塩漬けした桜の若葉でくるんだ餅菓子。葉の香気が餅に移り、その淡雅なようすが春の味わいとして、江戸時代から庶民に親しまれてきた。もっとも有名なのは東京・向島(むこうじま)にある長命寺(ちょうめいじ)の桜餅で、250年余の人気を今日も保っている。長命寺の桜餅は、元禄(げんろく)年間(1688~1704)に銚子(ちょうし)(千葉県)から出てきた山本新六が長命寺の門番に住み着き、墓参の人を手製の桜餅でもてなしたのに始まる。1717年(享保2)、隅田川堤に桜の植え足しが行われたのを機に茶屋がけしたのがあたり、1824年(文政7)に使用した桜の葉は77万5000枚、商った桜餅の数は38万7500個(『兎園(とえん)小説』)に達したという。この桜餅は当初漉し餡(こしあん)を包む皮に粳米(うるちまい)を用いたが、のち、葛粉(くずこ)にかわり、現在は小麦粉が使われている。粉1キログラムで100個分の皮をつくるが、製法は、小麦粉を練って銅板で焼き、これで固練りの漉し餡をくるみ、桜の葉2枚で包む。皮は着色しないのが長命寺の桜餅の特徴である。商品として文献に現れた桜餅は長命寺が古いが、桜の葉を塩漬けにした利用法は、それ以前からあったと考えられる。草餅、柏餅(かしわもち)などとともに家庭でつくられた年代は、さらに古いのではないだろうか。桜餅の皮は、道明寺種(どうみょうじだね)を使用し薄紅色をつけたものも口あたりがよい。また、葉にくるんでから蒸す仕法がある。このほうが家庭的であり、古いようである。
[沢 史生]
餅菓子の一種。白玉粉,小麦粉,砂糖などを合わせてたねを作り,このたねを薄く焼いて皮にし,あんを巻き,塩漬のサクラの葉で包む。道明寺(どうみようじ)で皮を作るものもある。1717年(享保2)サクラの名所として知られた江戸向島の長命寺境内で,同寺の門番山本新六が売り出したのに始まるという。この長命寺の桜餅は大いに人気を集め,1824年(文政7)には塩漬の葉の仕入高は31樽,枚数でおよそ77万5000枚,1個に2枚ずつ使って,桜餅の数は38万7500個になると,《兎園小説》の中で屋代弘賢は書いている。大坂ではこれにならって北堀江の土佐屋という店が,天保(1830-44)ころから売りはじめ,好評を得たという。なお,これら以前に,江戸日本橋本町の京菓子司桔梗(ききよう)屋の菓子目録(1683)や《茶湯献立指南》(1696)に〈さくらもち〉の名が見られるが,この菓子は蒸菓子であって,いまの桜餅とは別物であったようである。
執筆者:鈴木 晋一
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