炎症(読み)えんしょう

精選版 日本国語大辞典 「炎症」の意味・読み・例文・類語

えん‐しょう ‥シャウ【炎症】

〘名〙 細菌薬品、物理的な作用などのために、身体一部分赤みはれ、熱、痛み、機能障害などを起こすこと。〔医語類聚(1872)〕
[補注]中国渡来の伝道医師合信(ホブソン)の造語。→「いえん(胃炎)」の語誌

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デジタル大辞泉 「炎症」の意味・読み・例文・類語

えん‐しょう〔‐シヤウ〕【炎症】

生体微生物侵入や物理的・化学的刺激などを受けて、発熱発赤・はれ・痛みなどの症状を呈すること。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「炎症」の意味・わかりやすい解説

炎症
えんしょう

古代ギリシア医学の時代から注目されていた病変で、「燃える」という概念のことばが用いられ、実際には発赤(ほっせき)、腫脹(しゅちょう)、熱感、疼痛(とうつう)、機能障害がおもな徴候とされている。臓器または組織名に「炎」という字をつけ、ラテン語またはギリシア語では-itisという接尾語をつけるのが習慣である(腎炎(じんえん)nephritis、肝炎hepatitisなど)。炎症の定義としては、生体の細胞、組織になんらかの変化、すなわち損傷をもたらす侵襲に対する生体の応答(反応)の表現である、とされている。具体的には局所の細胞組織の受け身の変化と、循環障害、ことに血管内の血漿(けっしょう)や血球がその場に異常に出る現象を意味する滲出(しんしゅつ)、およびその部の細胞増殖を総合して、炎症の語が使われる。とくに滲出傾向の著明なものを滲出性炎と一括し、滲出したものの中に線維素を多く含んでいるものを線維素性炎、白血球を多く含んでいるものを化膿性(かのうせい)炎とよぶなど、種々の型に分類されている。また炎症の場における細胞増殖としては、リンパ球、単球、形質細胞などを除けば、細網内皮系(網内系)細胞の増殖が特徴であり、肉眼的には結節状の病変、すなわち肉芽腫として認められるので、肉芽腫性炎とよばれる。これには結核症、梅毒、ハンセン病などが含まれている。また肉芽腫性炎は、従来から、病原菌により特殊病巣を形成するとの意味から、特殊性(特異性)炎とよばれる習慣があった。肉芽腫性炎といっても原則としては滲出から始まるもので、時間の経過とともに網内系細胞の増殖による肉芽腫を形成するわけで、病因の質、量および個体、局所の条件などの組合せによって複雑な変化を呈する。

[渡辺 裕]

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百科事典マイペディア 「炎症」の意味・わかりやすい解説

炎症【えんしょう】

ギリシア・ローマ医学以来の古い言葉で,発赤,はれ,熱,痛みを4特徴とする病変。今日では物理的・化学的外力や微生物など,なんらかの刺激に対して生体組織の示す一種の防衛反応とされている。形態学的には,1.軽い変性から壊死(えし)に至る退行性病変,2.充血,うっ血,血行静止などの循環障害,3.血管が拡張(炎症充血)し白血球ことに中性好性白血球が血漿(けっしょう)成分とともに血管外に出る(浸出),4.繊維芽細胞,細網組織,細胞間組織の増殖が起こる。これらの防衛反応が前記4特徴を起こすわけである。炎症は非常に多くの病気に見られる病変であるが,特殊炎といって,癩(らい)菌,結核菌など特定の病原体が特有の炎症を起こすものや,アレルギー性の炎症もある。→アレルギー反応

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「炎症」の意味・わかりやすい解説

炎症
えんしょう
inflammation

有害刺激に対する生体の自然の防衛反応であり,組織の変質,充血と滲出,組織の増殖を併発する複雑な病変。ギリシア医学では,赤くはれて熱を発し,何かが燃えているようにみえたので「炎」の語が用いられた。ローマのケルススは,発赤 rubor,腫脹 tumor,発熱 calor,疼痛 dolorの4つの orを炎症の主徴とする,病気そのものと考えていた。しかし 18世紀になって,J.ハンターが,炎症は基本的に局所の防衛反応であることを明らかにした。のちになって機能の障害がつけ加えられて5つの徴候を表わすものが炎症であるとされた。肺炎とか中耳炎のように炎の字のつく病気,その他感染症など,日常の多くの病気は炎症に属する。

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世界大百科事典 第2版 「炎症」の意味・わかりやすい解説

えんしょう【炎症 inflammation】

炎症の〈炎〉は,肺炎,中耳炎,虫垂炎などと日常使われている言葉で,身体の一部分の器官の名前の後に付けて,その部分に起こった熱や痛みを伴う病気を示している。炎症とは,このように〈炎〉の付く病気や,また〈炎〉の付かない病気でも日常よくみる“はれもの”とか“できもの”のように熱,痛み,はれを伴う病気の総称であり,腫瘍とか循環障害とか奇形などとは異なった疾患群を示す医学用語である。
[炎症の研究史]
 炎症の概念はギリシア医学の昔からプレグマphlegma(蜂巣炎,たとえば“できもの”が皮下組織に幅広く広がった状態)の言葉として使われており,この言葉は“燃える”という概念を示していた。

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生活習慣病用語辞典 「炎症」の解説

炎症

細菌やウイルス、外傷などの物理的作用、また薬物などの化学的作用により起こる生体の防御反応で、発熱、発赤、腫脹、疼痛などの症状があります。

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栄養・生化学辞典 「炎症」の解説

炎症

 生体の局所に傷などの諸種刺激が加わって起こる病変で,発赤,はれ,発熱などが起こること.生体防御反応の一種.

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世界大百科事典内の炎症の言及

【カタル】より

…粘液を分泌する粘膜細胞に炎症が起き,その結果多量の粘液分泌を起こす状態をいい,このような炎症をカタル性炎catarrhal inflammationという。ギリシア語のkatarroos(下へ流れる)からきた言葉である。…

【化膿】より

炎症の過程に伴う現象の一つ。組織の損傷部に多量の好中球が集まり,組織の融解が起こり,局所に濃厚な液を貯留することをいう。…

【病変】より

…これは,病気に対する生体の態度が受動的であるか能動的であるかによって病変を大別する立場で,前者を退行性病変,後者を進行性病変とする。これに加えて,生れながらの病的状態である奇形,血液やリンパ液の流れの異常を契機とする循環障害,病因に対する防御反応としての炎症,細胞増殖機構の異常の結果起こる腫瘍の6群を基本的病変としている。
[伝統的な病変分類]
 (1)退行性病変は,障害因子の作用が生体の反応よりも強いために起こる変化であって,極型は死である。…

※「炎症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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