窓や入口など建物開口部の上部の横木,広くは柱や壁の間に架け渡された横架材を指す。またこうした水平材と柱とを主体とする構造方式を,アーチを用いる組積造に対し,楣式構造trabeated constructionと呼ぶ。ただし横架材のうちでも,水平力をうけ持ち骨組みの一部として働くものを梁(はり),水平力を考慮せず垂直荷重をうけるだけのものを楣として区別することがあり,柱・梁による構造のほうはラーメン構造,そうではない単純な積み木的なものを柱・楣構造post-lintel constructionと呼んでいる。原始的な木造の架構は,洋の東西を問わずこの柱・楣構造方式が多かった。この方式を石造におきかえ,完成した様式にまで高めたのが古代ギリシアの神殿建築で,これは西欧の石造建築でその後長い間尊重されることとなった。しかしやがてこの方式は装飾的形態とみなされ,組積造の表面を飾るものとなって構造的意味を失ってしまう。西欧建築のなかで楣式構造が再び構造的実質を伴って現れるのは,近代の鉄骨や鉄筋コンクリートによるラーメン構造の出現以後のことである。中国や日本の木造建築においては,宋代以後(日本では鎌倉時代以後),柱や束を貫通して相互に固める貫(ぬき)の採用,複雑・巧妙な継手・仕口の考案により,独自の楣式構造の伝統がつくり上げられた。
執筆者:福田 晴虔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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