、Ⅱ(中等度)よりもⅠ(軽い)のほうが多い傾向にある。職種による強度の差はあるが、それはおよその目安であり、個人の生活活動強度は各人各様である。エネルギー所要量は肥満との関係でとくに注意が必要である。現在では、エネルギー摂取の過剰は、日常生活における身体活動量の不足、すなわちエネルギー消費量の不足と相まって肥満をもたらし、生活習慣病(成人病)につながるおそれがあると指摘されている。そのために、積極的に体を動かし、エネルギーを消費することが要求されるが、一つの目安となるのが、日常生活活動と運動のエネルギー消費量の関係を示した表である。
[宮崎基嘉]
脂肪(脂質)の所要量はかなり幅があるので、グラムで示さず、エネルギーのうちのパーセントで示している。成人ではエネルギーの20~25%が脂肪の所要量である。これをグラムに換算するには、パーセントに相当するエネルギーを計算し、それを9で割ればグラムの量になる。20代生活活動強度Ⅱ(中等度)の男性を例にすると500~625キロカロリー、脂肪で55~69グラムとなる。
[宮崎基嘉]
成人のタンパク質所要量の算定は、良質タンパク質を規準にした平均必要量を求め、これを日常食において摂取する混合タンパク質の質に応じた補正を行い、さらに、国民大多数に適用しうる安全な目標量とするため、ストレスなどに対する補正、個人差変動による補正を行って求めている。20代男性で1日70グラム、女性で60グラムである。生活活動強度によるエネルギー増加分の10~15%はタンパク質で供給することが望ましい。タンパク質の加減は意識しなくともよく、所要量を上回って摂取しても、エネルギー量が過剰でなければ肥満する心配はない。
[宮崎基嘉]
とくに重要なものについて所要量が定められている。最少必要量に対してかなりの安全率を含めて算定されているが、調理等により損失しやすい成分であるため注意する必要がある。カルシウムの所要量は20代の男女とも0.6グラム、鉄の所要量は男性で10グラム、女性で12グラムとなっている。ビタミンはビタミンA、B1、B2、C、Dについて設定されている。
[宮崎基嘉]
日本人の食生活に対する注意事項として、目標摂取量が示されている。食塩は過剰にとると高血圧を引き起こすので1日10グラム以下に、リンはカルシウムの量とバランスがとれないとカルシウムの利用率を悪くするので、カルシウムの量と等量に、カリウムはナトリウムとの比率を考慮して2~4グラムに、とされている。
[宮崎基嘉]
栄養素を空気中で燃焼させたときに発生するエネルギーを燃焼熱という。1グラム当りの燃焼熱は、炭水化物4.10キロカロリー、脂質9.45キロカロリー、タンパク質5.65キロカロリーである。炭水化物と脂質は、空気中で燃焼した場合も体内で酸化分解された場合も、最終的には二酸化炭素と水になるので同じである。タンパク質は窒素成分を含むため、体内では完全に酸化分解されず、生体では最終的に尿素、クレアチン、尿酸などのエネルギーを含んだ形の窒素成分を排泄する。その排泄分のエネルギーはタンパク質1グラムにつき1.25キロカロリーである。したがってタンパク質の生理的エネルギーは燃焼熱から排泄分を差し引いた4.40キロカロリーである。しかし実際には食品中の栄養素は体内で完全に吸収されることはなく、消化吸収率を考慮する必要がある。アトウォーターAtwaterらはアメリカ人の平均的食事の実験から、栄養素の平均的消化吸収率を求め、炭水化物は98%、脂質は95%、タンパク質は92%が消化吸収されるとして、この消化率を計算に入れると、食品中の栄養素の利用エネルギーは1グラム当り、炭水化物は4キロカロリー、脂質は9キロカロリー、タンパク質は4キロカロリーとなることを提唱した。これが有名なアトウォーター係数で、4・9・4係数とよぶ場合もある。この係数は覚えやすく便利であるため、食品のエネルギー換算係数として広く用いられている。その後、個々の食品について栄養素の消化吸収実験が行われて、食品ごとに消化吸収率の定められるものについては食品ごとのエネルギー換算係数を用いるようになった。食品ごとの係数には、国連食糧農業機関(FAO)換算係数(1973)と、科学技術庁資源調査会編の『五訂日本食品標準成分表』(2000)に採用された日本人の消化吸収実験に基づくエネルギー換算係数がある。食品のエネルギー値は、食品中の炭水化物、脂質、タンパク質の含量に、食品のエネルギー換算係数を乗じて求められる。
