精選版 日本国語大辞典 「構造主義」の意味・読み・例文・類語
こうぞう‐しゅぎ コウザウ‥【構造主義】
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1960年代、フランスを中心に現れた、諸科学における新しい考え方の総称。その範囲は広く哲学、文学、精神分析学、経済学、民族学、生物学、数学などにわたっている。
[足立和浩]
この考え方の特徴は、可変的な表層的諸現象の背後に隠された深層的で不変な「構造」を探究するというところにある。これには19世紀以来の歴史主義(連続的、進歩主義的な歴史観)と人間中心主義(デカルト的な実体的アトムとしての人間観)とに対するアンチ・テーゼという意味がある。とくにフランスでは、サルトルの『弁証法的理性批判』という歴史主義(ヘーゲル‐マルクス主義)と人間主義(デカルト‐フッサール主義)との統合を企てた記念碑的な著作があり、これをいかに乗り越えるかが後の世代の喫緊の課題となっていた。
構造主義の源はソシュールの言語学である。彼は通時的な比較言語学に共時的な構造言語学を対置し、ラングlangue(言語)の構造分析に専念した。とくにシニフィアンsignifiant(聴覚イメージ)/シニフィエsignifié(概念)という一組の概念は諸科学の構造主義的な考え方に大きな影響を及ぼした(むしろ、いささか濫用されたきらいさえある)。
[足立和浩]
フランスの構造主義を代表する思想家はレビ・ストロース、ジャック・ラカン、ルイ・アルチュセール、ミシェル・フーコーなどであり、さらに周辺にはロラン・バルト、ジャック・デリダらがいる。
レビ・ストロースは、ソシュールの記号論的方法を民族学に適用し、未開社会における女性の交換という複雑で難解な現象に着目して、「交差いとこ婚」の深層構造を分析した。この構造は厳密な数学的モデルとして理論化され、多様な現象の背後に隠された無意識的な構造とみなされている。また彼はトーテミズム、儀礼、神話などの象徴体系をも解明し、文明人の思考に対する「野生の思考」の基底構造性を強調している。
精神分析学のラカンは、サルトルらの実存主義が盛んであったころから、超然と独自の理論を展開している。精神分析医としての立場を通じてフロイト理論をさらに深化しようとするラカンは、治療を受けにくる患者の無意識が言語のように構造化されていることに着目し、無意識の構造分析を可能にするための「統辞論的な意味の移動」や「意味論的な凝縮」の諸例を提示している。また、治療が成功するためには医者と患者との(デカルト的な)実体的主体が解体されねばならぬ、という彼の主張もきわめて重要である。
アルチュセールは、ソシュール的方法をマルクス学のなかに導入し、マルクスの思想をヘーゲル的弁証法や主観主義などから解放することを企てる。具体的には、上部構造/下部構造、生産力/生産関係といったマルクスの操作的、構造的な諸概念が実体化されていることを批判し、もろもろの構造は「多元的決定」としてダイナミックに把握されねばならぬことを主張している。
フーコーは、哲学の対象から「人間」を除外し、もっぱら「言語」にのみ関心を向ける。人間なきあとには知(エピステーメー)のみが残り、その構造分析が哲学の課題となる。各時代にはそれぞれの知の型があるが、それら相互には連続的変化はなく、ただ非連続と断絶による変形のみが存在する。絶えず進歩する人間というイメージと結び付いた直線的で連続的な歴史を拒否することが問題なのである。また後年の権力の分析、さらに性の問題の分析にも、きわめて興味深いものがある。
[足立和浩]
『サルトル、パンゴー他著、平井啓之訳『サルトルと構造主義』(1968・竹内書店)』▽『泉靖一編著『構造主義の世界』(1969・大光社)』▽『エドマンド・リーチ著、吉田禎吾訳『レヴィ=ストロース』(1971・新潮社)』
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(石川伸晃 京都精華大学講師 / 2007年)
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…以上二つの立場は認識人類学cognitive anthropologyの名で総称される。 認識のプロセスを扱ういま一つの立場は,フランスのC.レビ・ストロースに代表される構造主義structuralismeである。レビ・ストロースのいう構造は経験的実在に関係しているのでなく,経験的実在に基づいて作られたモデルである。…
…1948年以来エコール・ノルマル・シュペリウールの講師となり,また共産党員となる。スターリン批判以後のマルクス主義の多元化の潮流のなかで,バシュラールらの科学認識論の伝統をひきつぎつつ,マルクス思想の構造論的再理解を試み,構造主義的マルクス主義者として60年代以降の思想的大革新の旗手の一人となった。80年に精神に異常をきたし,妻を絞殺して精神病院に収容された。…
…パースらとともに現代文化記号論の祖の一人とされるスイスのF.deソシュールは儀礼,作法などの諸文化現象を記号として考え,記号論sémiologie(英語ではsemiotics)の展望を開いた。ソシュールは言語学を記号論の一分野として位置づけ,記号論が発見する諸法則を言語学に適用することを考えたが,第2次大戦後のフランスにおける構造主義者R.バルトは,むしろ記号論こそ言語学のなかに位置づけられるべきであると主張した。あらゆる記号のなかで自然言語の記号(いわゆる言語記号)ほど複雑・高度な記号は存在せず,その機能と構造の諸特徴は他の諸記号の機能と構造の特徴の多くを網羅してしまうからである。…
