帯状形漁網を直線またはかぎ形あるいは波状に張り下し,海流や風波のままに自由に流す刺網をいう。漁網は,浮子(あば)はあるが沈子(いわ)を欠くものが多く,沈子を有するものもその沈降力ははなはだ少ないのが普通であった。網を流し,それにともなって船を移動するので,内海・沿岸よりは沖合で使用するに適している。この種の漁業は刺網漁業中最も進歩したもので,河川で行われたサケ・マス流し網を除くと,イワシ,マグロ,サワラ,トビウオ,サバ,サンマ,カツオなどの各流し網漁業はその代表的なものとして,いずれも江戸中期から明治期にかけて開始されたものが多いが,盛んになったのは明治後期以降のことである。イワシ流し網漁は越後では江戸中期から後期にかけて相当盛んで,羽前西田川郡豊浦村湯野浜では,天明年間(1781-89)越後よりイワシ流し網が伝来したが,一般に使用されたのは明治初年以降であったといわれる。丹後与謝郡伊根浦ではこの漁を追置と称し,明治初年に開始したといい,加賀・能登・越中沿海では少なくとも江戸後期にはすでにこの漁業が相当盛んであったようである。千葉県などでは現在〈小晒(こざらし)網〉と称し,外房総(4~7月),東京湾(3~6月)でマイワシ,ウルメイワシ,カマス,アジ,サバを漁獲しており,操業は夜間,日没時より始めて日の出時まで数回行われている。投揚網は人力で玄側よりたぐり上げたり下ろしたりするが,使用網反数は10~20反,1反の長さは15~60mで地区により異なっている。漁獲量は普通,一夜操業で110~190kg程度。乗組員は0.5トン4馬力船で4人,3トン10馬力船で10人くらいとなっている。
執筆者:秋田 俊一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…網漁業とは,いうまでもなく漁網を用いて魚を捕る漁業一般をいうが,漁獲技術における位置づけについては〈漁労文化〉の項目に譲り,ここでは日本における網漁業の歴史の概観に限定する。 日本の漁業が産業の一部門と認められるまでに発達したのは江戸時代以降のことである。とくに江戸時代中期以降かなり急速に発達し,幕末期までに代表的な沿岸漁業が出そろい,そのまま明治期に持ち越された。その漁業生産を担った漁具は漁網,釣具,特殊漁具に三大別できる。…
… 刺網(刺網漁業)は鳥をとらえる霞(かすみ)網と同じように,見えにくい網を魚道に張っておいて網目に魚を刺させ,絡ませるもので,表層性のトビウオ,サンマ,イワシ,ニシンなどを対象とする浮刺網と,カレイ・ヒラメ類などの底魚を対象とする底刺網とがある。いずれも,いわ,錨などで固定するが,固定せずに,潮流に任せて流しておくものを流し網という。サケ・マス流し網が代表的なものである。…
…浮魚,イカなどを対象とした浮刺網,底魚,エビ,カニなどを対象とした底刺網がある。また,錨などで固定して使う場合と,固定せずに使う流し網とがある。網の高さは対象種の遊泳層の厚さ,群れの密度によって決まり,長さはかける場所,取扱いの難易によって決まる。…
※「流し網」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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