[宮崎基嘉]
われわれが健康で生活するために重要な因子は、(1)栄養、(2)運動、(3)休養の三つである。このなかでもっとも基本的に重要な因子は栄養である。栄養は食物を食べることによって得られるので、よい食事をとることがたいせつである。栄養素必要量の根拠は栄養所要量にその標準が示されている。一方、食物に含まれている栄養成分については、食品成分表にその量が示されている。しかしこれを組み合わせて毎日の食事を構成するためには諸種のくふうが必要である。栄養の理論は平均的な標準と考えればよい。実際の食生活は個人個人の食生活であるから、標準を目安として個人に適用することをくふうしないといけない。個人は身体の大きさも、健康状態も、日常の生活活動も、食物の嗜好(しこう)もそれぞれに異なるので、一般原則を念頭に置きつつ、バランスのとれた食事をすることがたいせつである。乳幼児、妊産婦、授乳婦、成人、老人、病者などそれぞれの状態にあわせた食事がたいせつである。
原則的にいえば、(1)3食を規則的にとること、(2)過食しないこと、過食は肥満を招き生活習慣病の原因になる、(3)栄養のバランスをよくするために偏食をしないこと、できるだけ多くの種類の食品材料を取り入れること、(4)市販の加工食品に過度に頼らないこと、(5)生活のリズムにあわせて、運動も取り入れ、つねに身体の状態をみながら食事を調節すること、などが要点である。日常食事の目安として、食品をその栄養上の特長によってグループに分けて食事を考える方法が提唱されている。
[宮崎基嘉]
厚生労働省が普及に努めている「六つの基礎食品」がこれである。
〔1〕1群(魚、肉、卵、大豆) これらは良質のタンパク質の給源であり、食事の主菜となるものである。タンパク質のほか脂質、カルシウム、鉄、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2が含まれる。
〔2〕2群(牛乳、乳製品、骨ごと食べられる魚) 牛乳、乳製品は比較的多種類の栄養素を含む。とくにカルシウムの給源として重要。良質タンパク質、ビタミンB2の給源となる。小魚類はタンパク質、カルシウムを多く含み、また鉄、ビタミンB2の給源である。
〔3〕3群(緑黄色野菜) 主としてカロチンの給源となるほか、ビタミンC、カルシウム、ビタミンB1、ビタミンB2の給源となる。
〔4〕4群(その他の野菜、果物) 主としてビタミンCの給源のほか、カルシウム、ビタミンB1、ビタミンB2の給源となる。
〔5〕5群(米、パン、麺(めん)、いも) 炭水化物(デンプン)エネルギー源食品である。この群には大麦、小麦などの加工品、砂糖、菓子も含む。いも類はビタミンB1、ビタミンCを含む。
〔6〕6群(油脂) 脂質エネルギー食品で、大豆油、とうもろこし油などの植物性油、マーガリン、バター、ラード、マヨネーズ、種々のドレッシングなどを含む。
[宮崎基嘉]
四群法では食品を次の4群に分けている。
〔1〕1群(牛乳と乳製品、卵)
〔2〕2群(魚貝と肉、豆と豆製品)
〔3〕3群(野菜、いも、果物)
〔4〕4群(穀類、砂糖、油脂)
この分類は、2群がタンパク質、3群がミネラルとビタミン、4群がエネルギーの給源となっているほか、特色は1群の分類である。1群は日本人の食生活で不足しがちな良質タンパク質と、カルシウムや鉄などのミネラル、ビタミンAやビタミンB2などの栄養素を補給するための食品群で、栄養を完全にする食品群として設定されている。四群食事法はそれぞれの食品の単位を日常食べる量にあうようにくふうし、80キロカロリーに相当する食品の量を1点と決めて、点数で食品を組み合わせていく方式をとっている。四群食事法の基本型を20点(1600キロカロリー)とし、この基本型を中心にして個人個人の加算を行えば、25点(2000キロカロリー)、30点(2400キロカロリー)などの食事が構成できる。
なお、栄養は食生活の変遷と不即不離の関係にあるが、栄養の対象を個人から家族へ、さらに集団、地域社会集団、国民、全人類と広げていくと、栄養の問題の奥行の深さがわかる。
[宮崎基嘉]
