無宿(読み)ムシュク

デジタル大辞泉 「無宿」の意味・読み・例文・類語

む‐しゅく【無宿】

住む家がないこと。また、その人。やどなし。
江戸時代、百姓・町人が駆け落ち・勘当などにより人別帳から名前をはずされること。また、その人。無籍。
[類語]宿無し無宿者浮浪者路上生活者風太郎ホームレスルンペン

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精選版 日本国語大辞典 「無宿」の意味・読み・例文・類語

む‐しゅく【無宿】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 住む家のないこと。また、その人。やどなし。
    1. [初出の実例]「近年無宿に成たる新薦被りの類をも善七手下に為すこと如何あるべき」(出典:政談(1727頃)一)
  3. 罪を犯したために戸籍を除かれること。人別(にんべつ)からはずされること。また、その人。無籍。
    1. [初出の実例]「証拠に立つ者もなければ、無縁法界の無宿(ムシュク)仲ケ間へ入られて」(出典:談義本・根無草(1763‐69)前)

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改訂新版 世界大百科事典 「無宿」の意味・わかりやすい解説

無宿 (むしゅく)

江戸時代,百姓・町人などで人別帳から除かれ(帳外(ちようはずれ)という),居所を定めず放浪し,無頼を働く者を無宿といい,やくざ仲間や犯罪人などは生国を冠して,上州無宿何某などと呼んだ。その原因は多様であるが,貧窮による欠落かけおち)や家出のほか,親から久離勘当されたり,博打(ばくち),窃盗,刃傷(にんじよう),失火などの罪によって軽追放,所払(ところばらい)などの刑に処せられた場合などがある。無宿には大別して,無宿野非人(のひにん)と呼ばれる乞食,物もらいのような存在と,もうひとつは長脇差を差した浪人体の者や博徒的存在の者があった。無宿人が江戸などの都市およびその近在に多数徘徊し,社会不安を起こすようになったのは18世紀後半の田沼時代からで,幕府は1778年(安永7)無宿人を捕らえて再犯のおそれある者は懲らしめのため佐州水替人足佐渡金山の水替人足)に使役することを始め,以来数次にわたり長崎,大坂などの無宿を含めて佐渡送りにしている。また1790年(寛政2)には火付盗賊改長谷川平蔵の建議によって,無罪の無宿人に生業を与えて更生させるための施設として江戸佃島に人足寄場(にんそくよせば)を設け,油絞りなどの手業を習役労働させ,身元引受人さえあれば出所を許した。しかし,これらはいずれも対症療法としても手ぬるく,効果はほとんど上がらなかった。
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百科事典マイペディア 「無宿」の意味・わかりやすい解説

無宿【むしゅく】

江戸時代,宗門人別帳から除かれた者。無宿となるのには,家出や親による勘当,罪を犯して軽追放,所払(ところばらい)の刑に処せられたなどさまざまな理由があるが,商品経済の進展や凶作・飢饉を背景とした貧窮による欠落(かけおち)の増大を主因として,18世紀後半以降,大量の無宿人が江戸などの都市および近在に流入・徘徊した。また,農村を渡り歩く博奕(ばくち)打などの無頼の遊民もあった。江戸では無罪の無宿人は人足寄場に収容し,再犯のおそれのある者は捕らえて金山の水替人夫として佐渡に送るなど,幕府は対策を講じたが,効果はあまりなかった。→博打
→関連項目雲助都の錦

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「無宿」の意味・わかりやすい解説

無宿
むしゅく

無宿者ともいう。江戸時代、欠落(かけおち)、勘当(かんどう)、追放刑などにより、人別帳(にんべつちょう)(戸籍)から記載を削られた者を総称していう。宿とは住所を意味し、無宿とは定住の場所をもたぬ者のことであり、帳外(ちょうがい)(ちょうはずれ)ともいった。出身の国または町名を冠して常州無宿、浅草無宿というようによぶ。江戸中期以降増加し、天明(てんめい)の飢饉(ききん)以後激増した。とくに江戸では、周辺諸国から離村した貧窮農民が流れ込み治安を脅かした。幕府は無宿の横行に手を焼き、追放刑を制限する一方、これを捕らえて佐渡金山の水替人足(みずかえにんそく)に送り、また江戸の石川島に人足寄場(よせば)を設置して更生を図った。1805年(文化2)には関東取締出役を設置し、関東地方の無宿、とくに博徒集団の掃討弾圧が試みられたが、博徒は役人となれあい、その手先となって他の博徒と勢力を争うことが多く、実効はあまりあがらなかった。明治維新以後、無宿は労働力として吸収されるが、一部は依然として犯罪人口として残ることになる。

