〘名〙 (中古のかな文では、
撥音「ん」を表記しないで「あない」と書くことが多い) 本来、「案」は
文書の写し、および下書きをいい、「案内」は案の
内容を
意味した。平安時代以後、
内情、事情その他の意に転じて用いられている。
(イ) 保存して
後日の
参考にするため、文書を書き写したもの。また、その内容。この語は、多くは「案内を検ずるに」のように用いられた。あない。
※続日本紀‐養老四年(720)三月己巳「又撿二養老二年六月四日案内一云」
※
万葉(8C後)六・一〇〇九・左注「今撿
二案内
一、八年十一月九日葛城王等願
二橘宿禰之姓
一上
レ表」
※
紫式部日記(1010頃か)寛弘五年一〇月一六日「頭の弁してあないは奏せさせ給ふめり」
(イ) あることがらの内々の事情。また、ある地域や建物などの
内部の様子。
実情。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「あないも知らぬ人は、
大将の一つ御腹なめりときこゆ」
※
今昔(1120頃か)一七「僧等、案内を不知
(しら)ざるに依て、此の寺に寄て宿りぬ」
(ロ) (━する) 事情、様子を明らかにすること。また、問い尋ねること。
※宇津保(970‐999頃)国譲下「悩み給ふとてあるは、まことかそらごとか確かにあないして言へ」
③ (━する) 取り次ぐこと。取り次ぎ。また(訪問者が)取り次ぎを頼むこと。
※虎寛本狂言・二人
大名(室町末‐
近世初)「イヤ、参る程に是じゃ。先案内を乞
(こは)ふ」
※
大乗院寺社雑事記‐文正元年(1466)四月晦日「請僧百口参否歟可
レ令
二校合
一。
皆参之後可
レ申
二導師案内事
一」
⑤ (━する) 道や場所をよく知らない人を手引きすること。先にたって、
目的の場所まで連れていったり、ある場所を見せて歩いたりすること。また、その人。
※応仁略記(1467‐70頃か)下「其後今出河殿え案内を啓し奉る」
※満韓ところどころ(1909)〈
夏目漱石〉一七「この中に落ちて死ぬ事がありますかと、案内
(アンナイ)に聞いたら」
⑥ (━する) 事情、様子などを知らせること。しらせ。便り。現代では、催し、事業などの内容・
期日などを知らせたり、説明したりする場合に用いることが多い。「案内広告」「案内状」
※
狭衣物語(1069‐77頃か)一「その後、内々にもあんない申さねば、いと甲斐なきやうなりや」
⑦ 事情を知っていること。
承知。
接頭語「御
(ご)」を伴って相手への
敬意を表わすことが多い。
※大隅桑幡家文書‐建久八年(1197)閏七月日・大隅国図田帳写「九州之内一国令其国案内候在庁に仰付、惣田庄公可下令二注進一給上也」
※浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)三「われ達(たち)も案内の通(とほり)、去年の夏から取付の俄(にはか)大名」
⑧ (━する) あいさつすること。ひとこと断わること。許可をえること。
※今昔(1120頃か)三一「天台の末寺の内なる木をば、心に任せて、案内も不云(いはず)して可被折(をらるべ)きぞ」
⑨ (━する) 客を招くこと。招待。
※閑居友(1222頃)下「さとにまかりていでたらんに、かならずあ内し侍らむといひけり」
[語誌]漢語本来の意味としては「事件の内に・一件中に」などを指すが、日本では、上代・中古の格(律令を執行するための臨時の法令)、符(上級官司から下級官司に出す命令文書)等の古文書、記録、日記類の漢文あるいは変体漢文に①の意で盛んに用いられ、日本語として独自の意味をもつようになった。