『満田久輝・宮崎基嘉編『栄養化学』(1975・朝倉書店)』▽『小池五郎・福場博保編『栄養学事典』(1977・朝倉書店)』▽『内藤博・吉田勉編『栄養学(1)』(1979・有斐閣新書)』▽『細谷憲正編『栄養学(2)』(1980・有斐閣新書)』▽『健康・栄養情報研究会編『第六次改定 日本人の栄養所要量――食事摂取基準』(1999・第一出版)』▽『野口忠・伏木亨・門脇基二他著『最新栄養化学』(2000・朝倉書店)』▽『Barbara A. Bowman, Robert M. Russell編、木村修一・小林修平監修『最新栄養学――専門領域の最新情報』第8版(2002・建帛社)』▽『吉川春寿・芦田淳編『総合栄養学事典』第4版新装版(2004・同文書院)』▽『文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会編『五訂増補 日本食品標準成分表』(2005・国立印刷局)』▽『江指隆年・中嶋洋子編著『基礎栄養学』改訂第3版(2005・同文書院)』▽『吉田勉編著、稲井玲子・山内有信・笠原賀子他著『応用栄養学』改訂版(2005・学文社)』
生物が生きてゆくためには、絶えず外界から物質を取り入れ、これを利用して自らの体を構成、維持し、またエネルギーを得なければならない。このように、生命現象を活発に行うために外部より物質を摂取することを栄養といい、摂取される物質を栄養素とよんでいる。生物が外界から摂取する物質のうち、呼吸に用いられる酸素や光合成の際の二酸化炭素は、栄養素から除くのが普通である。また、すべての生物に不可欠な水も栄養素とはよばない。むしろ、栄養素として一般に問題にされるのは、それぞれの生物が正常な生活を営むのに不可欠な物質である。なお、人間の栄養については別項目(栄養参照)として扱う。
生物が摂取する物質が無機物か有機物かによって、栄養形式は二つの型に大別される。その一つは栄養素として有機物を必要とせず、外界から無機物だけを取り入れて、これを自分の体内で有機物に変えて生活する独立栄養生物(無機栄養生物)にみられる栄養形式で、緑色植物をはじめとする光合成生物や、硝化(しょうか)細菌などの化学合成細菌がこの栄養形式を行う。これに対して、独立栄養生物のつくりだす有機物を直接あるいは間接に摂取して生活する栄養形式を従属栄養(有機栄養)といい、動物や大多数の細菌類、菌類がこの栄養形式をとっている。
独立栄養生物が摂取する栄養素は、無機化合物の形になっているが、栄養素として考える場合は元素として扱うことが多い。植物では窒素、リン、カリウムが三大栄養素であるが、このほか多量に必要とされるカルシウム、マグネシウム、硫黄(いおう)などは多量養素とよばれる。さらに、微量ではあるが不可欠の元素であるモリブデン、銅、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素などの微量養素が知られている。植物が栄養素として要求する元素の種類と量は、水栽培や組織培養などの方法によって明らかにされた。
これに対して従属栄養生物では、摂取される有機化合物はその種類が栄養素として重要であり、炭水化物(糖質)、脂肪(脂質)、タンパク質の三大栄養素のほか、ビタミン類や無機塩類(ミネラル)を必要とする。
これら栄養素は、生物の活動のためのエネルギーを供給するだけではなく、生体の維持や発育のためにも用いられ、さらに生体の自律的調整と平衡に関係する物質を供給する。したがって、栄養はそれぞれの生物にとってバランスのとれたものであることが不可欠で、栄養素は量のみならず、その質も問題となる。栄養素の不足やアンバランスによっておこる生活機能の障害を欠乏症といい、植物の白化や動物のビタミン欠乏症などがある。
[吉田精一]
なお、いますこし詳述すると、従属栄養生物の栄養素であるビタミン類は、正常な生理機能を営むために微量ながら必要であり、生物によっては自分で合成できず、外からの摂取が不可欠のものがある。また、エネルギー源としては脂質がとくに有効で、生体内で脂質が酸化されて生じる熱量は、当量の炭水化物やタンパク質の倍以上である。人体では、脂肪はトリアシルグリセロールとして、また炭水化物はグリコーゲンとして、それぞれ脂肪組織と肝臓に蓄えられ、貯蔵エネルギー源となっている。
