横隔膜(読み)おうかくまく

精選版 日本国語大辞典 「横隔膜」の意味・読み・例文・類語

おう‐かくまく ワウ‥【横隔膜】

〘名〙 哺乳類胸腔腹腔とをしきる膜。中央部の腱膜(けんまく)以外は横紋筋で形成され、上部心臓、肺、下部は胃、肝臓などに接し、中央を消化管血管などが貫いている。収縮弛緩することによって呼吸運動を助けるほか排便嘔吐のときもはたらく。〔解体新書(1774)〕

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デジタル大辞泉 「横隔膜」の意味・読み・例文・類語

おう‐かくまく〔ワウ‐〕【横隔膜】

哺乳類の胸腔腹腔とを仕切る横紋筋性の膜。その収縮・弛緩しかんにより呼吸作用を行う。
[類語]粘膜角膜胸膜結膜骨膜鼓膜髄膜脳膜弁膜腹膜網膜肋膜

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「横隔膜」の意味・わかりやすい解説

横隔膜
おうかくまく

ヒトの横隔膜は胸腔(きょうくう)と腹腔(ふくくう)との境となっている、筋と腱(けん)とで構成されている板状の中隔である。全体として円屋根形で、凸面は胸腔の床にあたる。横隔膜の周辺部は筋線維からなり、胸郭(きょうかく)の下口を形成する腰椎(ようつい)、肋骨(ろっこつ)、胸骨からおこり円蓋(えんがい)を形成して胸腔に向かって盛り上がり、中央部の腱膜(腱中心という)に集まって、これに付着する。筋線維がおこる骨部に相当して、筋線維は腰椎部、肋骨部、胸骨部に区分される。横隔膜の上面は胸内筋膜と胸膜、下面は横隔膜筋膜と腹膜に覆われるが、腹部臓器が接する部分には腹膜はない。横隔膜の円屋根形は右側隆起が左側よりやや高いが、横隔膜の高さは死体と生体では異なるし、呼吸運動や肝臓の大きさ、胃、腸の膨れぐあいでも変化する。死体で筋の弛緩(しかん)した状態での横隔膜の右側頂点は、ほぼ第4肋軟骨の高さで、これは、強制的な呼気を行わせたときの腹側からみた高さと同じである。横隔膜の位置は、女性では男性よりも高く、若い人は高年者よりも高い。また、深呼吸時における高さの移動範囲は約30ミリメートルという。横隔膜には、胸腔と腹腔との間を通る器官のための三つの孔(あな)がある。大動脈裂孔は最下後方にあり、食道裂孔は大動脈裂孔の前上方で筋線維部にあり、大静脈裂孔はもっとも上部にある。そのほか、神経や脈管を通すいくつかの小孔もある。

 横隔膜を支配する神経は横隔神経で、第4頸(けい)神経線維が主となり、第3、第5頸神経からの線維も含まれる。横隔神経が切断されると、横隔膜の筋線維が弛緩し、それまで収縮緊張して下がっていた横隔膜は、胸腔に向かって上がる。横隔膜の周囲の臓器関係は、胸腔面には腱中心の上方に心臓、左右に肺が位置し、腹腔面では肝臓、胃、脾臓(ひぞう)、腎臓(じんぞう)、副腎が接している。

[嶋井和世]

動物の横隔膜

哺乳(ほにゅう)類の体腔(たいこう)を、肺や心臓を含む胸腔と、肝臓、胃、腸などを含む腹腔とに区分する膜状の呼吸補助筋肉をいう。横隔膜が収縮すると、胸腔が広がって内部が陰圧となり、外気が肺に入る。そのほか排便や嘔吐(おうと)時に腹圧をあげる作用もある。横隔膜の形成は腹側の腹側隔膜と背側の背側隔膜の癒合による。爬虫(はちゅう)類や鳥類においても横隔膜はあるが、完全には胸腔と腹腔を境しない。両生類においてはその原型がみられる。

[内堀雅行]

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百科事典マイペディア 「横隔膜」の意味・わかりやすい解説

横隔膜【おうかくまく】

哺乳(ほにゅう)類の胸腔と腹腔を境する筋肉性の膜。周縁は胸郭の下口を囲む骨格に付着し,中央部は上方に円蓋状に高まる。上面に心膜を隔てて心臓,胸膜を隔てて肺をのせ,下面は腹膜におおわれ胃や肝臓に接する。横隔膜は横紋筋よりなるが,中央部は筋肉を欠き腱膜状となる。呼吸運動,特に腹式呼吸にあずかるほか,排便や嘔吐(おうと)の際にも働く。しゃっくりは主に横隔膜の痙攣(けいれん)が原因。
→関連項目横隔膜ヘルニア嘔吐(生理)腹筋漏斗胸

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「横隔膜」の意味・わかりやすい解説

横隔膜
おうかくまく
diaphragm

胸腔と腹腔との境をつくる膜状筋で,腰椎部,肋骨部,胸骨部の3部から成る。それぞれの部から出る筋束は,全体として円蓋のように胸腔に向って盛上がっており,その中央部は腱膜から成る。この部分は腱中心と呼ばれる。横隔膜の上面は胸内筋膜および胸膜,下面は腹横筋膜および腹膜でおおわれている。横隔膜には大動脈裂孔,大静脈孔,食道裂孔があり,それぞれ大動脈,大静脈,食道が通っている。横隔膜は吸気時に下降,呼気時に挙上して,呼吸運動にあずかる。

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世界大百科事典 第2版 「横隔膜」の意味・わかりやすい解説

おうかくまく【横隔膜 diaphragm】

哺乳類のからだの体腔を前半の胸腔と後半の腹腔とに隔てる筋肉性の厚い膜で,呼吸運動に関与する。原始的な魚類を除く脊椎動物では,体腔の前部に位置する心臓はその後ろに生じた隔壁によって体腔の主部から隔離されている。この隔壁を一般に横中隔といい,これによって隔てられた,心臓をいれた空間を囲心腔という。両生類・爬虫類では肺の発達と関連して,胸囲心膜とよばれる新しい隔壁が横中隔の一部から発達し,囲心腔と腹腔とを境するようになる。

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栄養・生化学辞典 「横隔膜」の解説

横隔膜

 呼吸筋の一種で,胸と腹腔の間に膜状に張られている筋肉.横紋筋.天然の筋肉切片に相当するので,実験材料にも使われる.

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世界大百科事典内の横隔膜の言及

【ペッサリー】より

…鋼鉄製スプリングの環に半球状のゴム膜を張った避妊器具。腟内に挿入し,射精された精子が子宮内にはいるのを防ぐことで避妊を実現する。オランダで考案されたためダッチペッサリーが正称。男性の協力を必要としないため,欧米では避妊を推進した婦人運動家により推奨されて普及した。第2次大戦後日本でも避妊法の一つとして指導されたが,あまり普及せず製造会社もなくなった。
[使用法と短所・長所]
 直径が60~80mmとさまざまなサイズがあり,産婦人科医,助産婦などに診察を受けサイズを測ってもらい,自分に適したものを選ぶ必要がある。…

※「横隔膜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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