[藤野泰造]

『今川徳三著『江戸時代無宿人の生活』(1973・雄山閣出版)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「無宿」の解説

無宿
むしゅく

江戸時代に人別帳から除外された者。久離・勘当・欠落・追放刑など無宿になる経緯は多様である。そのため無宿・野非人(のひにん)といわれる乞食同様の者から,江戸後期に社会問題となった長脇差を帯した無宿者まで実態にも幅があった。無宿は,人返しされるべきものであったが,飢饉時などに無宿・野非人があふれたときには,臨時の無宿狩込みが行われた。また人返しできない無宿を収容する施設として,寛政の改革で人足寄場が設置された。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「無宿」の意味・わかりやすい解説

無宿
むしゅく

江戸時代,人別帳 (→人別改 ) から除かれ,一定住居正業をもたなかった浮浪人のこと。原因は欠落 (かけおち) ,家出や失火,ばくち,軽犯罪などによる追放であるが,中期以降は貧窮農民の離村,都市流入により激増した。幕府,諸藩更生施設の設置,帰農策などをとったが効果はあがらなかった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「無宿」の解説

無宿
むしゅく

江戸時代,住居や生業が一定せず,人別帳にも無記載の浮浪人
非人・乞食を含む場合もある。天明の大飢饉以後急増。幕府はその取締りに苦心し,寛政の改革では石川島に人足寄場を設けるなど無宿者の更生につとめた。

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デジタル大辞泉プラス 「無宿」の解説

無宿(やどなし)

1974年公開の日本映画。監督:斎藤耕一、脚本:中島丈博、蘇武道夫、撮影:坂本典隆。出演:高倉健、勝新太郎、梶芽衣子、藤間紫、山城新伍、栗崎昇、中谷一郎ほか。フランス映画『冒険者たち』をモチーフとする。

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世界大百科事典(旧版)内の無宿の言及

【関東取締出役】より

…関東代官の手付,手代の中から選任され,勘定奉行直属下に編成され,幕府直轄領および私領にもその警察権を行使した。18世紀の後半とくに天明の大飢饉以降,関東の農村における農民層の階層分化は激化し,巨大な富を蓄積する豪農層の成長する反面,潰れ百姓,水呑,日雇,出稼,職人,零細な農間余業者,あるいは無宿という,いわゆる没落農民が広範に形成されるようになった。とくに無宿,博徒,渡世人とよばれた遊民化した浮浪人層の増大は,領主支配の秩序を脅かす不穏勢力となってきた。…

【刑罰】より

…また町および村は自治的地域団体として軽い刑罰を行ったが,村の村八分はよく知られている。江戸時代後半期には,人別を削られた無宿が犯罪人口としてあらわれ,幕府はその取締りに苦慮した。その対策として,1778年(安永7)に江戸に無宿養育所を設け,90年(寛政2)には佐渡に送って鉱山で使役する佐州水替(みずがえ)人足の制度が始まった。…

【佐州水替人足】より

…江戸幕府が無宿対策の一つとして,逮捕した無宿を佐渡に送り,金銀山の水替労働に使役した制度。1778年(安永7)老中田沼意次の幕閣のもと,元佐渡奉行の提案により,逮捕した悪質の無宿を懲らしめのため佐渡に送ったのが最初である。…

【帳外】より

…江戸中期以降,行跡悪く親や兄弟,親類などに難題がかかるのをさけるため,〈宗門人別帳〉からはずして,村を追放された者などをいう。無宿ともいう。当時は刑罰が連座制であるため,不法行為を行うおそれのある子をもった親は,その子を勘当し,さらに人別帳からの抹消を願い出て公認されると,その子は帳外となる。…

【追放】より

…刑期の定めはなく,原則として無期であるが,実際上は(しや)によって刑の量定がなされた。被追放者は従来の生活圏から切り離され,無宿となってあるいは街道筋を徘徊し,あるいは都市に流れて犯罪を重ねた。江戸時代後期にはこのような弊害が表面化し,追放刑の刑罰としての機能は著しく損われた。…

