江戸前期の仮名草子作者,仏典注釈者。別名は松雲,瓢水子,羊岐斎,昭儀坊など。浄土真宗の僧。摂津国島上郡三嶋江(現,高槻市)の浄土真宗大谷派の末寺,本照寺の住職の一子として生まれた。父の名は不詳。父の弟,東本願寺の家臣西川甚七郎宗治が,教如上人の政治的中立主義の方針に反して,徳川方の藤堂和泉守配下に走ったため,兄の本照寺は宗門追放,寺地召上げの処分を受け,還俗し浪々の生活を送るようになった。了意の幼少年期についてはつまびらかではないが,壮年期を迎えるまで辛酸をなめる浪人生活を送らなければならなかったことは想像に難くない。浅井姓はおそらく母方の姓で,当時世間一般には通じており,書籍目録の作者付には見られるが,著書の署名には用いられていない。大坂に居を構えた浪人時代の万治・寛文(1658-73)にかけて仮名草子を次々と発表する。この時期が,仮名草子作者として了意がもっとも活躍したときである。寛文末ごろ出家して大谷派に帰参,1675年(延宝3)に,以前から署名に用いていた本性寺を紙寺号(名義のみの寺号)として許される。同じころ京都二条菊本町正願寺の2世住職を襲うが,著書の署名や,一般対外的には正願寺は用いず,本性寺を名のった。このころから仮名草子の創作は減り,浄土真宗の一学僧,一唱導家としての生涯を送るべく,仏書の著述に傾注した。元禄4年元旦,80歳前後で急逝した。1973年,大谷派から学階第二位嗣構が追贈された。
浪人時代から没するまでの約50年間,あらゆる分野の仮名草子,仏書の筆をとり,盛名は全国的で,もっとも早い職業作家の一人と考えられる。真偽未決のものも含め,その著作は仮名草子類約30部280巻,仏書約20部230巻の多きが数えられる。名所記・道中記的な《東海道名所記》《江戸名所記》《京雀》,怪談集《御伽婢子(おとぎぼうこ)》《狗張子(いぬはりこ)》,教訓書《堪忍記》《大倭(やまと)二十四孝》,随筆的な《可笑記評判》,実録書《かなめ石》《武蔵鐙(あぶみ)》《鬼利至端(キリシタン)破却論伝》,咄本《狂哥咄》などが知られているが,〈博識強記〉といわれるほどの豊かな学識,平淡な文体,寛容の精神,大衆に対する共感と同情,現実社会への慷慨などにささえられ,いずれも読者の好評を博した。なかでも滑稽遍歴談《浮世物語》には,西鶴の《好色一代男》の先駆的要素と,痛烈な現世批判をみせる警世的要素との結合がみられ,作品としては未熟ではあるが,高く評価されている。また《御伽婢子》《狗張子》は,近世怪異小説の一時期を画したもので,後代への影響も大きい。しかし,了意の究極の目的は《三部経鼓吹》に〈吾レ昔学ニ志シテヨリ,唱導ヲ懐(おも)フ〉とみずから記しているように,唱導にあり,たとえば怪異小説は唱導方便の作であり,教訓書も同じく唱導の目的で書かれたものと考えられよう。当時の作家の中では,了意の作品は質・量ともに群をぬき,彼をして近世文学の一巨人と称するにやぶさかでない。
→仮名草子
執筆者:松田 修
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江戸前期の仮名草子作者。浅井松雲了意、本性寺昭儀坊了意などとも称する。慶長(けいちょう)末年(1610ころ)、摂津国三島江(大阪府高槻(たかつき)市)にあった浄土真宗の末寺本照寺の住職の子として生まれる。父の追放に伴い、浪々のうちに青壮年期を過ごしつつ、仏学、儒学、和学などの修業を積んだと推定される。1659年(万治2)ごろから仮名草子を執筆刊行し始め、『堪忍記』(1659)、『東海道名所記』(1659)、『可笑記評判』(1660)、『江戸名所記』(1662)などを続々と刊行し、仮名草子の第一人者の位置を確保する。さらに、明暦の江戸大火のルポルタージュである『むさしあぶみ』(1661)、現実批判を笑いのなかで行おうとする『浮世物語』(1665ころ)、中国の怪異小説『剪燈新話(せんとうしんわ)』を翻案し日本の奇談を集めた『御伽婢子(おとぎぼうこ)』(1666)などの秀作を発表し、後世へ多くの影響を与えている。しかし、仮名草子に力を注いだ時期は1660年代で終わり、1670年代以後は、『三部経鼓吹(くすい)』(1668~1674)をはじめとする大量の仏書や多方面にわたる啓蒙(けいもう)・解説書などを精力的に書き、同時に仏教の唱導者としても活躍を続け、元禄(げんろく)4年1月1日、80歳前後で没した。
[谷脇理史 2017年5月19日]
『北条秀雄著『改訂増補 浅井了意』(1972・笠間書院)』▽『北条秀雄著『新修浅井了意』(1974・笠間書院)』
(樫澤葉子)
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…仮名草子,地誌。浅井了意作。1662年(寛文2)刊。…
…仮名草子。瓢水子松雲(浅井了意)作。13巻13冊。…
…8巻8冊。浅井了意作。1659年(万治2)刊。…
…5巻5冊。浅井了意作。1672年(寛文12)刊。…
…7巻7冊。浅井了意作。1665年(寛文5)刊。…
…仮名草子。浅井了意作。6巻6冊。…
…全12巻。著者は浅井了意か。1675年(延宝3)初版刊行。…
…仮名草子。浅井了意の作か。1661年(寛文1)刊。…
…2巻2冊。浅井了意作といわれる。1661年(寛文1)刊。…
…24巻12冊。浅井了意作といわれる。1665年(寛文5)刊。…
※「浅井了意」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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