殿(読み)デン

デジタル大辞泉 「殿」の意味・読み・例文・類語

でん【殿】[漢字項目]

常用漢字] [音]デン(呉) テン(漢) [訓]との どの しんがり
〈デン〉
大きくりっぱな建物。「殿堂宮殿祭殿社殿主殿昇殿寝殿神殿仏殿宝殿本殿
軍隊の最後部。しんがり。「殿軍
相手に対する敬称。「貴殿
」の代用字。「沈殿
〈テン〉1に同じ。「殿上てんじょう御殿
〈との(どの)〉「殿方殿様高殿若殿
[名のり]あと・すえ

との【殿】

貴人の住む大きな邸宅。やかた。ごてん。
「―より人なむ参りたる」〈大和・一七一〉
《邸宅に住む人をさしていう》
㋐貴人に対する敬称。
「―は、今こそいでさせ給ひけれ」〈・少女〉
摂政関白に対する敬称。
さきの―の御女むすめ」〈増鏡・藤衣〉
主君に対する敬称。
「―は智者にてわたらせ給へば」〈仮・伊曽保・上〉
中世、妻の夫に対する敬称。
「―はおなじ心にもおぼさぬにや、とて」〈宇治拾遺・六〉
女から男をさしていう敬称。殿御とのご。殿方。
「起上り小法師、やよ、―だに見ればつい転ぶ」〈虎明狂・二人大名
[補説]現代でも地位の高い人や主人にあたる人をさして呼ぶことがある。
[類語]領主藩主藩侯城主殿様諸侯大名小名

しん‐がり【殿】

《「しりがり(後駆)」の音変化》
退却する軍列の最後尾にあって、敵の追撃を防ぐこと。また、その部隊。「隊の殿をつとめる」
隊列や順番などの最後。最後尾。「殿に控える」
[類語]びりどんじりどんけつびりっけつ最後しりけつ最後尾末尾

どの【殿】

[接尾]
氏名・役職名などに付けて、敬意を表す。古くは、「関白殿」「清盛入道殿」など、かなり身分の高い人にも用いた。現代では、公用の文書や手紙などに多く用いる。
地名などに付いて、そこにある邸宅に対する敬称として用いる。間接的にはその邸宅に住む人への敬称としても用いる。
六条―はさくらの唐の綺の御直衣」〈・行幸〉
[類語]さん

あら‐か【殿/舎】

《「」の意》御殿。宮殿。
出雲国多芸志たぎしの小浜に、あめの御―をつくりて」〈・上〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「殿」の意味・読み・例文・類語

との【殿】

  1. 〘 名詞 〙
  2. [ 一 ] 建物。
    1. 身分の高い人の住む大きな邸宅。また、宮殿、社殿あるいは役所など公の建物。
      1. [初出の実例]「味酒(うまざけ) 三輪の等能(トノ)の 朝戸にも 出でて行かな 三輪の殿戸を」(出典:日本書紀(720)崇神八年四月・歌謡)
      2. 「里の殿は、〈略〉二なう改め造らせ給ふ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
    2. 建物としての邸宅と、そこに住む貴人をふくめていう。
      1. [初出の実例]「都武賀(つむが)野に鈴が音聞こゆ上志太の等能(トノ)の仲郎(なかち)し鳥猟(とがり)すらしも」(出典:万葉集(8C後)一四・三四三八)
  3. [ 二 ] 邸宅の意から、その邸宅に住む人をさしていう。
    1. 一般に、身分の高い人を尊んでいうのに用いる。
      1. [初出の実例]「外(ほか)よりきたる者などぞ、とのはなににかならせ給ひたる、などとふに」(出典:枕草子(10C終)二五)
    2. 中古には、特に摂政・関白の地位にある人の敬称として用いる。
      1. [初出の実例]「との・上、暁に一つ御車にてまゐり給ひにけり」(出典:枕草子(10C終)一〇四)
    3. 中世以降、主君、主人をさしていう。
      1. [初出の実例]「殿を見捨てて家安が生き残りては何にかせん」(出典:源平盛衰記(14C前)二〇)
    4. 妻から夫をさしていう敬称。
      1. [初出の実例]「あまりに恋しくかなしくおぼえて、殿は同じ心にもおぼさぬにや、とてさめざめと泣く」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)六)
    5. 女から男をさしていう。やや敬っていういい方。とのご。
      1. [初出の実例]「京に京にはやるおきゃがりこぼしやよ、とのだに見ればつひころぶ」(出典:虎明本狂言・二人大名(室町末‐近世初))

