精選版 日本国語大辞典 「気色」の意味・読み・例文・類語
き‐しょく【気色】
〘名〙
① 物の外面の様子。有様。物の姿。
※菅家文草(900頃)一・翫秋花「馨香畏レ減凄凉雨、気色嫌レ傷晩暮風」
② 風や雲のたたずまいにあらわれた前兆。風や雲の動きに見える物のきざし。
③ 顔面にあらわれた表情。顔色。
※太平記(14C後)一三「藪に捨てたる御頸を取挙げたるに〈略〉只元の気色(キショク)に見えさせ給へば」
※阿部一族(1913)〈森鴎外〉「長十郎の顔は晴晴した気色(キショク)になった」
④ ひとに対する態度。
※曾我物語(南北朝頃)一〇「事とも思はざるきしょくして、御つぼの内へぞ引入れられける」
⑤ (━する) 様子をつくろうこと。改まった顔つきをすること。また、その様子や顔つき。
※陽明文庫本平治(1220頃か)上「光頼卿笏取直し、気色(キショク)して」
[二] 表にあらわれた心の内面の様子、有様。きそく。
※浄瑠璃・用明天皇職人鑑(1705)一「王子大きに気色(キショク)をそんじ」
※高野本平家(13C前)二「さるにてもこれへと御気色(キショク)有ければ、参られたり」
③ 他人(多く目下のもの)に対する気分。特に「御気色」の形で、気持を受ける側から、おぼえ、寵愛(ちょうあい)の意。
※高野本平家(13C前)八「木曾左馬頭、院の御気色(ごキショク)悪うなると聞えしかば」
④ (━する) 怒りや不快などの強い感情をおもてに表わすこと。また、その心。憤慨。怒気。
※御伽草子・熊野の本地(室町末)「后たちにくはしく申しければ、ともかくも御返事もなかりけり。御首をも参らせ給はず。みかど大きに御きしょくありて」
⑤ 病気など、身体的不調によって乱された気分。また、気分のすぐれないこと。きそく。やまい。病気。
※虎寛本狂言・武悪(室町末‐近世初)「気色も段々に快う御ざるに依て」
⑥ (━する) 合図すること。自分の意志を人に伝えること。
※醍醐寺新要録(1620)「文安五年〈略〉令三承仕燃二指燭一之後、向二供僧一、気色ス」
け‐しき【気色】
〘名〙
[一] 物の外面の様子、有様。また、外見から受ける感じ。
① 自然界の有様。目にうつる情景から感じられるけはい。物の様子。
※続日本紀‐養老五年(721)二月甲午「亦猶風雲気色。有レ違二于常一」
※枕(10C終)三「正月一日は、まいて空のけしきもうらうらと、めづらしうかすみこめたるに」
② 顔にあらわれた表情。顔色。顔つき。また、人の容姿、態度、そぶりなどについてもいう。
※竹取(9C末‐10C初)「かくや姫のある所に至りて見れば、猶物思へるけしきなり」
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「悲しうあはれにおぼさるれど、けしきにも出だし給はず」
※俳諧・犬子集(1633)一一「敵よりも猶こはき女房 うはなりのいかり来にける其気色〈由己〉」
③ 物事があらわれるけはい。きざし。兆候。特に出産の兆候をいうことが多い。
※宇津保(970‐999頃)国譲中「いとたひらかに、男みこむまれ給へり。けしきもなくておはしつるほどにむまれ給へり」
④ すこしであるさま。わずかであるさま。いささか。→気色ばかり。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「かの君もいといたくおぢ憚りて、『けしきにても、漏り聞かせ給ふ事あらば』と、かしこまり聞こえ給ひし物を」
⑤ いっぷう変わった趣。興味をそそるようなさま。風流なさま。また、風流心。通常、「けしきあり」の形で使われる。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「一院の上はけしきおはする御心にて」
⑥ あやしげな様子。ぶきみな感じのするさま。通常、「けしきあり」の形で使われる。
[二] 外から観察することのできる、心の内面の様子、有様。
① 外からうかがうことのできる、感情の起伏。きげん。気分。
※伊勢物語(10C前)六三「三郎なりける子なん、『よき御男ぞいでこむ』とあはするに、この女、けしきいとよし」
② 心中にいだく考えを内々に示すこと。また、その考え。意中。意向。
※平中(965頃)二七「ものいひつくべきたよりなかりければ、『いかなるたよりして、気色みせむ』と思ひて」
③ 特別に目をかけること。寵愛。おぼえ。
※落窪(10C後)四「げに少し物しと思へれど、親の御けしき得給ふ人の御有様、いふべきにあらねば、うちも出でず」
[補注]中古以前の漢文体の資料はどう読んでいたか明らかではないが「続日本紀」の例は参考のため、「きしょく」の項と重複してあげた。→きしょく。
[語誌](1)「気色」の呉音読みによる語。和文中では、はやく平安初期から用いられているが、自然界の有様や人の様子や気持を表わす語として和語化していった。
(2)鎌倉時代以降、人の気分や気持を表わす意は漢音読みの「きそく」「きしょく」に譲り、「けしき」は現在のようにもっぱら自然界の様子を表わすようになった。それによって表記も近世になって「景色」があてられるようになる。→けしき(景色)
(2)鎌倉時代以降、人の気分や気持を表わす意は漢音読みの「きそく」「きしょく」に譲り、「けしき」は現在のようにもっぱら自然界の様子を表わすようになった。それによって表記も近世になって「景色」があてられるようになる。→けしき(景色)
き‐そく【気色】
〘名〙
① (━する) 外面に現われた様子。また、様子をつくろうこと。きしょく。
※大鏡(12C前)三「心のままに、〈略〉きらめきあへりしきそくどもなど」
※平家(13C前)二「中門の廊へぞ出られける。そのきそくおほかたゆゆしうぞみえし」
※浮世草子・新竹斎(1687)二「いかめしくきそくし胸(むな)いたをおしなで声作(こはづくり)してひかゆるに」
② 心の状態。気分。機嫌。きしょく。
※狭衣物語(1069‐77頃か)一「御きそくよろしからねば」
③ 他に対する気持や意向、要望。内意。きしょく。
※大鏡(12C前)四「御前にまいり給て、御きそくたまはり給ければ」
④ 気分のすぐれないこと。病気。きしょく。
[語誌]漢語「気色」の漢音読み「きしょく」が直音化したもの。同様に「気色」から派生した「けしき」が平安初期から自然と人間の両方にわたって広く用いられたのに対し、「きそく」は平安中期を過ぎて、特に心内の気分や意向として用いられたが、鎌倉時代以降「きしょく」が一般化するにつれて衰えた。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報