比喩(読み)ヒユ

デジタル大辞泉 「比喩」の意味・読み・例文・類語

ひ‐ゆ【比喩/×譬喩】

ある物事を、類似または関係する他の物事を借りて表現すること。たとえ。→比喩法
[類語]たとえ形容擬人象徴比況縮図たとえば直喩明喩隠喩暗喩諷喩寓喩提喩換喩・声喩・メタファーアレゴリー

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「比喩」の意味・わかりやすい解説

比喩
ひゆ

いいたい事柄を何かに例えることによって、効果を期待する表現方法。たとえば、「花咲き匂(にお)うような人生」(堀辰雄(たつお)『風立ちぬ』)というような表現である。

 比喩は、(1)例える事柄と(2)例えられる事柄と(3)例える行為との三者から成り立つ。これら三者が、どの程度ことばとして示されるかによって、直喩・隠喩・諷喩(ふうゆ)の3種に区別できる。

 直喩は、「(1)星ばかり映して居る深山の湖(3)のような(2)」(岡本かの子『春』)にみるように、(1)(2)(3)の三者がすべて言語化している場合である。(3)の例える行為は、「のような」という、たとえであることを示すことばとなって言語化されている。このように、たとえであることが、ことばによって明らかに示されているので、明喩(めいゆ)ともいう。もっともわかりやすい比喩である。

 隠喩は、「(2)彼女の眼は、(1)夕闇波間に浮ぶ、妖しく美しい夜光虫だった。」(川端康成(やすなり)『雪国』)にみるように、(1)(2)だけが言語化され、(3)のたとえであることを示す語句が隠されてしまう場合である。暗喩ともいう。(3)が言語化されないので、(1)たとえと(2)例えられるものとが直結し、写真の二重写しのような重層効果をあげる。

 諷喩は、「(1)井の中の蛙(かわず)大海を知らず」のごとく、(1)の例える事柄しか言語化されない場合である。(2)の例えられている事柄が、裏面に隠されているので、教訓風刺に用いると、相手の耳に入りやすくなり、効果的である。寓喩(ぐうゆ)ともいう。『イソップ物語』などの作品は、人間の世界を動物の世界にそっくり置き換え、真にいいたいことを隠し、さらに、たとえであることもまったく示さないので、長大な諷喩である。

 比喩は、古今東西を問わず、また韻文・散文の違いや文学ジャンルの違いなどにかかわりなく、広く一般的に用いられる表現方法である。比喩を用いると、表現したい事柄を、具体的なイメージを伴って、生き生きと描き出すことができる。

[山口仲美]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「比喩」の意味・わかりやすい解説

比喩【ひゆ】

〈譬喩〉とも書き,単に〈喩〉ともいう。なぞらえ,見立て,喩えを用いる言語表現の総称で,西洋レトリック用語の〈転義trope〉ないし〈転形scheme〉にほぼ相当する。すなわち,〈ある事物に対し別の事物の名称を与えること〉(アリストテレス)。以下のような種類がある。1.直喩(シミリsimile) 二つの事物の類似性の明示的な表現。〈カモシカのような脚〉。2.隠喩(暗喩,メタファーmetaphor) 二つの事物の類似性の暗示的な表現。〈言葉の錬金術〉。3.換喩(メトニミーmetonymy) 〈舌〉で雄弁を表すなど,ある事物の隣接する別語による表現。4.提喩(シネクドキsynecdoche) 〈帆〉で船を表すなど,部分をもって全体を,種をもって類(あるいはこの逆)を示す表現。5.諷喩(アレゴリーallegory) 隠喩の連続による表現で,ことわざに多用される。〈時は金なり〉。→レトリック

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典 第2版 「比喩」の意味・わかりやすい解説

ひゆ【比喩】

あるものごとを別のものごとに見立て,なぞらえる表現。〈比喩〉という用語は,同音語〈譬喩〉や,あるいはたんに〈喩〉という語と同義にもちいられるばあいが多い。
[レトリックとの関係]
 ヨーロッパの伝統レトリックにおいては,言語表現の技術をあつかう(狭義の)修辞部門のなかに,おびただしい種類の〈ことばのあやfigure of speech〉が分類されていた。〈あや〉とは,平常の表現とは異なって目立つ表現形式のことであり,たとえば,文型のあやとしての語句挿入,省略,転置,反復など,思考のあやとしての緩叙,対比,擬人など,100を越える型が技法として説明されていた。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「比喩」の意味・わかりやすい解説

比喩
ひゆ

譬喩とも書く。文学的な表現において,心象 imageを利用して,説明,記述をわかりやすくし,強調や誇張の効果をあげるために,類似した例や形容で表現すること。直喩 simile,隠喩 metaphor,換喩 metonymy,提喩 synecdoche,奇想 conceitなどに分けられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

普及版 字通 「比喩」の読み・字形・画数・意味

【比喩】ひゆ

たとえ。

字通「比」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

今日のキーワード

インボイス

送り状。船荷証券,海上保険証券などとともに重要な船積み書類の一つで,売買契約の条件を履行したことを売主が買主に証明した書類。取引貨物の明細書ならびに計算書で,手形金額,保険価額算定の基礎となり,輸入貨...

インボイスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android