しん‐がり【殿】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「後駆(しりがり)」の変化した語 )
  2. 軍が退却するとき、軍列の最後にあって敵の追撃に備えること。また、その軍隊。あとぞなえ。しっぱらい
    1. [初出の実例]「景春を退治すべしとて、太田道真を殿(しんがり)にて利根川をわたり」(出典:鎌倉大草紙(16C中か))
    2. 「野風(のかぜ)陣没(うちじに)して活路(みち)を開く八代(やつしろ)殿戦(シンガリ)して飛矢(ながれや)に当る」(出典:読本・椿説弓張月(1807‐11)前)
  3. 隊列・序列・順番などの最後につくこと。また、そのもの。最後尾。いちばんあと。最下位。しっぱらい。
    1. [初出の実例]「下男の儀助は正直に殿(シンガリ)をして、〈略〉のっそり附いて来る」(出典:はやり唄(1902)〈小杉天外〉三)

どの【殿】

  1. 〘 接尾語 〙 ( 名詞「との(殿)」が接尾語化したもの )
  2. 地名などに付いて、そこにある邸宅に対する尊称として用いる。間接的にその邸宅に住む人を表わす場合もある。古くは「でん」と字音で読まれたともいう。
    1. [初出の実例]「六条どのはさくらのからのきの御直衣、いまやういろの御ぞひきかさねて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)行幸)
  3. 人名官職名などに付けて、敬意を表わす。古くは、「関白殿」「清盛入道殿」などかなり身分の高い人に付けても用いたが、現代では、官庁など公の場で用いるほか、書面などでの形式的なもの、または下位の者への軽い敬称としても用いる。
    1. [初出の実例]「誠楽に右大臣殿のきたのかたもわたり給へり」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜上)

殿の語誌

官職名を持つ人物に対して、その官職名に付けたが、鎌倉末期には官職のない人物に対して、人名に付ける用法も起こり、「殿」の敬意は低下した。そして「殿」に代わって十分な敬意を表わせる「様」の使用が盛んになる。


でん【殿】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「てん」とも。「でん」は呉音、「てん」は漢音 )
  2. 貴人の邸宅または社寺などの建物。たかどの。
    1. [初出の実例]「小野宮殿為尊者。殿きたなげ也」(出典:古事談(1212‐15頃)二)
    2. [その他の文献]〔漢書‐賈山伝〕
  3. 律令制で、官人の考課(勤務成績評価)の等級(九等考第)を決定する場合の要素の一つ。評価を低くする要素。官人が公罪、私罪を犯して贖銅(しょくどう)で罪を償う場合、私罪は贖銅一斤、公罪は贖銅二斤を一負とし、十負を一殿とする。一殿につき考第を一等ずつ下げる規定であった。〔令義解(718)〕

あら‐か【殿】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「在処(あらか)」の意。「御(み)」を伴って用いられることが多い ) 宮殿。居所。→みあらか
    1. [初出の実例]「端殿 古語にはみづのみ阿良可(アラカ)といふ」(出典:古語拾遺(嘉祿本訓)(807))

殿の語誌

古く神、天皇の宮殿、居所をいい、挙例のように、当時すでに古語となっており、以後文献には、「日本書紀」の古訓にミヤラカなどと見えるぐらいである。また、元来は瑞(みづ)のあらわれるところ「顕処(あらか)」の意と考える説もある。

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世界大百科事典(旧版)内の殿の言及

【合戦】より

…その編成表が分限帳(ぶげんちよう)であるが,それによれば大名の軍隊は,家老を大将とするほぼ1万石程度の戦闘単位である備(そなえ)によって構成され,大名自身も旗本備または本陣と呼ばれる直属の戦闘単位を率いた。各備は先備(さきぞなえ)・二の備・本陣・殿(しんがり)のように合戦における役割によって配列され,本陣からの命令は使番(つかいばん)によって伝達され,その実行が監察された。備の内部は押(おし)(行軍)の順序に従って編成され,先頭には大型の旗数本を持つ旗指(はたさし)の集団が配置され,旗奉行が統率する。…

※「殿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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