歌舞伎の脚本・演出用語。男女の性愛を表現する役者の演技術,場面,または演目。歌舞伎には初期からエロティックな描写を演技・演出することが行われた。傾城買いの狂言で客と遊女の口説(くぜつ),盃事,抱擁などの技法があり,京坂の歌舞伎に〈やつし〉の演技の一種として行われてきた。〈和事〉の演技者のうち,とくに官能的な芸を特色とする役者が〈濡事師〉とよばれた。〈濡れ場〉は公衆の面前で演ずる性質上,扇情的とはいえ限度があり,別室に入ったり屛風を引き回すなどで姿を消し,乱れた姿で再登場して暗示するなどで,観客の官能をそそる方法をとっている。また音楽が用いられ,動きも様式化されるなど芸術的な昇華があって必ずしも露骨ではなかった。天明・寛政(18世紀末)ごろから写実的な要素が強まり,化政期(19世紀初頭)にはかなり卑猥なシーンも上演され,さらに幕末期には相当きわどい場面も演じられたというが,明治に入っての文化政策により影をひそめた。濡れ事には〈髪梳き〉が一つのパターン化された演出となり,愛する男の髪を女が梳くシーンが性愛表現の一つとして定着した。また浄瑠璃では〈クドキ〉によって,女性が男性に感情を訴える演出もある。濡れ事,濡れ場の代表例としては《姻(こんれい)袖鏡》の宗玄庵室での無理クドキ,《廓文章》の炬燵(こたつ)の口説,《いもり酒》の夕しでと女之助の濡れ場,《法界坊》のおくみの無理クドキ,《小猿七之助》の滝川を手ごめにする場面,《切られお富》の滑川辻堂の場などがあげられる。
執筆者:小池 章太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…もと《曾我物語》にある大磯の虎と十郎との髪梳きが,江戸歌舞伎の曾我狂言の中で洗練され,〈不破名古屋〉の狂言の葛城(かつらぎ)と不破伴左衛門にも使われて,繰り返し演じられた。権八と小紫,三千歳と直侍などの濡れ事にもこの局面があり,見せ場の一つになっている。(b)女性がひとりで髪を梳くもの。…
※「濡れ事」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
日本の上代芸能の一つ。宮廷で舞われる女舞。大歌 (おおうた) の一つの五節歌曲を伴奏に舞われる。天武天皇が神女の歌舞をみて作ったと伝えられるが,元来は農耕に関係する田舞に発するといわれる。五節の意味は...
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