独立栄養生物では、光エネルギーや無機物酸化の際に遊離するエネルギーを用いて炭酸固定を行い、有機物を合成する。緑色植物や糸状菌は、硝酸塩やアンモニウム塩を吸収して窒素を得ている。分子状窒素を固定するのは根粒菌などである。細菌類には紅色細菌のように、生活環境によって無機栄養型から有機栄養型に変わるものもある。原始生命体は化学合成型(光によらない化学反応によってエネルギーを獲得する。炭素源として二酸化炭素を用いるものと有機炭素を用いるものがある)であったと考えられている。
[嶋田 拓]
生物は外界からとり入れた種々の物質を材料にして体の構成物質を作り,また体内で物質が分解するときに生じる化学的エネルギーを利用してあらゆる生活活動を行っている。このような体外からの栄養物質(これを栄養素という)の摂取と体内でそれを利用する過程を栄養という。
摂取する栄養素の質によって栄養型が分類される。緑色植物はクロロフィル(葉緑素)のはたらきで,太陽光線のエネルギーによって二酸化炭素と水から炭水化物であるブドウ糖を合成することができ(光合成),これが体内で分解するときに生じるエネルギーによって,根から吸収した窒素,硫黄,リン,カリウム,マグネシウムなどの無機化合物を材料として,タンパク質,核酸,その他あらゆる生体構成成分を合成する。このような栄養型を独立栄養(無機栄養,自栄養)という。これに対して動物の多くはきわめて限られた合成能力しかもたず,エネルギー源として炭水化物,脂肪,タンパク質などの高分子化合物を必要とするうえに,体を構成するタンパク質の材料である20余種のアミノ酸のうちの約10種(必須アミノ酸),補酵素などの構成成分として必要なビタミン類,不飽和脂肪酸なども要求し,それらのものを食物として摂食する必要がある。このような栄養型を従属栄養(有機栄養,異栄養)という。病原性バクテリアの多くもこの型である。この2型は両極端の典型的な栄養型であるが,鞭毛虫類やバクテリア類にはこれらの中間の栄養型(混合栄養)を示すものが多い。緑色植物でもヤドリギのように他の植物に寄生したり,食虫植物のように昆虫を消化したりして有機物を摂取するものもある。
動物は完全な従属栄養であるが,個々のアミノ酸やビタミンに対する要求には種による差がみられる。これは合成能力の差を反映していると考えられる。また動物によっては,セルロースのように自身で消化できないものを,消化管内に存在する共生微生物のはたらきで分解し利用できる場合があり,これを共生栄養という。共生微生物は必須アミノ酸やビタミンの供給源としてもきわめて重要である。原生動物,腔腸動物,軟体動物のなかには共生している緑藻の光合成産物を利用するものもある。エネルギー源と利用できる窒素化合物の形に基づいてさらに詳細な栄養型の分類も試みられている。
執筆者:佃 弘子
健康づくりの柱として,栄養,運動(労働),休養の三つがあるが,栄養の問題はその中心をなす。
栄養素摂取に伴う身体状況を栄養状態というが,大別して四つに分けられる。適正な栄養状態,栄養相互のバランスの崩れた状態,栄養素の欠乏した状態,栄養素の過剰の状態である。しかし人間は個々の栄養素をそれぞれ摂取しているのではなく,いろいろな栄養素を含有している食品を摂取していることから,ある種類の栄養素の欠乏は,しばしば他の栄養素の欠乏を伴う。
食事による栄養素摂取の不均衡,過剰,不足の状態が続くと,身体の各組織に栄養素の不均衡,過剰,不足の状態が起こるようになる。そしてその結果として,身体に生理的あるいは生化学的な変化がみられるようになり,ついには自覚的な,あるいは他覚的な異常の状態(臨床症状)を示すようになる。
しかし,毎日の食物中の栄養素の過不足は,ただちに自覚症状を伴うものではなく,かなり進行し,病気の状態が現れて,はじめて気づくことが多い。人体の栄養状態は,年齢,性別,職業,生活条件などを,総合的に考えることが必要で,その身体状況に見合った食事を摂取することがたいせつである。基本はバランスのとれた食事ということである。
われわれが口からとり入れる食べ物は数多く,それぞれの食品によって含有されている栄養素も千差万別である。それゆえ,一つの食品で必要な栄養素をすべて備えた食品はない。いろいろな食品を組み合わせて,過不足のない栄養素摂取をすることがたいせつである。
