[1] 〘名〙
※
書紀(720)允恭八年二月・歌謡「花妙
(ぐは)し 佐区羅
(サクラ)の愛
(め)で こと愛でば 早くは愛でず 我が愛づる子ら」
※
古今(905‐914)春上・五三「世中にたえて
さくらのなかりせば春の心はのどけからまし〈在原業平〉」
② ①の木材。材質は緻密で、家具材・器具材・船材などに用いられる。江戸時代には版木としても用いられた。桜の木。〔大和本草(1709)〕
※雑俳・柳多留‐一五〇(1838‐40)「酒は梅肴さくらで酔がさめ」
※宇津保(970‐999頃)楼上上「御料に、いと濃き袿一襲、薄き
蘇枋の綾の袿、さくらの
織物の直衣、つつじの織物の
指貫など」
※枕(10C終)八三「さくらの直衣のいみじくはなばなと、裏の
つやなど、えもいはずきよらなるに」
⑤ 桜の花を図案化したもの。桜の花の模様。桜模様。
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たまきはる(1219)「さくらのちりばな織りうかし、にしき、織り物の裳唐衣などにも」
⑥ 紋所の名。桜の花を図案化したもの。桜、山桜、細川桜、大和桜、裏桜、桜井桜、浮線桜(ふせんざくら)、三つ割り桜、八重桜などがある。
⑦ (色が桜色であるところから) 馬肉のこと。さくらにく。
※道程(1914)〈高村光太郎〉夏の夜の食慾「ビフテキの皿に馬肉(ばにく)を盛る 泡のういた馬肉(サクラ)の繊維」
⑧ (桜の花の刻印があるところから) 天保一分銀の異称。
※人情本・柳之横櫛(1853頃)初「時に若旦那毎度まうし兼ましたが一寸額銀(サクラ)を三分(みっつ)ばかりお借なすって下さいませんか」
⑨ 上方の遊里で、遊女の階級である小天神(こてんじん)の異称。
※浮世草子・好色産毛(1695頃)一「門松の部の太夫職、梅が香は桜に勝、太夫天神と二木の名に呼れ」
※歌舞伎・綴合於伝仮名書(高橋お伝)(1879)六幕「『甘いのはいかねえから、桜湯を一杯くんねえ』『ハイハイ、姉さん桜(サクラ)を上げて下さいましよ』」
⑪ 花札で、桜の花の絵が描いてある札の称。
※玄鶴山房(1927)〈芥川龍之介〉五「彼は或夜の夢の中にはまだ新しい花札の『桜(サクラ)の二十』と話してゐた」
⑫ 魚のひれの部分の名。背びれの中程の部分をいう。
⑬ 江戸時代の劇場で、頼まれて役者に声をかける者などを入れるための特別の桟敷。また、その者。太郎桟敷。
※南水漫遊拾遺(1820頃)四「さくら 客にうらぬ太郎桟敷」
⑭ 露店などの、業者の仲間で、客を装って品物を買ったりほめたりして他の客の購買心をそそる者。また、なれあいをいう俗語。
※尾府刑法規則‐寛政元年(1789)一〇月「てら博奕打之内、さくらに被頼候者も、てらと申儀承知に候得ば、本人同様、無差別、御仕置可申付事」
⑮ ある人に頼まれて、その人の都合のいいような役回りを引き受けること。また、その人。
※漫才読本(1936)〈横山エンタツ〉あきれた連中「ついては、石田君に、公衆の一人として、つまり『サクラ』になって、その実験をして欲しい」
※雑俳・柳多留‐一〇(1775)「ふきがらは桜の中でいぶり出し」
※雑俳・柳多留‐一三(1778)「そのくらさ早太さくらにつっかかり」
[2]
[一] 平曲の冒頭に語られる一句の曲名。桜町中納言が泰山府君(たいざんふくん)に祈って桜の花の命を延ばしたという内容。琵琶法師が平家物語を語る際に、かならず最初にこれを語ったという。
[二] 箏曲。初心者の手ほどきに用いられる小曲。作曲者不明。明治時代、文部省で「咲いた桜」の古謡を改作し、「さくら、さくら、彌生の空は…」の歌詞を定めて「箏曲集第一編」(東京音楽学校)におさめた。さくらさくら。
[三] 東京、長崎間に運行された寝台特急列車(ブルートレーン)の愛称。もと、大正一二~昭和一七年(一九二三‐四二)、東京と下関との間に運行されていた特別急行列車を昭和四年(一九二九)に命名したのが始まり。同三四年に復活し、平成一七年(二〇〇五)に廃止。
[四] さいたま市の行政区の一つ。平成一五年(二〇〇三)成立。市南西部、荒川左岸を占め、埼玉大学、さくらそう公園などがある。
[五] (さくら) 栃木県中部の地名。氏家、喜連川は奥州街道の宿場として栄えた。平成一七年(二〇〇五)市制。