一般に事物のあり方,とくに〈必然的である〉〈可能的である〉などといった判断の確実性の程度から見た分類(カントの用法)を指す語。論理学的にはこのような判断を含んだ論理演算とそれに対応する意味論における対応物の総称であると言える。そして,自然言語における法助動詞,法副詞などもこれに含まれる。また,時制をあらわす言語表現も広い意味において様相に関する論理演算と考えることができる。一般に,様相演算を含む文の真理値(真偽)は与えられた世界,あるいは時間だけに話を限ると決定することができない。たとえば,〈2+2=4は必然的である〉という文が主張していることは,〈2+2=4〉という命題は,現実の世界においてのみならず,他のいかなる可能な世界においても成り立つということである。つまり,この世界だけでなく,他の可能な世界についての配慮も必要になってくる。また,〈私は学校へ行った〉という文の真偽も現在の時点における〈私〉を観察しても決められず,過去についての考察もなければならない。このように考えると,様相という概念は現実の世界以外に多くの可能な世界を想定するいわゆる多世界意味論と深く結びついていることがわかる。そして,現在では,この多世界意味論に基づいて,様相に伴ういろいろの問題が近代論理学の立場から検討されている。様相論理学,時間論理学などはまさにこういった論理なのである。
執筆者:石本 新
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事物やできごとが存在ないしは生起する仕方を表す概念。一般にあり方、様態にほぼ同じ。基本的な様相概念には、存在様相(全称、特称)、真理様相(必然的、可能的)、規範様相(義務的、許可的)、認識様相(知られている、いない)、時間様相(現在、過去、未来)などがある。とくに真理様相は論理的様相ともよばれ、アリストテレスの『分析論前書』以来、様相論理学の対象となってきた。カントは様相を量、質、関係と並ぶカテゴリーの一つとみなしたが、他のカテゴリーとは違い、様相は対象の規定にかかわるものではなく、認識能力に対する関係を表現するものにすぎないと考えた。それに対してヘーゲルは、様相を客観的存在の本質規定を表すものととらえた。この対立は現代では、様相概念の二つの解釈、すなわち様相を命題に適用されるものとする言表様相de dictoと事物の属性に適用されるとする事象様相de reの区別に引き継がれている。また様相論理学の解釈にクリプキが可能世界モデルを導入して以来、様相概念は現代哲学の中心問題の一つとなっている。
[野家啓一]
『G・E・ヒューズ、M・J・クレスウェル著、三浦聰他訳『様相論理入門』(1981・恒星社厚生閣)』▽『内田種臣著『様相の論理』(1978・早稲田大学出版部)』
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…広義には,音楽に用いられる旋律や和声が,一つの音(主音)を中心としてこれに従属的にかかわっている現象をいい,狭義には,18,19世紀のヨーロッパの芸術音楽の中心的語法であった機能和声的調性を意味する。したがって広義には5音音階その他の特殊な音階による民謡や教会旋法に基づく音楽も中心音性があれば調性をもつこととなるが,この場合狭義の調性と区別して旋法性modalityという。今日一般に調性といった場合,狭義の機能和声的調性を意味する場合が多い。…
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