重さを感じない状態。地球上に静止する物体は,地球の引力および地球の自転による遠心力を受けている。この二つの力の合力が重力となる。遠心力は赤道上で最大となるが,その大きさは地球引力の1/2900にすぎない。地球の引力は地球の重心からの距離の2乗に反比例するから,無限遠の距離にある物体に対しては地球の引力は0であり,他の天体からの距離も無限遠であればその場所での物体は無重力場,すなわち無重力状態にあるとみなせる。一方,塔から落下(自由落下)する容器中の物体や遠心力が地球引力と平衡している宇宙船内の物体,液中の浮力が引力と平衡している物体も重力場が働いていないようなふるまいをする。宇宙船も地球の重力中心に向かって自由落下しているのであるが,塔から落下する物体との差は,宇宙船の落下軌道が地球表面に到達しないような水平方向の初速度を保持していることにある。このような,塔からの落下容器内の物体や宇宙船内の物体は,容器に加わる重力の加速度と同じ加速度を受けて同一運動を行っているから,容器内では物体には重力が働いていないようにみえるのである。この状態を無重量状態と呼ぶ。ただし実際には,重力は働いているのであるから,無重力という表現は適切ではない。
無重量状態を作り出すには前述のような方法が利用されるが,浮力を利用する場合は液体との界面摩擦力が運動を支配し,自由落下や航空機の弾道飛行時では無重量状態の持続時間が短く,大気抗力のため残留加速度場が大きい。弾道ロケットの自由落下や宇宙船内では大気抗力が少ないため無重量状態は内部での運動がないかぎりきわめて良好で,地球上の重力場の10⁻6~10⁻7程度の低重力場が見かけ上得られる。
重力が働く地上では浮力による対流,沈殿という現象が現れるが,無重量状態ではこのような現象は起きない。また,単結晶作製の一方法であるゾーンメルティングでは,帯溶融の大きさが重力の加速度に反比例する。このようなことから,無重量状態は高純度結晶,地上では混合しない密度差の大きい金属の合金および地上では期待できない大型単結晶を作製することができると期待されている。スカイラブの実験では,水と油を混ぜて,よく振って乳濁液を作り,これが再び水と油に分離するまでの時間を測定したが,地上では数秒で分離する乳濁液もスカイラブ内では10時間以上分離しなかったことが報告されている。なお,無重量状態の人体への影響については〈宇宙医学〉の項目を参照されたい。
執筆者:山中 龍夫
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物体の重さが感知されなくなった状態。重さは、引力を受けている物体が、その支えとなっているものに及ぼす力として表される。したがって、物体とそれを支えるものとが自由に動く場合には、物体も、それを支えているものも、ともに同じように自由落下運動をするから、物体はその支えにまったく力を及ぼさず、物体の重さは全然感知されなくなる。すなわち重さがなくなったことになる。ここでたいせつなことは、物体も、それに相対するものも、自由落下をするという状態であって、それは、ほとんど真空とみられる宇宙空間でなければ実現されない。宇宙機が、ロケットの推進を止めて宇宙飛行をしているときは、まさにそのような状態にある。すなわち、宇宙機は重力だけに支配されて自由運動をしており、宇宙機の中の物体も、まったくそれと同じ自由運動をするから、物体は宇宙機に力を及ぼさず、重さは喪失したことになる。これは宇宙飛行の特色である。物体は宇宙機の中で浮いてしまうし、コップに入れた液体は逆さにしても落ちない。上下の区別がなくなるからである。その一方、重さはなくても液体の表面張力はそのままだから、液体はみな球状となり、宇宙機の中を浮遊する。また浮力や対流も、重さの差に基づくものだから、無重量状態ではそれらも消える。これは、均一な合金をつくるための非常に有利な条件であり、その利用に期待がもたれている。なお無重量のことを無重力とよぶことがあるが、重力そのものがなくなるのではないから、これは正確な言い方ではない。
[新羅一郎]
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…実際の人工衛星の飛行高度は,低いものでもその近地点高度は150km程度だが,熱圏を飛行する場合には,同様に大気による抗力を受け,また大気の流れの影響も受けるため,徐々にエネルギーを失っていき,最後には濃い大気に突入する。
[宇宙空間での人間活動と宇宙環境]
宇宙空間での人間活動に関する環境を考えるとき,人間の永久居住は20年または30年後の研究課題であるから,太陽活動の変動までを考慮する必要は当分なく,現実的な問題となるのは紫外線,X線,宇宙線,宇宙塵,無重量状態などである。紫外線は生物の皮膚に紅斑を生じさせたり結膜炎を発生させる原因となり,有人宇宙船の飛行高度では人間の皮膚が太陽からの紫外線にさらされると,地上の10~50倍の速度で紅斑ができるといわれるが,宇宙船および宇宙服の窓材料を適当に選べば,紫外線を宇宙船内の人間まで通過させなくすることは容易である。…
※「無重量状態」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
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