【潰百姓】より

…惣作地については〈村並年貢諸役相務め,作徳の内種肥代を渡し,其余分は地頭へ納め,作手間は村役にいたす定法〉(《地方凡例録》)とされ,耕作および年貢諸役を村が負わされていたが,潰百姓の跡地の多くは耕作放棄され,手余地(てあまりち)となった。とくに中期以降,潰百姓が続出して手余地が増加し,貢租収入の減少をもたらし,他方,彼らが離村して博徒,無宿(むしゆく)者,都市細民などに化し,これが治安上の問題ともなり,政治問題化した。その対策が幕政改革の課題の一つとなり,人返し(ひとがえし)の令が出されたが実効を収めえなかった。…

【盗賊】より

… 近世社会になると,〈暴力犯から窃盗犯へ〉というシェーマが示すとおり,犯罪量の分布に顕著な違いがみられるようになる。イタリア戦争,宗教戦争,三十年戦争などの戦乱や経済変動のあおりをくって,社会の周縁部に没落していった乞食,浮浪者,無宿者による窃盗の事例が増大してくるのである。17世紀フランスの版画家ジャック・カロが描いた多くの作品に盗賊の群れのモティーフが使われたこともその証拠といえる。…

【人足寄場】より

…1790年(寛政2)江戸幕府が,増加する無宿,浮浪者に対して授産・更生の道をひらくと同時に,江戸市中から無宿者を一掃して治安の向上をはかることを目的として開設した一種の保安処分の施設。のち実質上,近代的自由刑の原初的形態たる性格をもつに至った。…

【博徒】より

…このほか,目明し(めあかし)と呼ばれる取締役人の手先を務める者たちがあった。彼らは百姓,町人から選ばれる場合もあったが,無宿者や犯罪者の中から採用される者もあった。目明し自身が博徒であり,かつ博徒取締りの任に当たるという矛盾をもっていた。…

【長谷川平蔵】より

…平蔵宣雄(後の京都町奉行)の嫡子として生まれ,西丸書院番を経て1786年(天明6)先手弓頭,翌年火付盗賊改加役を命ぜられる。89年(寛政1)定信が無宿人対策のため,数年前存在した無宿養育所に類する施設の開設を発案したとき,平蔵はみずからその任を引き受けることを申し出て具体案を上申し,定信とともにプランを作成した。翌年2月正式に人足寄場取扱を命ぜられ3ヵ月弱で施設を完成,収容者に生活を賄うに足る収入の得られる作業を与え,寛厳要を得た取扱いによって彼らの更生に努めた。…

【人返し】より

…まず江戸の人別改めが行われ,近年入居して裏店に住んでいる者を出生地などへ帰国させるという方針をうち出した。さらに町奉行所に担当者を置いて無宿,野非人(のひにん)(非人体の無宿)に対する大規模な刈込みを行い,江戸から追放するという強硬手段を実施した。天保期(1830‐44)の都市における社会・治安対策の一つとしての無宿,野非人の刈込みは,追放された野非人が半年で5000人にのぼるといわれるほどの,一応の成果をあげたともいわれている。…

【文政改革】より

…1827年(文政10)から29年にかけて,関東の農村を対象として実施された支配強化のための改革。19世紀前半の文化・文政期(1804‐30)の関東の農村は小農経営が解体し,高利貸資本としての豪農経営が展開する一方,土地を失い没落する農民が多数発生し,彼らが無宿人や渡世人として横行するようになった。このような遊民層の取締りを任務として設置されたのが1805年の関東取締出役であり,さらに,この取締り支配の方向を徹底させるために行われたのが文政改革である。…

【牢屋】より

…したがって,牢屋の管理は乱脈をきわめ,男女いっしょで,年齢による区別,罪の軽重による区別はなく,しかも不衛生で疫病の発生源となることも多かった。 今日的な意味での牢屋すなわち投獄自体を目的とする監獄は,封建社会から近代社会への移行期に,おびただしい数のマルジノー(周縁性的人間,乞食・浮浪・無宿者など)が社会に放たれるなかで生まれていった。絶対王権は,保護救済の名のもとに彼らを収容所(矯正院)に強制的に押し込めるか,浮浪自体を犯罪と規定して漕役刑や流刑に処した。…

※「無宿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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