比興(読み)ヒキョウ

デジタル大辞泉 「比興」の意味・読み・例文・類語

ひ‐きょう【比興】

[名・形動ナリ]
他の物にたとえて、おもしろく言うこと。転じて、おもしろく興あること。また、そのさま。
「後ろは前に、前は後ろにかはらぬか、と言ひける。さる事やは侍るべき。―の事なり」〈著聞集・一六〉
《「ひきょ(非拠)」の変化した語。一説に「ひきょう(非興)」の意とも》
㋐不都合なこと。不合理なこと。また、そのさま。
「心が本と心得て、強く下種げすしくするもまた―なり」〈十問最秘抄〉
㋑いやしいこと。つまらないこと。また、そのさま。
「―な花なりとも」〈中華若木詩抄・下〉
㋒臆病なこと。卑怯なこと。また、そのさま。
「やあ、―なり松右衛門」〈浄・盛衰記

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精選版 日本国語大辞典 「比興」の意味・読み・例文・類語

ひ‐きょう【比興】

  1. 〘 名詞 〙 ( 形動 )
  2. [ 一 ] ( ━する ) 詩経の六義(りくぎ)の比(ひ)と興(きょう)の修辞法。物にたとえて、おもしろく言うこと。転じて、おもしろいこと。興あること。また、そのさま。〔性霊集‐序(835頃)〕
    1. [初出の実例]「下野敦末、競馬をつかうまつりけるが、十度むなばせをしたりけるを、経信大納言見られて、不幸の物の十列歟といはれたりける、比興の事也けり」(出典:古今著聞集(1254)一六)
  3. [ 二 ] ( 「ひきょ(非拠)」の変化した語。一説に「ひきょう(非興)」とも )
    1. 非理。不合理。また、不都合なこと。
      1. [初出の実例]「あまりに供米不法に候て、実の物は入候はで、糟糠のみ入てかろく候故に、辻風に吹上られしを、〈略〉比興の事なりとて、それより供米の沙汰きびしくなりて」(出典:古今著聞集(1254)一一)
    2. いやしいこと。つまらないこと。とるに足りないこと。そまつなこと。また、そのさま。
      1. [初出の実例]「只当世様。以珍躰風情。以淳朴比興之義」(出典異制庭訓往来(14C中))
      2. 「かかる比興なる者を称挙して其任に、不称者をは、挙たる人を罰せんなり」(出典:史記抄(1477)一五)
    3. あさましいこと。みっともないこと。また、そのさま。
      1. [初出の実例]「武士の人は、〈略〉臭きもひけふ也」(出典:今川大双紙(15C前)躾式法事)
    4. ひきょう(卑怯)
      1. [初出の実例]「ヤア比興(ヒケウ)なり松右ヱ門」(出典:浄瑠璃・平仮名盛衰記(1739)三)

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普及版 字通 「比興」の読み・字形・画数・意味

【比興】ひきよう

詩の六義のうち、賦・比・興はその発想表現をいう。賦は平叙、比は比喩、興は主題に呪的にかかわる発想法。〔文心雕竜、比興〕比は附なり。興はなり。理に附くは、切以て指事し、は、依(いび)以て擬議す。

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