精選版 日本国語大辞典 「気象学」の意味・読み・例文・類語
きしょう‐がく キシャウ‥【気象学】
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大気をはじめとする気象現象を対象とした科学。その技術的応用としては天気予報などがあげられる。大気としてはいままで地球の大気だけが考えられていたが、1970年代以降、惑星の探索が進むにつれ太陽系内の諸惑星の大気も対象として取り上げられるようになり、惑星気象学という新しい気象学の分野も開けてきている。
気象学は天空の事象を対象とするが、天文学とは異なり、独自の方法に従って研究が進んだのは19世紀の中ごろからである。もちろんそれまでにアリストテレスやデカルトの気象学はあったが、その内容は、大気中の諸現象を物理的に説明したり、諸地域の風土、気候を記述し、その原因を探ることであって、一部は物理学、他の一部は地理学に属していたのである。また諸民族は、天気変化のさまざまなタイプや前兆を経験としてもっていたのであり、それらは気象学の一素材として天気俚諺(りげん)などに要約されて伝承されたが、それらは気象学の出発点ではあっても、それだけではとうてい科学とはいえぬものである。
気象学は19世紀のなかばごろ、気象の特徴を反映して、独自の方法をもって成長するが、それは総観法synoptic methodといわれる方法である。これを比喩(ひゆ)的にいえば、動的過程を映画の手法を用いて描き出す方法である。日ごろ見慣れた天気図1枚はフィルム1枚に相当するものであり、時間的に連続した天気図のシリーズは映画のフィルムに相当する。気象学では、このようにして描き出された大気の動態の構造を明らかにしてゆくのである。
このようにして映し出される大気現象にはさまざまなスケールがあり、中緯度地方の上空にみられる偏西風のように全地球的(グローバル)なものから、さらに規模が小さく日常天気図で見慣れた低気圧・高気圧などの気圧配置、さらにこの気圧配置のなかに存在する小さなスケールの中規模(メソスケール)擾乱(じょうらん)(たとえば集中豪雨など)、さらに規模が小さく、海浜近くで発達する海陸風、山地でみられる山谷風(やまたにかぜ)があり、積雲対流はさらに小規模な現象とみられる。接地層内では多数の渦動を含む小規模な流れがあり、人間の環境としては畑地内の冷気流や室内の対流が小規模ながら、人間の生活と関連し重要である。
これらの諸スケールの現象は、それぞれの世界で卓越する力やエネルギーが異なっており、そのためスケールの違いは単に大きさの違いだけではなしに、各スケールに応じ運動の様式まで違ってくる。たとえば偏西風においては、風は気圧傾度の方向と直角の方向に吹いているが、海陸風の場合はほとんど気圧傾度と同じ方向に吹いているのであり、風向が90度も違っているのである。
[根本順吉・青木 孝]
近代気象学の特徴を、天気図などを用いて大気の構造を明らかにする総観法と考えるとき、最初にヨーロッパの局地的天気図を描き、気圧配置と天気の関係を明らかにしたのはドイツの天文学者ブランデスで、1820年のことであった。その後通信の発達により日々の天気図が刊行されるようになったが、日刊の天気図を最初に刊行したのはフランスであり、この仕事に尽力したのはパリ天文台長のルベリエで、それは1863年からのことであった。大気の構造としては、その後20世紀の初め1902年にフランスのテースラン・ド・ボールおよびドイツのアスマンによって成層圏が独自に発見された。
また、日々の天気変化に深く関係した、前線を伴う温帯性低気圧の構造を明らかにしたのはJ・ビャークネスで、1919年のことである。全地球的な規模での偏西風の波動、およびそのなかの最強風軸であるジェット気流と前線などに関連した構造を明らかにしたのは、1940年代のロスビー、パルメンなどの学者である。
その後の気象学の発展をもたらしたのはリモート・センシング(遠隔測定)とコンピュータである。レーダーや気象衛星といったリモート・センシングによって時間的に、また空間的に詳細な観測データが得られるようになった。コンピュータは数値予報を実現させて天気予報の精度を向上させるとともに、シミュレーションという気象の物理的解明の手段を可能にさせた。
低気圧の発達理論を確立して数値予報の成功に貢献したチャーニーの名前は忘れることができない。日本の学者では、シカゴ大学教授、同大学強風研究室室長などを歴任した藤田哲也(1920―1998)の業績が、世界的に高く評価されている。藤田は、詳細な観測データの解析から雷雲、竜巻などの中規模擾乱の構造を明らかにした。
[根本順吉・青木 孝]
