泥炭層遺跡(読み)でいたんそういせき

改訂新版 世界大百科事典 「泥炭層遺跡」の意味・わかりやすい解説

泥炭層遺跡 (でいたんそういせき)

植物遺体を多量に含む粘土,砂からなる遺物包含層を,日本考古学では,〈泥炭層〉あるいは特殊泥炭層などとよび,その遺跡を泥炭層遺跡あるいは低湿地遺跡とよんでいる。しかし,本来泥炭とは,植物遺体で構成されており,乾燥すればひじょうに軽くなり,かつ燃料となるものであるから,粘土・砂を多く含む遺物包含層をこの名でよぶことは不適当である。このような理由から,最近では那須孝悌,市原寿文が,従来の〈泥炭層〉に代わって低湿地遺物包含層という名称を使い,その遺跡を低湿地性遺跡とよぶべきことを提唱している。この種遺跡の本体,すなわち住居など生活の場は,平野盆地の低湿地に接する台地末端や微高地上に立地し,その一部が低湿地に及んでいる。青森県亀ヶ岡・是川(これかわ),埼玉県真福寺などの縄文後・晩期の遺跡は,この種の遺跡として代表的なものである。またヨーロッパの低湿地性遺跡としては,デンマークの新石器時代~青銅器時代にかけてのものが名高く,衣服をまとったままの女性の遺体の発見例(ユトランド半島東部のエグトフェドEgtved)もある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「泥炭層遺跡」の意味・わかりやすい解説

泥炭層遺跡
でいたんそういせき

泥炭層とは、ミズゴケスゲアシ、落ち葉などの植物遺体が水中に堆積(たいせき)し、腐敗バクテリアの作用を受けることなく残された土層をいう。そのため土層内では有機物質の保存がよく、植物性遺物(木製品、漆製品のほか、種子、毬果(きゅうか)、草木)や、動物ならびに昆虫なども遺存し、遺跡形成当時の自然環境を知るうえで重要な資料が得られる。ヨーロッパでは中石器時代以後、北欧に多く遺存し、とくにデンマークのマグレモーゼMaglemose遺跡やトールンドTollund遺跡は有名である。

 日本では縄文時代前期よりみられ、福井県若狭(わかさ)町の鳥浜貝塚、千葉県南房総(みなみぼうそう)市の加茂遺跡、埼玉県さいたま市岩槻(いわつき)区の真福寺(しんぷくじ)遺跡、さいたま市の寿能(じゅのう)遺跡などが知られる。青森県には、つがる市木造(きづくり)の亀ヶ岡、八戸(はちのへ)市の是川(これかわ)(中居)、平川(ひらかわ)市の八幡崎(やわたさき)、石郷(いしごう)、板柳(いたやなぎ)町の土井(どい)Ⅰ号などの各泥炭層遺跡があり、いずれも縄文時代晩期に属する。中居遺跡では78点の木製品、籠(かご)、編物、樹皮、蔓(つる)製品が出土し、亀ヶ岡遺跡では58種に及ぶ植物と29種の昆虫遺体がみられ、石郷遺跡からは籃胎漆器(らんたいしっき)の内面に織物状の痕跡(こんせき)をもつものも発見されている。

[村越 潔]

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