特殊小作慣行の一つで,永代小作,永世小作,永久小作などともよばれる。その主要な特徴は,小作期間が無期限もしくはきわめて長期であること,地主は小作人側に特別の不都合がないかぎりその土地を引き上げることができないこと,小作人はその権利を他人に売買譲渡できること,小作料が一般に低額であること,その土地への公租公課を小作人が負担する場合もあることなどであり,永小作権は普通小作権に比べて強固であった。その成立原因は多岐にわたるが,そのおもなものとして,開墾や新田開発に際して小作人の労費が投下された場合,土地改良が小作人の労費によって行われた場合,所有権の移転の際に設定された場合,永年にわたって継続された小作が永小作として認定された場合,地主と小作人の特別な関係に基づく場合などがあげられる。この永小作地は,近世を通じてかなり広範に存在し,明治維新当時,全国小作地の2割前後を占めていたとも推定されている。
明治政府は,地租改正以降,この永小作を整理する方針をとった。とくに1898年施行の民法は,小作期間を20年以上50年以下に制限し,民法施行前に設定された50年以上のものについては,有効としながらも,民法施行の日より起算して50年を超える場合は同日より50年に短縮するとした(民法278条1項)。なお20年未満のものは通常の賃貸借によるものとされ,また地主は一般に小作人が強い権利をもつことを欲しなかったため,農地の小作は賃貸借が圧倒的に多くを占めた。こうした整理方針の結果,永小作地は減少にむかったが,他方では,慣行を無視したこの整理をめぐって,種々の紛議,反対運動が各地で引き起こされた。第1次大戦後以降,この問題の解決をめぐって政府部内でも検討が続けられたが,結論の出ないまま推移して,民法施行の日から起算して50年にあたる1947年7月15日を迎えた。これに対し翌48年6月に至って法改正が行われ,この問題は,進行中の農地改革に組み込まれることとなり,永小作地が認定解放の対象となることで最終的に決着した。
執筆者:近藤 哲生+中尾 英俊
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主に江戸時代における小作慣行(かんこう)の一つ。永代小作(えいたいこさく)、永代卸(おろし)、永久小作、永世小作(えいせいこさく)、定卸(じょうおろし)などともいう。小作側が地主の土地処分権にも匹敵するような権限を有して、年季を区切らず数十年あるいは累代にわたり請作(うけさく)を行っている形態。小作側に小作料滞納などの特別な事由が出来(しゅったい)しない限り地主が小作関係を解消することは許されず、一般に権利の売買や譲渡も認められていた。小作料は質地小作や近代の普通小作の場合よりもはるかに低率で、一定の得分としてそれを地主側に渡すことを条件に、小作地賄いの全過程が小作側に任されていた。名田(みょうでん)作関係の永続や新田開発時における地主・作人(さくにん)関係の定立などが当該慣行成立の理由として考えられる。近代以降、土地所持権の一元化政策、すなわち地主的土地所有の一方的認定のなかで廃絶させられていく。
[大塚英二]
『小野武夫著『永小作論』(1924・巌松堂出版)』▽『丹羽邦男著『形成期の明治地主制』(1964・塙書房)』▽『大塚英二著「近世期の散田と散田米について」(『名古屋大学古川総合研究資料館報告 9』)』
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永代小作・永代卸・定卸とも。江戸時代から行われた小作形態の一つ。期限を定めず,20カ年以上の長期にわたる小作関係をいい,一般の小作と区別された。小作期間が長期であること,小作料が低いこと,地主が変わっても小作関係に変更がないこと,小作地の改良・修繕を小作人が行うこと,小作人が貢租・諸負担を負担すること,小作権の売買などが行われたこと,小作料の減免がないこと,など小作人の権利が強いのが特徴。明治政府は,地主に地券を公布し,永小作を廃絶する方向をとった。
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…小作人の名称については作人,作子,門百姓,被官,名子などがあり,小作料は掟米,下作米,加地子,余米,入上米,小作奉公などとも呼ばれた。近世の小作制度に関しては,《地方凡例録》では直(じき)小作・別小作・永(えい)小作・名田(みようでん)小作・家守小作・入小作の6種類をあげている。また,小野武夫は近世の多様な小作慣行の存在を指摘し,小作地・小作人・小作料・小作期限という四つの指標にもとづいて31種類に整理し,小作形態を小作地の物権的特質から名田小作と質地小作に大別し,さらに名田小作を普通小作と永小作に,質地小作を直小作と別小作にそれぞれ分類している。…
※「永小作」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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