翻訳|dimension
ディメンションともいう。
(1)数学における次元 常識的には,ユークリッドの《ストイケイア》にあるように,線とは幅のない長さ,面とは長さと幅をもつもの,立体とは長さと幅と高さをもつものとされ,また線の端は点,面の端は線,立体の端は面であるとされている。このような理由で,点を0次元,線を1次元,面を2次元,立体を3次元の図形と呼んでいる。このことは点の位置は解析的には線上では一つの実数で,面上では二つの実数の組で,立体内では三つの実数の組で表されることに対応している。このようにみるとき,次元とは図形上で点の位置を指定するのに必要な座標の個数といってよいようである。しかしながら,直線上の点と平面上の点との間には1対1対応がつくことや,正方形全体を埋めつくす連続曲線(ペアノ曲線)の存在することなどを考えると,上の定義は厳密とはいえない。ところで,線は点(0次元)で切断することによって二つの部分に分けられるが,面を二つの部分に分かつには点では不十分で線(1次元)で切断しなければならない。また,立体を二つに分かつには線では不十分で面(2次元)で切断しなければならない。次元のもつこの帰納的性質に着目して,点集合の次元が帰納法により次のように正確に定義される。まず空集合は-1次元であるとする。次に点集合Sが-1次元ではなくて,Sの各点に対し,それを囲む領域でその境界とSとの交わりが-1次元となるものがいくらでも小さくとれるとき,Sは0次元であるとする。さらに点集合Sが-1次元でも0次元でもなくて,Sの各点に対し,それを囲む領域でその境界とSとの交わりが0次元であるものがいくらでも小さくとれるとき,Sは1次元であるとする。以下これを続けて,点集合Sがn次元であるとは,Sはn-1次元以下ではなくて,Sの各点に対し,それを囲む領域でその境界とSの交わりがn-1次元であるものがいくらでも小さくとれるときであると定義する。現象空間における図形の次元は3以下であるが,数学で考える抽象空間(位相空間)では3より大きい次元をもつ点集合,さらには無限次元の点集合がいくらでも存在する。例えばn個の実数の組(x1,x2,……,xn)を点とし,2点(x1,x2,……,xn),(y1,y2,……,yn)の間の距離が,で与えられる空間の次元はnであり,この空間の中で条件x12+x22+……+xn2=r2(rは正の定数)を満たす点(x1,x2,……,xn)全体のつくる集合の次元はn-1である。また,ヒルベルト空間は無限次元である。
執筆者:中岡 稔(2)物理学における次元 ある量を数量的に表すには適当な単位を決める必要があるが,単位の決め方には尺貫法やヤード・ポンド法のように各種の量の単位を互いに無関係に決めるやり方と,メートル法のように必要最小限の基本単位から一定の約束に基づいて次々に他の単位を決めていくやり方とがある。前者をインコヒーレントな単位系,後者をコヒーレントな単位系と呼ぶ。コヒーレントな単位系では基本単位の選び方を変えると,それに応じて他の量の単位も変わり,したがってその単位で表す同じ量の数値が変わる。例えば,速さのコヒーレントな単位はCGS単位系ではcm/s,MKS単位系ではm/sであり,100cm/s=1m/sとなる。その際,ある量の単位が基本単位のそれぞれの何乗に比例して変化するかをその量の次元と呼ぶ。例えば,上に例示した速さは,長さについて1次元,時間について-1次元,質量について0次元の量である。
二つの量の積の次元はそれぞれの量の次元の和に等しい。二つの量を加えたり引いたりできるのは次元が一致する場合に限る。この特別な場合として,ある関係を表す方程式の両辺は同じ次元をもたなくてはならない。このことを用いて未知の関係を推定する場合があり,この推定法を次元解析と呼ぶ。
執筆者:小野 健一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ディメンション、ジメンションともいう。空間内において、各点を指定するのに必要な座標の数をその空間の次元という。ユークリッドの『原本』(『ストイケイア』)では、「点とは部分をもたないものである。線とは幅のない長さである。面とは長さと幅のみをもつものである。立体とは長さと幅と高さをもつものである」と定義しているが、これが次元に関するもっとも素朴な観察であろう。長さ、幅、高さ(あるいは深さ)が次元であり、空間はこの三つの次元をもっている場所の集まりとギリシア時代には考えられていた。
この考えはガリレオによって、さらに明確に次のように述べられている。「空間の1点を通り、互いに直角に交わる直線は三つあり、4本以上の直線を直角に交わらせることはできない。よって空間の次元は3である」。
このガリレオの説を述べた『天文対話』がローマ法王の忌避に触れていた1637年に、デカルトは『方法序説および三つの試論』を発表したが、この三つの試論の一つが「幾何学」である。これは今日の解析幾何学の誕生を示すものであるが、同時に次元を確定する座標軸が空間に設定されるというアイデアを与えている。すなわち、 のように、直線上の点の位置は、基点を一つ固定する(数0を対応させる)と、実数と対応し一つの座標軸で定まる。平面上の点は縦・横の二つの座標軸をとれば、二つの実数の組み(x1, x2)と対応する。そして空間の点は三つの座標軸によって、三つの実数の組み(x1, x2, x3)で表される。よって直線は一次元、平面は二次元、空間は三次元の図形であると考えられる。すると、われわれの直観には訴えることはできないが、四つの実数の組み(x1, x2, x3, x4)の集合として四次元空間(x1、x2、x3は普通の空間の次元で、x4は時間軸であるとみて、四次元空間は物理学などでは時空間とよばれることもある)、五つの実数の組みの集合としての五次元空間、一般にn個の実数の組みの集合としてn次元空間が考えられる(1点は0次元空間とみなす)。こうした考えをさらに拡張して、今日では無限次元の空間もいろいろと考えられている。
線分や円周などの図形は直線と類似の図形であるので、これらの次元も一次元であるとみなすほうが自然である。そこで、
のような数え方で線分(1単体)を何個かその端点で接合してできる図形はすべて一次元図形であるという。この場合、線分はどのように曲がったものでもよいとする。同様に三角形(2単体)と線分とを組み合わせてできる図形は二次元図形である。ここで三角形はどのように曲がっていてもよいので、たとえば球面などは二次元図形である( )。一般にn次元以下の単体からなる多面体はn次元の図形である。図形の次元はその局所的なホモロジー群またはルベーグの敷石定理などを用いても定めることができる。われわれは三次元空間の中に生きているので、三次元空間以外の三次元図形や四次元図形などは三次元空間の中では描けないので、現物を示すことはできないが、平面の中に三次元図形の立方体を描くように、四次元の立方体を描いてみると のようになる。[野口 廣]
『田尾鶉三著『次元とはなにか』(講談社・ブルーバックス)』
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【Ⅰ】空間を構成する独立なベクトル成分の数.一次元は直線,二次元は平面,三次元は立体である.【Ⅱ】物理量はそれぞれ基本単位の組合せでつくられる単位によって表される.とくに長さL,質量M,時間Tを使って[Ll Mm Tt]のように表されることがしばしばある.たとえば,速度[LT-1],力[MLT-2]など.これらの表示を次元とよぶ.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…文学的空想における異世界alternate (other) worldと数学の次元概念dimensionとを合成した造語で,正しくは高次元的に存在可能な別世界とでもいうべきもの。近代SF文学のテーマとして盛んにとり上げられて以来,広く一般の関心を呼ぶようにもなった。われわれの空間は縦・横・高さの三次元に存在していると考えられているが,これに時間が加わって四次元の世界が存在しうると想像されており,位相幾何学的にはさらに五次元,六次元,n次元といった空間も式にすることができる。…
※「次元」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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