そのための方法として,〈六つの基礎食品〉による食品の摂取が奨励されている。厚生省では,各栄養素のバランスがとれた食事のための正しい知識を普及することを目的に,1958年,〈六つの基礎食品〉を発表,さらに81年3月にはこれを改訂した。この改訂された〈六つの基礎食品〉は,栄養成分の類似している食品を6群に分類することにより,バランスのとれた栄養素摂取ができるように,具体的にどのような食品を,どのように組み合わせて食べるかを示したものである。
(1)第1群 緑や黄色の濃い野菜類。カロチンを多量に含んでいる野菜類。おもにビタミンAの豊富な供給源である。(2)第2群 淡色野菜や果実類。おもにビタミンCの供給源である。余分に摂取しても,体内に蓄積されないので,毎日摂取する必要がある。(3)第3群 魚貝,肉,卵,大豆製品。この群に含まれる食品は良質のタンパク質の供給源である。脂肪,リン,鉄,ビタミンB1,B2なども多く含有している。(4)第4群 米,小麦粉,パン,めん類,いも類。デンプン質の食品が多く,主としてエネルギー源であるが,同時にビタミンB1の供給源でもある。(5)第5群 牛乳,乳製品,小魚,海藻。おもにカルシウムの供給源である。日本人の食事では,一般にカルシウムが不足しているので,この群の食品が不足しないようにすることが必要である。(6)第6群 食用油,バター,マーガリン。油脂類はエネルギー源としての価値が高いばかりでなく,緑黄色野菜を油で調理すると,その中に含まれるビタミンA,Dの吸収利用をも促進する利点がある。
以上の六つの基礎食品群を,毎日まんべんなく摂取すれば,栄養素のバランスのとれた食事になるが,どの群が欠けても完全とはいえない。
食物の成分のうち,生体内にとり入れられて,生理的機能を円滑にするものを栄養素という。栄養素としては,炭水化物,脂肪,タンパク質,無機質およびビタミン類がある。
炭水化物は,炭素,水素,酸素の3元素からなり,水素と酸素の割合が2:1になっているものをいう。一般式はCm(H2O)nで表される。すなわち炭素と水とが化合した形のものであり,この意味から含水炭素とも呼ばれていた。炭水化物には多数の種類があるが,なかでもデンプン,ショ糖,乳糖が重要である。(1)デンプン 米,麦などの穀類やいも類に多量に含まれ,食品の炭水化物中大部分を占める。体内で最も容易にエネルギー源として利用される。デンプンは,消化管内で消化酵素(アミラーゼ)によって加水分解されてD-グルコースとなって吸収される。吸収された糖は肝臓へ運ばれ,グリコーゲンとして一部はたくわえられる。生のものに含まれるβ-デンプンは消化が悪いが,水を加えて加熱すると糊化(こか)し,消化のよいα-デンプンに変化する。α-デンプンを冷やして,長時間放置するとβ-デンプンに戻るが,ビスケットやせんべいは,デンプンを水とともに加熱し,糊化させ,すぐに乾燥させたものなので,時間がたってもβ-デンプンに戻らず,α-デンプンのままで保存性もよい。(2)ショ糖 デンプンについで摂取量の多い炭水化物で,消化酵素のインベルターゼによって加水分解され,D-グルコースとD-フラクトースとなって吸収される。(3)乳糖その他の多糖類 乳糖はおもに乳汁中に含まれる。デンプン以外の多糖類は腸内細菌によって分解されるが,セルロース,アルギン酸,寒天などはエネルギー源としての価値はない。
→炭水化物
獣肉,魚肉,卵,乳などの動物性のものと,大豆,ゴマなどの植物性のものとがある。化学的には,脂肪酸とグリセリンの化合したものであり,食物として摂取した脂肪は,消化管内で一部は膵液中のリパーゼの作用で加水分解されて,脂肪酸となって吸収され,一部は分解して生じたモノグリセリド,ジグリセリドや胆汁酸が乳化剤となって乳化され,腸壁から吸収される。吸収された脂肪は,体内で酸化燃焼してエネルギーを生成するが,一部は皮下や筋肉の間にたくわえられて,脂肪組織を形成する。身体が必要とする量以上の炭水化物を摂取した場合にも,体内で脂肪に変化してたくわえられる。脂肪は,同じ重量の炭水化物やタンパク質の2倍以上のエネルギーを生成するので,脂肪の多い食事は,デンプンやタンパク質の多い食事よりも,小さい容積でエネルギーを供給することができる。それゆえ,脂肪は胃に対する負担を少なくすると同時に,食べ物の胃にとどまる時間を延長させる作用もある。脂肪は貯蔵中に光線の作用や,空気中の酸素によって酸化したりして変敗することもある。変敗したものは有害なので,油脂類の保存は注意する必要がある。