気象学は大別して純正気象学と応用気象学に分けられる。純正気象学のなかには気象力学、気象熱力学、気象放射学、気象光学、気象電気学、気象音響学、高層気象学、総観気象学、大気化学(化学気象学)、気象観測学があり、大気の平均的な状態が対象となる場合は気候学がある。また、観測手段の発展に伴ってレーダー気象学、衛星気象学などが生まれ、また天文学と相交錯する分野としては惑星大気気象学が発展してきた。応用気象学として取り上げられる対象はきわめて多いが、実用上から開発が進んでいる分野としては航空気象学、農業気象学、海洋気象学、水理気象学、生気象学、気象災害論などが重要な部門である。
[根本順吉・青木 孝]
『岡田武松著『気象学』(1934・岩波書店)』▽『斎藤錬一著『気象の教室』(1968・東京堂出版)』▽『根本順吉ほか著『気象』(1979・共立出版)』▽『松本誠一著『新総観気象学』(1987・東京堂出版)』▽『高橋浩一郎ほか著『気象学百年史――気象学の近代史を探究する』(1987・東京堂出版)』▽『菊地勝弘ほか著『実験気象学入門』(1988・東京堂出版)』▽『坪井八十二編『農業気象学』(1990・養賢堂)』▽『真木太一ほか編著『農業気象災害と対策』(1991・養賢堂)』▽『廣田勇著『グローバル気象学』(1992・東京大学出版会)』▽『時岡達志ほか著『気象の数値シミュレーション』(1993・東京大学出版会)』▽『福地章著『海洋気象講座』(1994・成山堂書店)』▽『ウィリアム・アスプレイ著、杉山滋郎・吉田晴代訳『ノイマンとコンピュータの起源』(1995・産業図書)』▽『トマス・レヴェンソン著、原田朗訳『新しい気候の科学』(1995・晶文社)』▽『浅井冨雄著『ローカル気象学』(1996・東京大学出版会)』▽『竹内清秀著『気象の教室4 風の気象学』(1997・東京大学出版会)』▽『福谷恒男著『海洋気象のABC』(1997・成山堂書店)』▽『小倉義光著『メソ気象の基礎理論』(1997・東京大学出版会)』▽『日本気象学会編『新 教養の気象学』(1998・朝倉書店)』▽『二宮洸三著『気象予報の物理学』(1998・オーム社)』▽『小倉義光著『一般気象学』(1999・東京大学出版会)』▽『廣田勇著『気象解析学――観測データの表現論』(1999・東京大学出版会)』▽『二宮洸三著『気象と地球の環境科学』(1999・オーム社)』▽『木村龍治編、柴田清孝著『応用気象学シリーズ1 光の気象学』(1999・朝倉書店)』▽『木村龍治編、水野量著『応用気象学シリーズ3 雨と雲の気象学』(2000・朝倉書店)』▽『Z・ソルビアン著、高橋庸哉・坪田幸政訳『ワクワク実験気象学――地球大気環境入門』(2000・丸善)』▽『浅井冨雄ほか著『基礎気象学』(2000・朝倉書店)』▽『エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ著、稲垣文雄訳『気候の歴史』(2000・藤原書店)』▽『道本光一郎著『決定版 1億人の気象学入門』(2000・三天書房)』▽『小倉義光著『総観気象学入門』(2000・東京大学出版会)』▽『近藤純正著『地表面に近い大気の科学――理解と応用』(2000・東京大学出版会)』▽『松田佳久著『惑星気象学』(2000・東京大学出版会)』▽『福谷恒男著『海洋気象のABC』(2002・成山堂書店)』▽『橋本梅治・鈴木義男著『新しい航空気象』(2003・クライム気象図書出版部)』▽『光藤高明著『日本の猛暑はどこから来るか――非地衡風による気象学』(2003・新風舎)』▽『保坂直紀著『謎解き・海洋と大気の物理――地球規模でおきる「流れ」のしくみ』(2003・講談社)』▽『田中博著『偏西風の気象学』(2007・成山堂書店)』▽『木村龍治・新野宏著『身近な気象学』(2010・放送大学教育振興会)』
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出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
…地球を物理学的方法によって研究する地球科学の一分野。固体としての地球(岩石圏)を取り扱う測地学,地震学,火山学,地磁気学などと,地球表面あるいは近傍の水圏および気圏を取り扱う海洋学,気象学,陸水学,超高層物理学などの2大分野に大別される。測地学は地球の形,大きさ,内部構造などを測地観測の結果をもとに議論し,また地殻の変動を議論する。…
※「気象学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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少子化とは、出生率の低下に伴って、将来の人口が長期的に減少する現象をさす。日本の出生率は、第二次世界大戦後、継続的に低下し、すでに先進国のうちでも低い水準となっている。出生率の低下は、直接には人々の意...
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