改訂新版 世界大百科事典 「法律回避」の意味・わかりやすい解説
法律回避 (ほうりつかいひ)
国際私法は,例えば日本の法例のように,当事者の国籍を連結点として本国法を身分的法律関係に適用したり,物が所在する場所を連結点として,所在地法を物権的法律関係に適用したりする。このように,問題の法律関係に適用される法(準拠法)は,国籍とか物の所在地というような連結点によって決まるので,連結点を変更すれば準拠法を変えることができることになる。そのため,例えば,離婚を禁止されている国の国民である夫婦が離婚を望んだ場合には,離婚準拠法を本国法と定めていて,かつ離婚を容易に認める国に帰化することによってその目的を達することができる。このように,本来適用されるべき法の適用を免れ自己に有利な法の適用を得るために,連結点を故意に変更することを,国際私法上の法律(の)回避,または連結点の詐欺的変更という。
法律回避の目的をもって連結点が変更された場合に,その変更を有効なものと認めるべきか無効なものとすべきかについて諸国の態度は分かれている。フランスの判例は,無効とする立場に立つのに対し,ドイツやイギリス,アメリカでは有効とする傾向が強い。日本では,判例上,法律回避を問題とした事例はなく,学説上も有効論が支配的である。その理由としては,行為地法に従った方式を有効と認めながらも,日本法を回避する目的で行為地を変更した場合には無効であると定めていた旧法例10条但書が現行法例8条(旧法例10条に該当)では削除されていること,法律回避の意図を確認することが困難であること,当事者の内心の動機の善悪によって準拠法の決定が左右されることは,法的安定性の見地から望ましくないことなどが挙げられている。この有効論に対しては,法律回避は,各法律関係と最も密接な関係にたつ法の適用を連結点をとおして行おうとしている国際私法の目的を無にするものであるから,これを放任することは許されないと主張する説もあるが,少数である。
執筆者:鳥居 淳子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報