→脂肪
炭水化物や脂肪と異なり,炭素,酸素,水素のほかに窒素,硫黄,リンなどを含む。タンパク質を構成するこれらの元素の含量は,どのタンパク質についてもほぼ一定で,おおよそ炭素53%,水素7%,酸素23%,窒素16%,硫黄2%である。タンパク質は酸,アルカリ,または酵素の作用で完全に加水分解されると,20余種のアミノ酸を生ずる。タンパク質の種類は多いが,その相違はおもにそのタンパク質を構成するアミノ酸の種類と構成割合による。人や動物の体の筋肉,血液,臓器,組織など,さらに体内の酵素,ホルモンなどは,タンパク質から構成されている。また遺伝や生殖にも重要な役割をはたしている。体内に摂取されたタンパク質は,消化管内で構成アミノ酸に分解され,そのアミノ酸は腸管から吸収されて血液中に移り,各組織に運ばれ,その組織のタンパク質などに合成される。したがって,タンパク質の栄養価は,構成するアミノ酸の種類と量によって異なる。アミノ酸の中には,動物体内で合成することのできない必須アミノ酸(不可欠アミノ酸ともいう)がある。人間では8種類(幼児は9種類)ある。食物中のタンパク質が必須アミノ酸をどれだけ含んでいるかで,タンパク質の栄養価が決定される。一般に動物性タンパク質は必須アミノ酸がよくそろっているが,植物性タンパク質は,リジン,スレオニン,トリプトファンなどのアミノ酸が少ない。
→タンパク質
ミネラルともいわれ,細胞の内外に含まれている。炭水化物,脂肪,タンパク質などの有機質の形になって存在する炭素,水素,酸素,窒素の四つを除き,カルシウム,マグネシウム,リン,カリウム,ナトリウム,硫黄,塩素,鉄,銅,亜鉛などをいう。骨や歯の主成分のリン酸カルシウム,細胞内に存在するカリウム塩,細胞外液中にあるナトリウム塩などが,比較的量の多い無機質である。リン,硫黄,鉄,亜鉛などはタンパク質の成分でもある。無機質は体液中でイオンとなり,浸透圧,水素イオン濃度(pH)調節,緩衝作用,筋肉の収縮,神経の刺激伝達などの機能をつかさどり,また消化液の分泌,排尿作用にも関係し,血色素,補酵素などに結合しているが,カルシウム,リンはおもに骨の硬組織を形成している。なお無機質は一定の範囲内の比率を保つと利用効率がよい。例えばカルシウムとリンの比は1~2くらいが理想的である。この割合がくずれると利用率は低下する。またカリウムを多量に摂取すると,ナトリウムの摂取量も増加することが望ましい。
人体の健康維持や成長にとって,欠くことのできない栄養素である。炭水化物,タンパク質,脂肪などの栄養素が,体内で直接エネルギー源となるときに,その化学反応を助けたり,または体の成分となるときに,微量でこれらの反応を促進する働きを示す。ビタミンは体内では,その必要量が合成されないものや,まったく合成されないものもあるので,栄養素のバランスのとれた食事をとることが必要であり,不足したときはビタミンの強化された食品やビタミン剤などで摂取することが必要である。現在20数種のビタミンが判明している。ビタミンは脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンに大別される。前者にはビタミンA,D,E,Kなどが,後者にはビタミンB1,B2,Cなどがある。一般に脂溶性ビタミンは余分に体内にとり込まれても,体内にたくわえられ少しずつ使われるが,水溶性ビタミンは,余るとすべて体外に排出される。また水溶性ビタミンのうち,ビタミンCは熱に弱い。各種ビタミンのうち,ビタミンB1の欠乏症の典型として脚気があるが,日本でもかつては〈国民病〉といわれるほど多発した。現在では重症の脚気はほとんどなくなったが,インスタント食品やスナック類などからの炭水化物のとりすぎによって,ビタミンB1欠乏状態になっている例がみられるようになった。またビタミンCはコラーゲンの合成に関与しているため,Cが不足するとコラーゲンの合成が不十分になり,出血しやすくなる。ビタミンCは寒さの厳しいときは消耗が速い。また副腎皮質ホルモンの分泌が盛んになるとき,副腎において多量に消費される。そのため,副腎皮質ホルモンの分泌を盛んにさせるストレスの増加や喫煙は,ビタミンCをより多く消耗させるといわれている。
→ビタミン
