灰汁(読み)あく(英語表記)lye

精選版 日本国語大辞典 「灰汁」の意味・読み・例文・類語

あく【灰汁】

〘名〙
① 灰を水につけてできた上澄みの水。布を洗ったり、染色するのに用いる。
古今(905‐914)雑体・一〇四四「紅に染めし心もたのまれず人をあくにはうつる蝶なり〈よみ人しらず〉」
植物なかにふくまれる、渋味・えぐみのもとになる成分。→灰汁が強い①。
雑俳・田みの笠(1700)「そまりけり・芋は牛房のあくに負け」
③ 肉などを煮たとき煮汁表面に浮く白い泡状のもの。
④ 人の性質や文章などに感じられる、一種のしぶとさやしつこさ、嫌味。
※それから(1909)〈夏目漱石〉五「斯う云ふ兄と差し向ひで話をしてゐると〈略〉灰汁(アク)がなくって、気楽で好い」

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デジタル大辞泉 「灰汁」の意味・読み・例文・類語

あく【灰汁】

植物を焼いた灰を水に浸して得る上澄み液。アルカリ性を示し、古来洗剤漂白剤として、また染色などに用いる。
山菜野草などに含まれる、渋み・えぐみなどのもとになる成分。「ウド灰汁を抜く」
肉などを煮たときに、煮汁の表面に浮き出る白く濁ったもの。「スープ灰汁をすくい取る」
独特のしつこさや粘っこさなどがあって、なじみにくい個性。「灰汁の強い人」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「灰汁」の意味・わかりやすい解説

灰汁
あく
lye

一般には植物の灰を水に浸し、その上澄み液をとったものをいう。もっとも古くから知られていたアルカリであり、その語源アラビア語のqali(植物灰)に由来している(これに定冠詞alをつけたalqaliが語源)。アルカリ性を示し、洗浄作用があってよく汚れを落とすので、洗剤、漂白剤として、また染色などに広く用いられていた。陸の植物の灰からとった灰汁は炭酸カリウムが、また海の植物では炭酸ナトリウムが主として含まれている。

[中原勝儼]

食品のあく

調理上では、えぐ味、苦味、渋味などあまり好ましくない味やにおいなどの総称。木灰を用いて不快な成分を処理したことから、成分のことを意味するようになった。その成分は非常に多く、各種の物質が含まれる。植物ではホモゲンチジン酸、シュウ酸、タンニン類、配糖体など、動物性食品では脂肪酸化物、可溶性タンパク質などが含まれる。あくの成分は食品の個性的な風味の一部でもあるので、調理では完全に除去するのではなく、適度に「あく抜き」するようにくふうがされる。灰汁(あくじる)は、葉緑素を含む野菜類の色止めや、野草類の有機酸に由来する「あく抜き」、山菜など食品の堅い組織の軟化などに役だつ。

[河野友美・山口米子]

あく抜き

野草などには「えごい」「えぐい」ということばを使うこともあるが、あくの強いものが多いので、灰汁、重曹(炭酸水素ナトリウム)、塩、酢などを加えた水を用いて、あくを除去してから料理する。現在木炭の使用が少ないためその灰を用いる灰汁よりは、重曹、焼きミョウバンが多く使われている。ダイコン、カブを煮るとき、米のとぎ汁か焼き米少々を加えると、くせがとれ、白く早く柔らかになる。サトイモは塩でもみ、水から煮て、水洗いすると、ぬめりとあくがとれる。肉類を煮込む場合などには、表面に浮かぶ泡をあくとしてすくい取る。かつお節やコンブのだしをとるときにも、沸き立ったとき、表面の泡をとるのはあくを切るためである。また、とくにあく抜きということばを用いていないが、イワシ、サンマなどの魚類を焼くときは、強く加熱して表面を焦がし、不純な脂肪などを焼いて除去する。ウナギの蒲(かば)焼きをつくるとき、関西風では蒸さないで直(じか)焼きをするが、これは、強く加熱して、表面の、いわばあくを焼き切る方法である。関東風ではさらに蒸すが、これもあく抜きの目的が加わっているのである。

[多田鉄之助]

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普及版 字通 「灰汁」の読み・字形・画数・意味

【灰汁】かいじゆう(くわいじふ)

あく。〔水経注、水〕中に井り。其の水色、なり。なる汁の如く、取りて飮粥を作るに、悉(ことごと)く皆金色にして、甚だ香あり。

字通「灰」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「灰汁」の意味・わかりやすい解説

灰汁【あく】

植物性の灰(木灰,わら灰など)を水に浸した上澄み液。主として炭酸カリウムを含み,そのアルカリ性を利用して洗濯・染色などに古くから利用された。語源的にはアルカリはアラビア語のal-qali(灰)から生じたもの。なお植物性食品に含まれる,えぐみ,にがみ,しぶみの成分であるアルカリ塩,アルカロイドを抜くことを〈あく抜き〉と表現する。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「灰汁」の意味・わかりやすい解説

灰汁
あく
lye

草木灰を水で抽出して得られるアルカリ液。炭酸カリウムを含み,かつて洗濯,漂白,染色に使われた。

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