昼夜で風の方向が反転する局地的な風系の一種。晴天の日、熱帯および温帯地方の海岸地方で発達する。日中は海岸から内陸に吹き込む海風となり、夜間は内陸から海洋に吹き出す陸風となるが、一般に海風のほうが顕著で、低緯度地方では毎秒10メートルを超すこともある。海陸風は、陸地と海洋が接している地域で、日中の太陽放射と、夜間の放射冷却の影響が海洋と内陸で異なっているため、両地域に温度差が生じ、そのため局地的に対流性の風系として吹くことになるのである。
温帯地方では海陸風は主として春、夏、秋に吹き、夏がもっとも顕著で、冬はよほど晴天で暖かな日でないと海風はほとんど吹かない。局地的な風の変化が顕著なため、海陸風に局地的名称がつけられている所もある。たとえばスペイン北東部のカタルーニャ地方では海陸風をマリナダMarinadaとよんでいる。熱帯地方では、乾期にはほとんど毎日海陸風が吹いている。しかし雨期には弱くなる。
海陸風は一般に晴天の日によく発達する。ブルガリアで調べたところによると、雲量が0~5のときは出現頻度90%、雲が多くなり6~8になると40%となり、9~10で27%と少なくなっている。夏の晴天時、海風は内陸へおよそ40キロメートルほど侵入していく。たとえば関東地方南部では海風は内陸部へ40キロメートルあたりまで吹き込んでいる。
高緯度地方の海風は前線性の形をとって内陸に侵入していく場合が多く、午前中に海風の吹き出す時間は低緯度地方より遅れ、10時過ぎごろとなっている。北海道などでは、この海風にのって海霧が内陸部に侵入してくる。熱帯の海洋上のサンゴ礁の上にも海陸風は発達する。
海風と陸風の交替時、一時無風状態になるが、朝夕のこの無風時を凪(なぎ)という。朝方の凪が終わると、海風は、初め数十メートルの高さから、しだいに垂直方向と水平方向に拡大してゆき、海風の最盛時には海風の高さは1キロメートルを超す。その上空は陸風になっているが、その風速は地表の海風よりははるかに弱い。
規則的な海風、陸風の循環の乱れるときは、天気の崩れる前兆であり、観天望気の一つの注目点である。
[根本順吉]
海岸地域では,日中は海から陸へ向かう風,夜間は陸から海へ向かう風が吹く。前者を海風(うみかぜ),後者を陸風(りくかぜ)といい,このように1日を周期として海風と陸風が交代する風系を海陸風と呼ぶ。海陸風は規則的な日変化を示すため,海岸域における顕著な現象として昔から広く知られていた。海陸風は規則的な現象であるとはいうものの緯度,季節,天気,海岸地形,地表面の状態や起伏などによって,その現れ方は種々様々である。穏やかな晴天日には,海岸地域で日の出後数時間以内に海風が始まり,日中数m/sの海風が吹き続き,日没後まもなく終わる。その後,陸風が現れ,日の出後数時間以内に消滅し,やがて再び海風が出現する。この海陸風は通常海岸線から数十kmの地域に限られるが,熱帯地方は強力で,海岸線から100kmを超える場合もある。曇天日には海陸風の交代時は遅れ,風速も小さくなる。海風や陸風は地上数百mの高さまで見られ,その上では弱い逆向きの反流が現れる。海風は陸風より強く,その高さも高いことが多い。一般に日中は陸地面の温度が海面のそれより高くなる。したがって,陸上の地面付近の気温は海上のそれより高く,気圧は逆に陸上で低く,海上で高くなり,海上の空気は陸上へ,陸上の空気は上昇して上空で海上へ向かう。夜間になると,海・陸面の温度差は逆転し,海風循環が消滅して陸風循環へ転ずる。
→朝凪(あさなぎ)
執筆者:浅井 冨雄
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…台風域内の風速分布は図14に示すように,台風の中心付近でV/R=一定(Vは風速,Rは中心からの距離),その外域でVR=一定のランキンの複合渦となっていると考えてよいであろう。
[小規模な風系]
(1)海陸風 天気が良く,気圧傾度が弱くて一般流が小さいとき,昼間は陸上が海洋に比較して相対的に暖かく,夜は逆になる。したがって日中は海洋から内陸に向かって風が吹き(海風),夜間は内陸から海洋へ吹き出す(陸風)。…
※「海陸風」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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