栄養素のエネルギー量は普通熱量の単位で表され,カロリー(大カロリー)が用いられる。すなわち1kgの水を1℃だけ温度を上げるのに要する熱量が1calで,物理学でいうカロリー(小カロリー)の1000倍,1kcalに相当する。栄養素が体内で燃焼するときに生ずる熱量をカロリーで示せば,1g当り炭水化物とタンパク質ではそれぞれ約4cal,脂肪では約9calである。なお,栄養学上のエネルギーの単位として,ジュールを採用しようという傾向が近年みられる。両単位の関係は1kcal=4.181kJである。
われわれが生活活動をするために毎日必要とする熱量は,性別,年齢,体重,労働量,健康状態などによって異なるが,ごく普通の日常生活を営むのに必要な熱量は成人で1日平均2300~2400calとされる。これは臥床,安静,空腹状態で測った基礎代謝量(1500cal内外)に特異動的作用の分を加え,さらに日常生活にみられる各種動作に要する熱量を含めたものである。基礎代謝量は消化吸収作用終了後のものであるが,食事をすれば食物を消化し,処理するために関係臓器は余分のしごとをしなければならなくなるから,基礎代謝量より多くの熱量が必要となる。つまり食物摂取が所要熱量を増加させる働きをもち,これを特異動的作用という。特異動的作用としてどのくらい余分に必要になるかは食物成分によって違うが,日常とっている炭水化物,脂肪,タンパク質の混合食では基礎代謝量の10%内外とされている。
すでに述べたように,栄養に関しては単に必要なカロリーをとるにとどまらず,バランスのとれた食事をとるように心がけるべきであるが,健全な社会生活を営むのに必要な栄養状態を保つために,各栄養素をどれだけ摂取すればよいかを一つの目安として示したものに栄養所要量がある。世界各国では,国民の栄養改善をはかり,食糧需要計画を確立するために国民の栄養所要量を決めているところが多いが,日本でも厚生省が〈日本人の栄養所要量〉を発表している。
小児(新生児期から思春期まで)の栄養問題は,心身がつねに成長し,発達しつつある過程であることを念頭におく必要がある。新生児,乳児では母乳(または市販の調整粉乳)を十分摂取していれば十分であるが,乳児期後半には離乳食を与えて,乳汁だけによる不足を補足すると同時に,幼児食に移行させていくこともたいせつである。幼児になると,日常生活における生活活動が増加し,エネルギー消費量が増加する。そのためタンパク質は,摂取量の1/2~2/3を栄養価の高い動物性タンパク質で与えることが望ましい。またカルシウム,鉄,ビタミンなどもより多くとる必要がある。学童期は食事パターンが成人型に移行する時期であるが,小児期のなかでも,心身のバランスのよくとれた最も安定した時期でもある。しかし次の思春期(10~17歳)は乳児期についで成長の旺盛な時期であり,栄養摂取量が一生でいちばん多い時代である。
妊婦では,単に胎児を発育させるだけでなく,出産という大きなストレスに耐えるだけの身体状態をつくりあげておく必要があり,また産婦では,母乳として失われる分を補い,哺乳に伴う生活活動の増加を考えて,栄養分をとる必要がある。
壮年期は,代謝活性が低下し始める時期であるから,体重が増えすぎないようにするには,エネルギー摂取量を減少していかなくてはならないが,一方,栄養素のバランスのとれた食事をする必要がある。老年期になると一般にエネルギー摂取量は急速に落ち込む。タンパク質はできるだけ良質のものを,消化しやすい形でとり,脂肪は総エネルギーの20%程度にとどめるのがよい。なお老人ではビタミンB群やCなどの水溶性ビタミンの吸収は低下するから,この点留意すべきである。
執筆者:坂口 ちはる
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…栄養の不足を補い,アンバランスを調整するために服用する薬を総称していう。一般にはビタミン剤,アミノ酸製剤,ミネラル製剤,滋養強壮剤のことをさすが,広義には一般輸液,高カロリー輸液,宇宙食や外科栄養法に用いられる成分栄養剤elemental dietも含まれる。…
※「栄養」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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