…この本の仏訳(1948)とパスカルおよびラシーヌを論じた《隠れたる神》(1956)によってフランス思想界に地歩を固めた。ルカーチの影響のもとに,哲学や文学の創造活動とその社会的基礎との弁証法的関係を追究して,マルクス主義的な思想史研究に新境地をひらき,みずから〈生成的構造主義〉を標榜した。そのマルクス主義的な思想史研究は,アンリ・ルフェーブルの〈思想の社会史〉とともに貴重な試みであった。…
… 18世紀のロマン主義文芸運動以降は,しだいに新しい創作論や近代的な文芸批評が起こり,直接的にアリストテレスに拠る詩学は衰えたものの,言うまでもなく,今日の文学・芸術を考える上で,アリストテレスの《詩学》自体に含まれていたさまざまな論は,その価値を失っていない。【福井 芳男】
[フォルマリズムに始まる詩学の発展]
〈詩学〉という言葉は,一般には詩の韻律・言語の分析や研究をいうが,構造主義の登場以後はとくにロシア・フォルマリズムに始まる詩,そして一般に文学テキストの構造的研究とその理論をさす。ロシア・フォルマリズム(1910年代後半に発足)は,世界の明視(ビジョン)の創造を芸術の目的とし,その方法は異化(V.シクロフスキーによる。…
…彼は〈全体的社会現象〉と呼ぶものを,最表層部の形態学的特性から最深層部の集合的精神状態まで10の〈深さの層位〉に区分し,社会構造とはそれらの層位が一時的・過渡的にバランスした一局面である,とした。またギュルビッチの社会の深層構造というアイデアと共通する構造概念は,フランスの人類学者レビ・ストロースの〈構造主義〉人類学によっても用いられている。レビ・ストロースのいう社会構造は,当事者であるその社会の成員自身によって意識されることのない,したがって直接にはそれを観察することの不可能な,いわばかくれた行為規則である。…
…ヨーロッパでは,多くの亡命学者が流出して思想的に沈滞したドイツに代わって,フランスで近代理性主義を根底的に批判する新しい思想的動向が生まれた。それが,60年代に入って構造主義として顕在化したとき,精神分析はその不可欠の要素となっていた。そのなかでもJ.ラカンは,30年代半ばから精神分析を学んだが,大戦後,無意識を体系的な言語の構造をもつものと考え,言語学と結びつけつつ独自なフロイト理解を進めて,とくに60年代半ば以降構造主義の一翼をにない広い思想的影響を与えるにいたった。…
…フランスの科学哲学者。構造主義の先駆者の一人として,また,その詩論,イマージュ論でも知られる。1927年《近似的認識にかんする試論》で学位をえた後,ディジョン大学講師,教授をへて,40年ソルボンヌ(パリ大学)に迎えられ,科学史,科学哲学を講ずるとともに,同大学付属の科学史・技術史研究所長を務めた。…
…このようにして,文学の文学性の根拠をつきとめようとする試みは,逆説的に,文学と文学でないものの関係を問題とせざるをえない事態にたちいたるのである。
[構造主義]
文学と文学でないものとの関係のあり方を問うということになれば,当然ながら,マルクス主義の側からの文学研究もそれをなしうるもののひとつに数えられる。しかし,今日言われるような意味での文学理論につながる方向にこの問題を追求しはじめたのは,マルクス主義的な文学研究ではなかった。…
…この点はほとんど社会構造の分析にのみ集中したイギリス社会人類学との大きな違いであるが,現在の文化に主たる関心を寄せ,文化の諸部分を全体の脈絡の中で理解しようとする立場は,文化を断片化して扱った前代の民族学との決定的相違であった。
[認識人類学から構造主義へ]
文化人類学の次の転機は1960年代に訪れる。その兆しはすでに50年代に認められるが,60年代以降急速に文化人類学の新しい主流が形成をみるのである。…
…19世紀後半にイギリス,アメリカで盛んになった進化主義的民族学は,人類文化に共通の進化という現象と人類の基本的心性の同一性に注意を向けさせ,進化主義への反動として20世紀前半にドイツ,オーストリアやアメリカで盛んになった歴史民族学は,個別文化が歴史的に形成されたことを強調し,個々の文化要素や文化複合の空間的分布のもつ意味を問うており,1920年代以後イギリスで盛んになった機能主義は,個々の制度が全体社会の維持に果たす機能,あるいは個人の欲求充足に果たす機能が問題にされた。第2次大戦後,フランスにおいて盛んになった構造主義においては,文化を構成する個々の要素をそれ自体としてではなく,相互間の関係からなる構造として把握すること,ことに意識されていない構造の重要性を論じた。進化,歴史,機能,構造は,いずれも文化を理解するのに不可欠な視角である。…
…イギリスの小説家E.M.フォースターが,〈小説のかなめは物語であり,物語とはできごとを時間順に語ったものである〉(《小説の諸相》1927)と述べているのも,これと似た考え方である。 こうした考え方は今日でも根強くあるが,その一方で,とくに1960年代以降,フランスの構造主義に属する人々によって推進されてきた物語研究の新しい動きがある。この場合には,物語をいわゆる文学に固有のものとはせず,神話,伝説,民話,おとぎ話,小説,戯曲,絵画,映画,漫画,ダンスなどに共通にあらわれるものとみる。…
※「構造主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
冬期3カ月の平均気温が平年と比べて高い時が暖冬、低い時が寒冬。暖冬時には、日本付近は南海上の亜熱帯高気圧に覆われて、シベリア高気圧の張り出しが弱い。上層では偏西風が東西流型となり、寒気の南下が阻止され...
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